幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜
□大会編03
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――比羅は人間界での出来事と魔界に向かう事を話す為に、自らの部屋に同士達を集めたのだった。
――比羅の部屋
部屋に集まった同士達の姿を見渡す。
比羅(同士達はこれで全員揃ったな)
比羅の隣にいた弥勒が比羅に話しかける。
弥勒「比羅、ここに集まるのは同士とここにいる雷蛾だけかい?」
比羅「いや、後はここに樹が来る」
弥勒「ああ、彼か。比羅と駁が人間界に行く事になったのも元々は、彼が私達にもたらせた情報がきっかけだったからね」
「そうだ」
弥勒(!?)
突然、空間から声が聞こえてきた。
ズズズ…
空間の中から闇撫の樹と戸愚呂(兄)が姿を現した。
樹「待たせたな」
弥勒(何だ?この感覚は?)
樹達が部屋に来たと同時に弥勒は何か部屋に立ち込める違和感を感じ取ったのだった。
そして直ぐに同士達の様子を見る弥勒。
だが、特に誰にも変わりはなく、違和感を感じた者もいない様子だ。
弥勒(誰も違和感を感じ取った様子はない。どうやら私の気のせいの様だ)
弥勒が感じた違和感は気のせいではなかった。戸愚呂(兄)がある能力を使う為に部屋の中で領域(テリトリー)を広げたのだった。
辣姫「あっ、樹だ」
樹の登場で駁の髪の毛を両手で引っ張っていた辣姫は直ぐに手を離した。
駁「樹だと!!」
辣姫の両耳を両手で引っ張っていた駁もその手を離した。
そしてズカズカと樹に近付く。
駁「チッ、お前も来たのか」
駁は樹の登場が面白くないようだ。
そして彼の視線は樹と一緒に姿を現した戸愚呂(兄)に向けられた。
駁「そいつは誰だ?初めて見る顔だ。お前と同じ妖怪みたいだな」
戸愚呂(兄)を見つける駁の目はまるで不審者を見るような目であった。
樹「ああ、妖怪だ。
紹介する。この男は戸愚呂(兄)。お前達にとって役に立つ男だ」
(ニヤッ)
戸愚呂(兄)「戸愚呂だ。宜しくな」
戸愚呂(兄)は不気味な笑みを浮かべた。
弥勒(不気味な笑みだ)
弥勒は戸愚呂(兄)の笑みに不快感を感じた。
駁(こいつも俺より背が高い。面白くない)
駁は弥勒とは違った意味で戸愚呂(兄)に不快感を感じたのだった。
比羅「樹、この男がお前の言っていた男か?」
樹「そういう事だ。こいつの事は後で詳しく紹介する」
比羅「分かった」
樹に返事を返すと比羅は同士達を見回した。
比羅「それでは話しを始めるぞ」
夢苦「待って下さい!」
夢苦が比羅の前にやって来た。
夢苦「比羅さん、黎明兄さんがまだ来ていません」
弥勒「ああ言われて見れば黎明がまだだ。
比羅、夢苦の言う通り、黎明がまだ来ていない。彼が来ていないのに話しを始めるのかい?」
夢苦と弥勒の言葉に、
駁が直ぐに比羅の横にやって来た。
駁「おい比羅、話しを始める前に同士達に黎明の事を伝えないといけないぜ」
比羅「ああ、そうだな…」
弥勒・夢苦(??)
比羅と駁の会話に不思議そうに顔を見合わせる二人。
比羅「私の部屋に集まってもらった理由を話す前に、お前達に知らせておかないといけない話しがある」
比羅の言葉に同士達の視線が一斉に集まる。
比羅「悲しい報せだ」
瑞雲「何だよ!もったいぶらずにさっさと言いなよ」
烙鵬「静かにしろ瑞雲!!」」
烙鵬の一喝で黙る瑞雲。
瑞雲(チッ、烙鵬の奴は相変わらず口うるさいぜ)
比羅「私と駁を追いかけて黎明が人間界に向かったのは、みんな知っているだろう」
弥勒「確か、黎明自身が王に行かせてくれと直訴したんだったね」
比羅「そうだ」
弥勒(…あの顔は)
比羅や駁の表情から弥勒は黎明に何かがあった事を察した。
比羅「…黎明は桑原を巡る闘いの中で、人間界に住む妖怪の一人、蔵馬と闘い、その命を落とした」
一同(!!!?)
比羅と駁を除いた同士達と雷蛾は黎明の死を聞いて、驚きの表情を浮かべた。
比羅「辛い話しだが、詳細を話す」
比羅は黎明が死に至る過程、桑原の捕獲に失敗した事をまずは話した。
夢苦「れ、黎明兄さんが……そ、そんなまさか……」
黎明とは一緒に育ち、
彼を兄と慕う夢苦の顔がたちまち青白くなる。
辣姫「夢苦、大丈夫?」
辣姫が心配そうな顔で夢苦に近付いた。
その時だった。
夢苦「嘘だァァァァァァ!!!!!」
ブォォォォォォ!!!!!
