幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編02
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――魔界統一トーナメントCブロックの三回戦・第一試合


九浄(くじょう)
×
酎(ちゅう)



――Cブロック



酎「だったらその自慢のスピードを俺が今から奪ってやるぜ九浄」



スッ



酎は胸の前で両手の手の平を向かい合わせにすると妖気を集中し始めた。



九浄(妖気を集中させている。酎の奴、何かを作り出すつもりか?)



(ニッ)
酎「俺の新しい技を見せてやるぜ」



ボワーー



向かい合わせた両手の手の平から小さな妖気の光がうっすらと輝き始めた。



その光の輝きは黒く、
まるで闇のようにも見える。


黒い光の輝きは徐々に大きくなってくる。



そして黒い光の範囲はボーリングの玉ほどのサイズまで広がった。



やがて黒い光の輝きは消えて、丸い黒い妖気の塊に変化してきた。



ガシッ!



酎はそれを両手でしっかりと掴む。



酎「ハァッ!!!!」



かけ声と共に丸く黒い妖気の塊にさらに妖気を込める。



そして。



ズズズ……



丸く黒い妖気の塊は鋼鉄の弾に変化を遂げた。



酎(ニッ)



不敵な笑みを浮かべると、酎は両手で掴んでいる鋼鉄の弾に軽い摩擦を加える。


ギュンンンンンン!!!!


すると鋼鉄の弾は高速回転を始めた。



酎「完成だ。名付けて“重鋼鉄弾”」



九浄「ほ〜う。鋼鉄の弾を作り出したか」



酎「九浄なら簡単に俺が弾を作り出すのを阻止出来たのに邪魔しなかったな」



九浄「俺はたとえ相手がどんなに強力な技や能力を使ってきたとしても、最初はかならず勝負する質なのでな」



酎「真面目というか馬鹿正直というか、
流石は棗さんの兄貴だぜ。俺もバトルマニアだが、九浄、お前さんも相当バトルマニアだな」



九浄「フッ、未知の技や能力には興味があるからな」


酎「邪魔しなかった事を後悔するなよ九浄」



スッ



酎は作り出した鋼鉄の弾を投げる態勢で構える。



九浄「その弾でどうやって俺のスピードを奪うつもりでいるのかは知らねーが、その重い鋼鉄の弾で高速のスピードで動く俺に当てる事が出来るとは思わねーけどな」



スッ



酎が投げる態勢になったのを見て九浄も構えた。



酎「やってみないと分からないぜ九浄」



九浄「さっさと投げてみろ酎。そうすれば直ぐに分かるだろうぜ」



酎を挑発する九浄。



その言葉を聞いて直ぐに酎は行動を起こした。



酎「だったら見せてやるぜ九浄!俺の重鋼鉄弾を」



そう言うと酎は一気に鋼鉄の弾を九浄に向けて投げつけた。



ギュンンンンン!!!!!


九浄「へっ、来たな。だが、どんなに回転が凄くても、そのスピードでは俺をとらえる事は出来ないぜ」



フゥーー



鋼鉄の弾が身体に触れる瞬間、九浄は素早く動いてかわした。



九浄「お前が作り出したその弾はその程度か酎」



ズキューーン!!!!!



かわすと同時に酎に向かって高速のスピードで駆け出した。



だが、酎はせっかく作り出した弾を九浄にかわされたのにもかかわらず、
全く動揺した様子はない。


九浄「ハァァーー!!!」



ビューン!!!



酎に接近してパンチを放つ。



酎(ニッ)



九浄の拳が酎の顔面に触れる瞬間、酎は不敵な笑みを浮かべた。



バキッ!!!



そして九浄の拳が酎の顔面にヒット。



ヒューーー!!!!



まともに攻撃を受けた酎の身体は吹き飛ぶ。



ドガァァァァァ!!!!!


およそ100mぐらい離れた場所にある岩壁に酎の身体は突っ込んだ。



九浄(何の笑みだあれは?それに妙だな、まるで今の攻撃をワザと受けたように見えた…)



その時だった。



ギュゥゥゥゥゥ!!!!!


九浄(!?)



