幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――救護室



酎「棗さん」



棗の肩に手を置いてゆっくりと語り始めた。



酎「覚えていないのかい棗さん…。試合はあんたが勝ったんだぜ」



棗「えっ!!?」



鉄山に敗れたと思っていた棗には寝耳に水であった。


棗「私が勝ったってどういう事!?」



酎「マジ凄かったぜ。鉄山の奴の鎧なんてなんのその。力で無理やりねじ伏せちまったんだからな」



酎はちょっと興奮気味であった。



棗「信じられない…。私は鷹襲波を鉄山の鎧によって返されて倒れてからの記憶がない…」



棗は困惑していた。鷹襲波を受けて倒れてから意識を失い、目を覚ましたら鉄山に勝ったと酎が言うのだ。困惑するなと言うのが無理な話しだ。



棗「どういう事なの…。全く分からない」



酎「本当にとんでもない妖気だったぜ。俺、もし今度棗さんと闘う事があったら勝てるかどうか分からないぜ」



九浄(鉄山を倒した時の棗は本当に凄かった。まるであの日の棗のように…)



難しい表情で棗を見つめる九浄。



棗「鉄山は今はどうしてるの?」



酎「あっ?鉄山なら棗さんにボコボコにやられて、のびて別の部屋で治療を受けている筈だ」



立ち上がった棗は鉄山の鎧化した部分には一切攻撃をする事なく、鎧のない箇所を徹底的に攻撃。しかも一カ所のみを狙って。



その攻撃力は今までの棗と大きく違い鉄山を凌駕していた。



元々、大きなダメージを負っていた鉄山をあっと言う間にその拳でねじ伏せた。


なんと鷹襲波を使う事なく鉄山を倒したのだった。



棗「やっぱり私には未だに信じられない……」



俯き困惑している棗に九浄は問い掛ける。



九浄「何か倒れてから変わった事はなかったか棗?」



棗「私は直ぐに意識を失って、それからの記憶がないのよ。変わった事など…」


分からないながらも倒れてからの事を真剣に思い出そうと考え込む。



………。



そして倒れてから一つだけ変わった事があった事を棗は思い出した。



棗「意識を失ってから夢を見ていた気がする。お父さんとお母さんが死んだ時の夢」



その言葉を聞いて九浄はハッとした。



九浄は直ぐに酎と雪菜に視線を移す。



九浄「酎、雪菜、すまないが少しの間、席を外してくれないか。棗と二人だけで話しがある」



酎「何でだよ九浄。いいじゃねーかよ」



棗が目を覚まして、一緒にいたい酎は不満を口にする。



九浄「頼む」



酎「う……」



九浄の目は真剣だ。その真剣な目に酎は只ならぬ何かを感じた。



雪菜「酎さん、少しの間だけ外に出ておきましょう」


雪菜にも促されて酎はしぶしぶ承諾した。



九浄「すまないな」



雪菜「いえ…」



二人は部屋を出ていった。


二人が出ていった部屋の扉を見ながら棗は九浄に問い掛ける。



棗「どうしたの九浄?酎と雪菜ちゃんがここにいたらいけないの?」



その棗の問い掛けには答えずに九浄は直ぐに本題に入った。



九浄「棗、オヤジとオフクロの夢を見たと言っていたがどんな夢を見たんだ?」



棗「さっきも言ったけど、お父さんとお母さんが死んだ時の夢よ。九浄も一緒にあの時にいたのだから分かるでしょう?」



九浄「見た夢をお前の口から聞きたいんだ」



棗は九浄が酎と雪菜を部屋から退室させてまで自分に何を聞きたいのか、その意図が分からなかった。



棗「……分かった」



棗は目を瞑った。



棗「森の中に幼い私がいた……」



そして夢の事をゆっくりと九浄に語り始めた。



――救護室の外



棗のいる部屋から退出した酎と雪菜はメイン会場と選手の達の休憩場に戻ろうと並んで歩いていた。



酎「九浄の奴、棗さんに何の話しがあるんだろうな?」



雪菜「私達に聞いて欲しくない話しのようでしたね……」



酎「全く、気になってたまらねーぞ」



余程気になるのか、酎はソワソワして明らかに挙動不審に見える。



雪菜「酎さん、何もそんなにソワソワしなくても…」


(和真さんにやっぱり似てる)