夢苦の身体から凄まじいまでの魔光気が放出された。
辣姫「キャッ!?」
ドシャッ
辣姫の身体を簡単に吹き飛ばされた。
夢苦「ウワァァァァァァァ!!!!」
ブォォォォォ!!!!!!!!!!
放出される魔光気がどんどん巨大になってくる。
駁「ぬぅ!」
烙鵬「チッ」
ザザザ…
夢苦の放出する凄まじい魔光気の前に後ずさる同士達。
比羅「夢苦の魔光気が暴走している」
(黎明の死を聞いたショックか……)
ガシッ
弥勒は素早く両手で夢苦の肩を掴んだ。
弥勒「魔光気を抑えて落ち着くんだ夢苦!!」
夢苦「嫌だァァァァァ!!!!」
バチバチバチ
弥勒「ぐっ……」
ブォォォォォ!!!!
凄まじい夢苦の放出する魔光気の前に、弥勒は吹き飛ばされないようにするのが精一杯であった。
戸愚呂(兄)「凄い気だな樹」
樹「黎明を殺した者に対する強い憎しみが、あの子供の持つ力を限界以上に引き出している。制御出来なくなった力ほど性質が悪い」
夢苦「ウワァァァァァ!!!!」
ズズズ……
夢苦の身体が大人の姿に徐々に変化していく。
弥勒(……!)
バチィ!!!
弥勒「ぐわァァ!?」
夢苦の両肩を抑えていた弥勒の手が弾かれた。
弥勒「夢苦があの姿になるとマズいな。どうする…」
スッ
弥勒の前に雷蛾が出て来た。
雷蛾「弥勒、俺に任せろ」
ズズズ……
雷蛾の姿が徐々に変化していく。
樹「戸愚呂(兄)、奴の能力をよく見ているがいい」
戸愚呂(兄)「何だ?あいつの姿が変化しているじゃないか!?」
雷蛾「ハァァァァァ」
カーーーーー!!!
雷蛾の身体から光が放出された。
そして雷蛾の姿はある人物の姿に変貌を遂げたのだった。
雷蛾「夢苦、私だ」
夢苦「れ、黎明兄さん」
雷蛾の姿は黎明と瓜二つの姿に変化していたのだ。
目の前で雷蛾が変身したのを見ていたのにもかかわらず夢苦は驚いた。
そして黎明の姿に変身した雷蛾の姿を見た夢苦が動揺した為か、魔光気が一瞬だけ弱まった。
瑞雲(キッ)
フッ
その瞬間、瑞雲が動いた。
ドッ!!
夢苦の首筋に背後から素早く一撃を入れた。
夢苦「うっ…」
シュウゥゥゥゥ……
瑞雲の一撃を受けた夢苦は元の子供の姿に戻り、そのまま意識を失った。
ガシッ
倒れた夢苦の身体を弥勒が受け止める。
瑞雲「チッ、全くガキは暴れ出すと始末におけねーな」
比羅「流石だ瑞雲。夢苦の魔光気が僅かに乱れた瞬間を見逃さないとはな」
(ニヤッ)
瑞雲「これぐらい大した事ないぜ」
シュウゥゥゥゥ……
黎明の姿に変身していた雷蛾が元の姿に戻った。
砂亜羅「お手柄だったな」
砂亜羅は夢苦の暴走を止めるきっかけを作った立役者の雷蛾にねぎらいの言葉をかけた。
雷蛾「夢苦の大切な者の身体に変身して動揺させただけだ。子供を騙したんだ。あまりいい気持ちはしない」
そう言うと雷蛾はフゥ〜っと溜め息をついた。
砂亜羅「雷蛾…」
スッ
弥勒は比羅の部屋にあるソファに夢苦を寝かした。
弥勒「可哀想に黎明の死が余程ショックだったみたいだね」
眠っている夢苦の頭を優しく撫でた。
駁は夢苦の暴走で散らかった部屋を見渡す。
駁「やれやれとんだハプニングだったな…」
弥勒「比羅、夢苦はどうする?」
比羅「そのまま寝かせておいてやれ。目覚めたら私が夢苦にまた話すよ」
弥勒「分かった」
夢苦の顔を見つめる弥勒。
弥勒(まだ子供の夢苦には、肉親同然の黎明の死は酷な話しだった。今は何もかも忘れて眠るんだ夢苦。目覚めたらおそらく泣いている暇はないよ)
弥勒は先ほどの話しからこれから話す比羅の話しの内容が闘いの話しではないかと察していた。
比羅「これから本題を話す。今から話す策を考えたのはここにいる樹だ。そしてこれは王の勅命として聞いて欲しい」
王の勅命という言葉に同士と雷蛾に緊張が走る。
比羅は魔界で行われる大会の事、そして大会が終わると同時に大会で弱まった魔界の妖怪を蹴散らし、桑原を手に入れるという樹の策を話したのだった。
烙鵬「相手が魔界の妖怪共か。相手にとって不足はない」
瑞雲「チッ、闘うのは面白そうだが、魔界にわざわざ行くのが面倒だな」
袂「久しぶりに私の暗器を使う時がきましたね」
菜艶「だ、大丈夫かな……」
比羅の話しを聞き終えた弥勒が樹に話しかける。
弥勒「弱まったところを叩くというのは戦略としてはいい策だ。私は賛成だよ」
樹「大会自体はかなり激しい闘いになる筈だ。大会が終わる頃には殆どの者が妖気と体力が尽きているだろう」
楽越(かなり激しい大会か。しかし弱った奴らを叩いても面白くねーよな)
楽越はチラッと比羅の顔を見た。
楽越(比羅の事だから、俺が大会に出たいと言ったら反対するだろうな)
楽越は目を瞑って何かを考え始めた。
そして。
楽越(ニッ)
楽越の中で一つの結論に達した。
楽越(内緒で行っちまうか。どっちにしろ俺が大会で勝てば魔界の連中の戦力を削る事にもなるし一緒だよな)
楽越はこの時、単独で大会に参加する事を決めたのだった。
袂「急にニコニコしてどうしました楽越?」
楽しそうに笑みを浮かべている楽越に袂が不思議そうに問い掛けた。
楽越「ハハハ…、何でもねーよ」
取り敢えず笑って誤魔化す。
袂(?)