かわした筈の鋼鉄の弾が九浄目掛けて背後から飛んで来た。



九浄「あめーぜ」



フゥー



鋼鉄の弾が身体に接触する瞬間に素早く動いて弾をかわした。



九浄「なるほどな。遠隔操作かよ。ただ当てるだけの単調な攻撃かと思って甘く見ていたぜ」



ギュゥゥゥゥゥ!!!!!


鋼鉄の弾はまたもや九浄を狙って迫って来る。



バッ!!!



素早くジャンプして鋼鉄の弾をかわした。



一方、九浄から遠く離れた位置にある岩壁に叩き込まれた酎はというと…。



ガラガラガラガラ



崩れた岩壁の中から酎がゆっくりとその姿を現した。


ダメージはどうやら大した事はないみたいだ。



酎の放った鋼鉄の弾をかわし続ける九浄を見ながら、酎は呟く。



酎「遠隔操作での攻撃はありきたりかもしれねー。
けどよー、この俺の作り出した重鋼鉄弾には隠れた秘密があるんだぜ」



酎は殴られた頬をさする。


(ニッ)
酎(俺がワザと攻撃を受けてまで、何でここまで飛ばされたと思う?)



ググッ



酎は両手を後ろに引くと全身に妖気を込め始めた。



酎(お前さんに当てる為だ)


ピシピシピシ



酎の身体は見る見るうちに鋼鉄化されていく。



棗と付き合うきっかけになった手合わせで使ったあの爆肉鋼鉄である。



九浄「あれは!?」



九浄がここで漸く酎の変化に気付いた。



九浄「何だ?酎の奴、身体が鋼鉄化してやがる」



ギュゥゥゥゥゥ!!!!!


またもや鋼鉄の弾が九浄に近付いてくる。



九浄「チッ、しつこいぜ。何度来たって俺には当たらないぜ」



酎「行くぜ九浄!!」



酎の声と同時に鋼鉄化している頭が妖気で光輝く。



酎「ウラァァァァァ!!!!!」



ズガァァァァァン!!!!


その頭で地面に向かって思いっきり頭突きをかます酎。



ゴゴゴゴゴゴ!!!!!



闘場は大きく揺れ始めた。


酎は頭突きによって闘場に地震を起こさせたのだ。



九浄「何だと!?」



闘場に起こした地震による影響で、九浄の態勢が大きく崩れた。



ギュゥゥゥゥゥ!!!!!


迫る鋼鉄の弾。



九浄「クッ!」

(まずい)



チッ



直撃はなんとか避けたものの、鋼鉄の弾は九浄の肩をかすめた。



その瞬間、酎の起こした闘場の揺れは治まった。



九浄「流石に今のは驚いたぜ。あの野郎、この地震を起こす為にワザと俺に殴られて距離を取りやがったな」



酎「あの状況でかわしたか。だが、かすったのなら、それだけでも効果がある」


ギュゥゥゥゥゥ!!!!!


九浄に鋼鉄の弾が向かってきていた。



酎は今度は頭突きを放つ事はせずに、腕を組んで九浄と鋼鉄の弾の様子を見守る。



九浄「来いよ」

(酎がまた地震を起こすかもしれねー。気をつけないと)



その時、九浄は自分の身体の異変に気付いた



九浄「何だこれは!??」



異変を感じた箇所は弾にかすった肩であった。



九浄「か、身体が重い」



直ぐに肩にかすった箇所に視線を移した。



なんと鋼鉄の弾が触れた部分は黒く変色していた。



迫る鋼鉄の弾。



九浄「くっ!」



フゥー



まさに間一髪。ギリギリで弾をかわした。



九浄「危ねーぜ。酎の放ったこの弾に何か秘密があるな」



視線を酎に向ける九浄。



視線に気付いた酎は九浄に向かって大声で叫んだ。



酎「その弾は俺が作り出した重菌という菌と妖気をブレンドさせて作っている。当たったらスピードを奪われるぜ九浄」



酎の声はどこか余裕を感じさせた。



九浄「なるほど。俺のスピードを奪うってのはそういう事か」



重菌とは酎が作りだした魔界には存在しない特殊な菌である。



その菌は重という名が示す通り、菌が身体に付着してしまうと、付着した箇所に強力な重力をかける。



その重菌と妖気を合わせて作った重鋼鉄弾に当たると、鋼鉄の弾による大きなダメージだけではなく、
身体に菌が絡みつき、スピードを奪い去るのだった。


ちなみにこの鋼鉄の弾は鎖で繋ぐと鉄球のような武器としても使用可能である。


九浄「さっきのをまともに受けていたら、ダメージだけではすまなかったな。かすっただけて結構、俺のスピードは奪われちまったからな。動けなくなっていたところだぜ」



九浄はその場で静止すると手の平に妖気を集中し始めた。



九浄(スー、ハァー、スー、ハァー………)



