幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――裏男の体内の中



裏男の体内の中に広がる、亜空間をさ迷っていた北神と黎明は、墓に安らかに眠っている筈の雷禅の遺体が横たわっているのを発見した。



そしてその直ぐ近くで雷禅の遺体と同じ様に横たわる仙水忍を発見したのだった。



パチッ



北神・黎明(!?)



調べようと近付と突然、仙水が目を開けたのだった。


仙水の目が北神と黎明の姿を確認。



そしてゆっくりと立ち上がる。



仙水(……)



虚ろな瞳で二人を見つめた。



北神「お前は一体何者だ?」


北神の問い掛けに仙水は口を開く。



仙水「俺は仙水忍」



グラッ



名を名乗ると仙水の足元はふらつき、崩れるように倒れた。



ガシッ



北神は直ぐにその身体を支えた。



北神「おい大丈夫か?」



仙水はどうやら意識を失っているようだ。



北神「おい!しっかりしろ!!」



仙水の身体を揺さぶる。



黎明「どうやら意識を失っているみたいだぞ北神」



北神「…そうみたいだな」



仙水が意識を失っている事に気付いた北神は、
仙水の身体をゆっくりと地面に寝かした。



黎明「この男は何者だろう…」



北神「私達と同じ様に捕らえられた者か、あるいは
あの女(皐月)の関係者かも知れないな」



二人は仙水をその場に残し、再び雷禅の遺体の場所にいった。



北神「しかし国王の遺体をこのような場所に運んで、一体あの女は何を企んでいる」



黎明「分からんが、ろくな事には使わないだろう。俺達をどうするのかすら分からんからな。それに…」



黎明が話している途中で止まった。



何かに驚いているようだ。


北神「どうした黎明?」



黎明「あの人間がいない!」


地面に寝かしていた筈の仙水の姿が消えていた。



北神「何だと!?」



ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


突然、北神を目掛けて気で作られた大量の弾が飛んで来た。



黎明「危ない北神!!!」



バッ!!



黎明は北神の身体を庇うようにその前に立った。



ドドドドドドド………



黎明「うォォォォォ!!!」


北神を庇った黎明の身体にその殆どの弾が命中した。


北神「黎明ィィィィィ!!!!!!」



北神の絶叫が亜空間に響き渡る。



黎明「う……北…神…)



ドシャッ



黎明はその場に崩れるように倒れた。



北神を庇った黎明が倒れると、北神の目の前に右手が気硬銃となった仙水が構えて立っていた。



(ニヤッ)
仙水「ククク、久しぶりにぶっ放してやった。
す〜っとして感じてきちまったぜ。ヒヒヒ」



北神「な、何だ!?」

(さっきまでとまるで違う…。顔つきといい、雰囲気といい、まるで別人の様だ!!?)



再び目覚めた仙水の人格が、忍から別人格であるカズヤに変わっていた。



カズヤ「久しぶりに出て来たんだ。お前達をじっくりと痛ぶってやるぜ」



北神「こ、こいつは一体!?」



蘇った仙水が北神と黎明にその牙を剥こうとしていた。



――メイン会場



イチガキ「蔵馬め、いい気味だ。ワシは気分がとても清々しいわ」



樹「イチガキ、お前は蔵馬に随分と恨みがあるようだな」



イチガキ「あの男はワシの作り出した毒の解毒薬を簡単に作っただけでなく、
ワシをこけにしよったからな」



頭の中に暗黒武術会での蔵馬の言った言葉が流れてくる。



蔵馬《もっと強力な毒草の育て方を教えてやろうか?》



イチガキ「ワシのプライドを傷つけた蔵馬には苦しむだけ苦しめて殺してやりたいわ」



スクリーンに映る妖狐・蔵馬を見るイチガキの目は、深い恨みの炎に燃えていた。



そんなイチガキを樹は楽しそうに見つめる。



樹(やはり人間でも妖怪でも、もっとも強い感情は“憎しみ”だ。きっかけを与えてやればよりそれは増幅される)



そしてスクリーンに映る梟を見つめる樹。



樹(強いイチガキの負の感情の集大成があの梟か。
梟は“あの男”を殺すのには多いに役立った)