酎の姿を桑原と重ねて苦笑いを浮かべていた。



暫く歩いていると二人は休憩場まで戻ってきた。



「雪菜さ〜〜ん!!!!」


休憩場に響くかん高い大きな声。



勿論、桑原である。



ニコニコ顔で両手を振りながら走ってきた。



酎「桑原の奴じゃねーか。ハハハ、お前さんを早速見つけやがった。やっぱりお前さんは愛されてるな〜」


雪菜をからかうような目で見る酎。



雪菜(………!?)



恥ずかしさと照れから、その白い肌が真っ赤に染まる。



酎「ハハハ。そんなに照れるなって」



雪菜「恥ずかしいです……」



酎は笑いながらポンポンと雪菜の肩を叩くと「またな」と言ってその場から立ち去った。



酎と入れ替わる様に桑原が雪菜の所までやって来た。


桑原「雪菜さん、今のはもしかして酎じゃあないすか?二人で何処か行っていたんすか??」



雪菜「はい。試合が終わると同時に倒れた棗さんの事が気になって酎さんと、今は一緒にいない九浄さんと救護室まで様子を見に行ってきました」



桑原「そうだったんすか」


雪菜「和真さんにも声をかけようと思ったのですが、お姿が見えなくて…。和真さんも何処かに行かれていたのですか?」



桑原「ああ、俺がいなかったのなら多分、浦飯と飛影と一緒に行っていたときかな?」



雪菜「和真さんも何処かに行かれていたのですね。姿が見えないと思いました。和真さん達はどちらに行かれていたのですか?」



桑原「あ〜、実は俺達もですね……」



桑原が言いかけたその時だった。



赤い髪をした一人の男が二人に近付いてきた。



桑原・雪菜(??)



二人は近付いてくる赤い髪の男に気付いた。



桑原(何だあいつ?俺達の方に向かって歩いて来ているが誰だ?)



赤い髪の男は二人の前で足を止める。



そして足を止めると同時に口を開いた。



「ちょっといいか?」



桑原「あ?てめー、俺達に何か用か?」



雪菜を守る様に一歩前に出てきて赤い髪の男を睨む桑原。



「大した用ではないけどよー」



睨む桑原を気にする様子はないようだ。



桑原(何処かで見た顔だな…。誰だったけな〜)



桑原はジーっと赤い髪の男の顔を見つめる。



桑原(あっ!思い出したぜ!!)



ここで漸く赤い髪の男が誰か気付いた。



桑原「おめーは確か予選で躯のとこの雑魚とかいう奴を倒した奴じゃねーか!!おめーのスクリーンで闘っているとこを見たぜ!!」


「へ〜、俺が闘うところを見ていたのか。俺の名は楽越だ。宜しくな」


桑原と雪菜の前に突然接触してきた赤い髪の男は比羅達の同士の一人の楽越であった。



――救護室



棗は九浄に夢で見た光景…、血まみれの両親が必死に二人を逃がそうとしている場面までを話し終えた。



棗「大体話し終えたよ九浄」



九浄(…あの時の棗が知っている記憶だな…)



九浄「それから先の事は夢に出てこなかったか?」

(俺がこの先の事を棗が思い出したのかそれが気になるんだ)



棗「ここから先の出来事が夢に流れてこようとしたのだけど、私はもの凄く嫌で抵抗した。何故か分からないけど気が狂いそうになった」



九浄(あの時の出来事は幼なかった棗には耐えられない出来事だった。それが原因で棗は記憶の一部に障害が残った。あれは一緒にいた俺にとっても耐え難い出来事だった)



棗「私は気が狂いそうになったその時に、誰かは分からないけど男の声が聞こえてきたのを覚えている。“目を覚まして何もかも破壊してしまえばいい。楽になるよ”っと」



九浄(男の声??鉄山を倒した時の棗のあの変化に関係があるのか…)