そして手の平の妖気の集中と同時に息を吸い込む、吐き出すという呼吸法も行いだした。



手の平に集中した妖気が呼吸法の動きに合わせて、
吸い込んだ時は身体中に妖気が流れ込み、吐き出すと妖気が放出されていた。



その一連の動作はやがて高速になってきた。



ギュゥゥゥゥゥ!!!!!


九浄をしつこく狙い続ける鋼鉄の弾。



酎「もう一発行くぜェェェェェェェ!!!!」

(今度はかわせないぜ九浄)


酎の鋼鉄の頭が光輝く。



重鋼鉄弾を肩にかすり、スピードが落ちた九浄に、
酎はもう一度地震を起こし、九浄の態勢を崩して重鋼鉄弾を今度こそ確実に当てるつもりだ。



九浄「ハァァァァーーー!!!!!」



バチバチバチ



凄まじいエナジーが九浄の身体を駆け巡る。



酎「ウラァァァァァ!!!!!!」



ズガァァァァァン!!!!


先程と同じ様に地面に向かって思いっきり頭突きをかます酎。



九浄「俺を甘く見るなよ酎ゥゥゥゥゥ!!!!!」



ズガァァァァン!!!!!


酎の頭突きとほぼ同時に九浄は拳で地面を思いっきり殴りつけた。



ピシッ



地面に大きな亀裂が入った。



そして。



カーーーーー!!!!



九浄の殴りつけた地面から妖気の光が地面を駆け巡る。



酎(じ、地震が起きねー!?)



地震が起きない事に驚きを隠せない酎。



そして。



バチバチバチ



酎「ぐわァァァァ!!!!!」



酎は大きな叫び声を挙げて暫く悶え苦しんだ後、
その身体は動かなくなってしまった。



地面に頭をつけていた為に九浄の妖気が伝わったのだ。



――メイン会場



鈴駒「酎!!」



スクリーンに映る倒れた酎の姿を見て鈴駒は叫んだ。


――Cブロック



ギュゥゥゥゥゥ!!!!!


九浄に鋼鉄の弾が接近して来た。



九浄(キッ)



それを鋭い目で睨みつける。



そして。



九浄「舞裂斬空脚ゥゥゥゥゥ!!!!」



ビューーー!!!!



鋼鉄の弾に向かって鋭い蹴りを放った。



九浄「光の刃よーー!!」



ギュンンンンン!!!!!


九浄の声と同時に右足から紫色に光輝く妖気の刃が出現した。



まるで桑原の霊剣、そして飛影の邪王炎殺剣のように……。



ザシュッ!!!!!



一瞬で鋼鉄の弾を真っ二つに斬り裂く。



シュゥゥゥゥゥ……



真っ二つになった重鋼鉄弾は完全に消滅したのだった。



光の刃は役目を終えると直ぐに九浄の足から消え去った。



そして九浄は光の刃が消えると同時に地面に着地した。



(ニッ)
九浄「俺は九浄だぜ、そう何度も同じ技はくらわねーよ」



スッ



そして倒れている酎を指差した。



九浄「立てよ酎。地面から間接的にくらわせた程度でお前を倒せるとは思えない。もしこの程度の攻撃で終わりっていうのなら妹の事は永久に諦めるんだな」



酎(……)



ムクッ



酎はゆっくりと立ち上がる。



シュゥゥゥゥゥ………



酎の鋼鉄化した身体が元に戻っていく。



酎「間接的に受けてあの威力か…。全く、九浄を倒して棗さんを嫁さんにするには大変な道のりになりそうだ」



九浄「フッ、立ち上がったか。そうでないとつまらん。勝負はまだまだこれからだぜ酎」



(ニヤッ)
酎「でもよー。障害があればあればあるほど俺は燃えるってもんよ」



巨大な力を発揮し始めた九浄に対して、酎のバトルマニアとしての闘志がメラメラと燃え上がったのだった。



続く
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