樹は“あの男”を殺害した時の事を思い出し始めたのだった。



****************



桑原の捕獲に失敗し、
総力を結集する許可を王に得る為に、人間界から戻って来た比羅と駁の前に樹が現れた時に時を遡る。



(ニヤッ)
樹「俺に考えがあります」


駁「貴様、誰の許しを得てこの王の間に入ったんだ!!」



突然、姿を現した樹に対して激しい殺気を向ける駁。



樹「そんなにいきり立つな駁」



駁の激しい殺気にも動じた様子を見せない樹。



駁はそんな樹の態度に腹を立てた。



駁「貴様ァァァァ!!!」



ブォォォォォ!!!!!



妖怪である樹を毛嫌う駁は、額に青筋を立てて魔光気を身体から放出し始めた。


スッ



比羅は今にも樹に襲いかかろうとする駁の前に立った。



比羅「駁、王の前だ、控えよ」



駁「比羅!?」



静かな声で駁を制した。



駁「も、申し訳ありません」


比羅の声で我に返った駁は直ぐに片膝を地面につけてしゃがみ、王に無礼を詫びた。



王「もうよい。ところで樹、考えがあると言っていたが、我らの話しを聞いておったな」



樹「ええ、おそれながら聞いていました」



駁「貴様!!」



駁は声を上げて、樹にくってかかろうとした。



比羅「駁!!」



少し声を荒げて駁の名を呼んだ。



駁「う……、すまん」



比羅の声でまた我に返った駁は直ぐに黙ったのだった。



王・樹(………)



二人の間に緊張が走る。



王「物怖じしない大した度胸だ。初めてお前と会った時から思っていたが、お前はその妖気のわりには、かなりの修羅場を経験しておるな」



樹「はい。俺はある一定期間の間、王と同様、人間界にいました。その頃に様々な闘いに遭遇しています」


王「フッ、くえない男だ。私が人間界に昔いた事を知っているとはな。その事実を知る者は、私と共に前大戦を生き残った、ここにいる比羅や駁、それと一部の者しか知らないというのにな」



比羅(樹が私達と接触して日は浅いが、こいつはどこまで我々の事を知っている?)



(ニッ)
樹「俺は興味がある対象にはその生い立ち、考え方に触れたいという欲求に支配されますので」



ここで比羅が二人の話しの間に入った。



比羅「樹、考えがあると言ったな。それを言う為にお前はここに現れたのだろう?」



比羅の言葉に樹は視線を比羅に向けた。



樹「ああ、そうだ」



王「お前がどんな考えを持つのか私も興味がある」



樹「では話しましょう」



一同の視線が樹に集まる。


樹は王に視線を向けると語り始めた。



樹「ここにいる者達の話しを聞いていましたが、
桑原を手に入れる為、
魔界の者達と事を構えるのに主力を率いて闘うと言っていますが…」



比羅「樹はその案に何か不満があるのか?」



横目で比羅を見る樹。



樹「まずは俺の話しを聞け比羅。桑原の件は比羅の言う通り、黄泉は桑原を魔界に飛ばしたと見て間違いないだろう。魔界は今、煙鬼の政権下で治安も安定し、迷い込んだ人間を保護する法まで作られている」



駁「だったら桑原は保護されると見て間違いないんだな」



樹「ああ、そう思って間違いないだろう。
ここからが本題だ。魔界の者と闘うには、ここの主力である十二人の同士を持ってしても彼らに勝つのは厳しいのではないか?」



駁(ピクッ)



この樹の言葉に駁が反応。


駁「どういう意味だ樹!!俺達が魔界の奴らにやられるって言いたいのか!!」


ガシッ!!