弥勒「そういえば」
弥勒は何かを思い出したように戸愚呂(兄)に視線を移す。
弥勒「樹、そろそろ隣の彼を紹介して欲しいな」
樹「いいか比羅?」
比羅に許可を求める。
比羅「ああ、構わない」
樹は部屋にいる者達を見渡した。
樹「お前達に紹介したい者がいる」
そう言うと樹は戸愚呂(兄)を前に出させた。
部屋にいる者達の視線が戸愚呂(兄)に集まる。
樹「この男は戸愚呂(兄)。霊界の基準で言えば俺と同じB級妖怪だ。こいつの能力は“美食家”」
樹の言葉に駁が反応。
駁「“美食家”?ふざけた能力名だ。それにお前と同じクラスなら大した妖怪じゃあな……」
スッ
弥勒は駁の言葉を遮るかのように前に出た。
弥勒「その彼の“美食家”という能力はどんなものかい?樹が私達に紹介するという事は私達に役立つ能力なのだろう?」
弥勒に向かって戸愚呂(兄)が話し始めた。
戸愚呂(兄)「俺は相手の能力を喰う事が出来る。生きていようが、死んでいようがな」
弥勒「能力を食べる?という事は…、まさか食べた者の能力を!?」
戸愚呂(兄)「察しがいいなお前。そうだ俺は喰った奴の能力を使う事が出来るんだ」
戸愚呂(兄)は楽しそうに自らの能力を語る。
比羅「能力を食べられた者はどうなるのだ?」
戸愚呂(兄)「身体ごとまるごと取り込まれるからな。生きている者は直ぐに死ぬさ」
辣姫「気持ち悪い能力ね……」
姫は戸愚呂(兄)に嫌悪感を見せた。
(ニヤッ)
戸愚呂(兄)「ククク」
不気味に笑う戸愚呂(兄)。どうやら辣姫の示した反応が楽しいようだ。
樹「お前達の目的である桑原が万が一死んだとしても、桑原の死体を持ち帰り、この戸愚呂(兄)の能力を使えば、おのずとお前達の欲しがる能力が手に入るという事だ」
弥勒「なるほどね。確かに彼の能力は私達に役立つ能力だ。樹が彼を私達に会わせた理由が分かったよ」
瑞雲「比羅、話しはこれで終わりかい?」
そろそろ集まりから解放されたいような口調だった。
比羅「ああ」
瑞雲に返事を返すと比羅が同士達を見渡しながら話し始めた。
比羅「私の話しは以上だ」
そして話しの締め括りとして比羅が同士達に宣言した。
比羅「各自、いつでも出発出来る準備をしてくれ。私達は大会が終わる頃を見計らって魔界に向かうぞ!」
一同「おう!!」
こうして比羅の宣言で同士達の集いは集結したのだった。
一人一人が比羅の部屋を出て行く。
樹「比羅、俺達も行く」
比羅「待て樹」
王の間の入口の時と同じ様に、比羅は亜空間に消えようとする樹を呼び止めた。
樹「何だ比羅?」
比羅「樹、聞いてもいいか?お前は王の間の入口で私達に協力するのは自分の目的の為と言っていたな」
樹「それがどうかしたのか?」
比羅「お前に差し障りがなければその目的とやらを私に話してくれないか?」
比羅の言葉に樹の表情が変わった。
樹「俺はお前に言った筈だ。情報を渡す代わりにいらぬ詮索はするなとな」
比羅「ああ、だが、
お前ほどの男が、一体何の目的で動いているのか、興味があってな。お前は王には目的の事を話してあるのか?」
樹「ああ、王とは約定を結んでいるからな」
比羅「約定?」
樹「ああ、約定だ。
しかしこのままお前は俺が答えないと言っても
直ぐに引き下がるタイプではないだろうな」
比羅「ああ」
樹(………)
樹は少し考えるような素振りを見せた。
そして。
樹「…いいだろう。そんなに聞きたいなら話してやろう」
そう言うと樹は比羅達に近付いたその目的を語り出したのだった。
続く