棗「特徴のある声だった。その声を聞いた私は気が狂いそうな苦しみから解放された様な気がした。そして目を覚ましたらここにいたのよ」



フゥーっと溜め息をついた。



棗「九浄からお父さん達は妖怪達に殺されたと聞かされたけど、私はお父さんとお母さんが死ぬ瞬間の事は覚えていない」



九浄(棗にはオヤジとオフクロが死んだ時の記憶が綺麗に抜け落ちている。あの出来事は棗には思い出してもらいたくない)



九浄は棗の肩に手を置いた。



九浄「あの一件は幼い俺達には衝撃的な出来事だった。覚えていないのは不思議ではない」



棗「そうかな…」



九浄「ああ」

(棗があの時の事を思い出していないのなら良かった)



棗「あっ!!」



何かを思い出した様に声を上げた。



九浄「急に声を上げてどうしたんだ棗?」



棗「大会はどうなったの?」



九浄「だからさっき、酎が言っていただろう。お前が鉄山を倒したって」



グィッ



棗「それじゃあないわよ!」



九浄の胸ぐらを掴んで引き寄せる。



九浄「な、な、何だ棗!?」



恐い顔の妹に少しビビる兄。



棗「夢の話しをしている場合ではないわよ。九浄と酎の試合の結果はどうなったの!!貴方達は私を賭けの対象にしていたでしょう!!!」



そして兄の首を両手で締め上げる妹。



九浄「お、お、落ち着け、棗……、話すから、話すからよ…マジで苦しい……」


棗「あっ、ゴメン」



九浄の言葉に首を締め上げている両手を放した。



ドスンと尻餅をつく九浄。


九浄「ったく。お前は信じられん力を時には出してくるな。実の兄を殺す気かよ」



締められていた首をさすりながら起き上がる。



棗「悪かったわよ。それでどっちが勝ったの?」



酎がもし九浄に勝ったらプロポーズを受けるって言った手前、二人の勝敗が一体どうなったのか気になって仕方ない。



九浄「俺と酎の闘いはな……」



棗(ゴクッ)



固唾を呑んで九浄の答えを待つ。



(ニッ)
九浄「激しい闘いだったぜ」



棗(………)



グイッ!!!



九浄「うおっ……!?」



高速のスピードで九浄の胸ぐらを掴んで引き寄せた。


先ほどより強い力で九浄を締め上げる棗。



棗「九浄と酎の顔を見たら激しい闘いってのは分かるわよ!!遊んでないでさっさと言いなさいよ!!!」


九浄「マジで死ぬ!!今度はマジで死ぬゥゥゥ!!」


棗「私はちょっと気が立っているのだから本当に締め殺すわよ!!」



額に青筋を立てて怒る棗。


九浄「落ち着け棗……。言うから言うから……」



………。



………。



九浄「今度は本当に逝きかけたぜ……。酎の奴は一体何でお前に惚れたんだろうな…」



(ギロッ)
棗「何か言った?」



九浄「い、いや……」



鬼の形相の妹にたじろぐ兄。



棗「さっさと言ってよ九浄」



九浄「まぁ焦るな。俺と酎がどんな闘いをしたかゆっくり話してやる」



九浄は酎との闘いの一部始終を棗に語り始めたのだった。



――九浄の回想



Cブロックの三回戦・第一試合が始まる直前に時は遡る。



魔界統一トーナメントBブロックの三回戦・第一試合


九浄(くじょう)
×
酎(ちゅう)



――Cブロック



酎・九浄(…)



酎と九浄はそれぞれの想いを胸に試合開始を今か今かと待ち構えている。



上空から審判が二人の様子を見つめる。



「始め!!」



各ブロックの審判達は同時に試合開始を合図したのだった。



ズキューーン!!!!!



その合図と同時に一気に駆け出した二人。



酎「力比べだ九浄!!!」


九浄「へっ、まずはお前の力を試させてもらうぜ酎!!!」



それぞれの拳が相手の顔面を狙って繰り出されたのだった。



続く
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