樹の胸ぐらを掴んで自分の方へ引き寄せた。



比羅「よせ駁!」



スッ



樹は「大丈夫」と左手を比羅に向けた。そして自分の胸ぐらを掴む駁の目を見つめる。



樹「駁よ、お前達は現に人間界の闘いで奴らの一人に黎明を殺されているのだろう?それに十二人の中で最強の比羅ですら、苦戦したようではないか」



駁「ぬゥゥ……」



樹は言葉を続ける。



樹「彼らの様なクラスの妖怪が魔界には沢山いるんだぞ。俺はやられる可能性が高いと言っているんだ」



駁「クソッ!!」



パッ



樹を掴んでいた手を放す駁。



比羅「樹、あいつらの強さは確かに侮れないものがあるが、奴らは私のフィールドを一時的に破ったに過ぎない。私は全ての力で奴らと闘ってはいない」



樹「確かに一対一での闘いでお前に勝てる妖怪は殆どいないだろう。だが、徒党を組まれると必ず勝てると言えるか?」



比羅(………)



樹の言葉に黙る比羅。



樹「この世界の為に桑原は必要だろう。お前の言う通り、桑原を得るには魔界の者と事を構える必要がある。俺の策はこちらの被害を少なく、奴らと事を構えても勝てる策だ」



一同(!!?)



一斉に驚く。



樹「魔界ではもうすぐ煙鬼の王としての任期が終わり、次の王を決める大会が開かれる」



比羅「大会?」



樹「ああ大会だ。その大会の名は魔界統一トーナメント。その名の通り、トーナメント形式で妖怪同士が己の力を尽くして闘う大会だ」



駁「するとその大会に優勝した者が次の王になるって言うのか?」



樹「そうだ。今の王の煙鬼も三年前の大会を最後まで勝ち抜き、優勝して魔界の王となった」



比羅(なるほどそう言う事か。樹の狙いは読めた)



視線を王に向ける比羅。



比羅の視線に気付いた王は黙って頷いたのだった。



王「樹よ、お前の考えは分かったぞ」



(ニヤッ)
樹「おそらくは王の推測通りだと思います」



王の言葉に不敵な笑みを見せる樹。




王「大会が終わるのを待ち、魔界の者共が大会で傷ついたところを狙い、桑原を奪う策だろう?」



樹「フッ、流石は王。
その通りです」



比羅(魔界の者は種族は違えど樹と同じ妖怪だ。仲間が傷つくのは平気なのだろうか?)



王「私は樹の策が得策だと思うが、お前達はどうだ?」



比羅「はい、私は異論はありません。これでいきましょう」



駁「俺もないです…」



駁は異論はないが策を立てたのが樹という事が不満のようだった。



王「決まりだ。勅命を命じる。比羅!駁!魔界の大会が終わり次第、総力を結集して桑原を奪うのだ」



王の名のもとで勅命が命じられた。



比羅・駁「ハッ!!」



王の勅命という言葉を受けて、比羅と駁は片膝を地面についてしゃがみ、頭を下げた。



その様子を見つめる樹。



樹(上手くいったな。忍に仇なす浦飯達、それに魔界の者達をこれで一掃出来る)



――王の間の外



比羅と駁、そして樹は王の間を出た。



王の間を出ると同時に比羅は駁に声を掛けた。



比羅「駁、ここで決まった話しを同士達に話す。他の九人の同士達を私の部屋に集めてくれないか?」



駁「分かった」



駁は比羅に返事を返すと、その隣にいる樹を睨む。



樹「何だ駁?」



駁「チッ、妖怪め」



そう言うと駁は二人の元から立ち去った。



比羅「すまんな樹。あいつは妖怪のお前の策という事が気にいらないようだ」



樹「フッ、別にいいさ。
俺もその同士達の話しに参加していいか?」



スッ



比羅は樹の肩に手を置く。


比羅「策を立てたのはお前だ。もちろん参加してもらうつもりでいた。樹、一つ聞いていいか?」



樹「何だ?」



比羅「魔界の者はお前と同じ妖怪だ。私達と闘い、同朋が傷ついてもお前はいいのか?」



樹「フッ、構わないさ。
俺には俺の成すべき事がある。その為には同朋がどうなろうと構わない」



比羅「そうか」



樹「比羅、お前達に合わせたい男がいる」



比羅「うん?何者だ?妖怪か?」



(ニヤッ)
樹「ああ、戸愚呂(兄)という名の妖怪だ」



樹は不敵な笑みを浮かべて比羅に答えた。



続く
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