幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――同士達を集めた話しが終わり、去り際の樹を呼び止めた比羅。



樹の目的を問い掛けた比羅に対して樹の出した最終的な答えは…。



――比羅の部屋



樹「…いいだろう。そんなに聞きたいなら話してやろう」



樹はそう言うと比羅達に近付いたその目的を語り出したのだった。



樹「フッ、俺の目的は一つ。お前達の世界の秘宝だ」


比羅「秘宝!?」



樹の言葉に驚く比羅。



樹「そう秘宝だ。この世界の王家に伝わる秘宝・“星の宝玉”だ」



比羅が驚いている姿を見て、樹は楽しそうに笑う。



樹「フフ、驚いているようだな。流石のお前でも秘宝とは思わなかったらしい」


比羅「驚いたさ。まさか私もお前が私達に近付いた目的が秘宝とは思わなかったからな。しかしどこで秘宝の存在を知ったのかは知らないが、お前には本当に驚かさせられる」



星の宝玉…比羅達の世界の王家に伝わる伝説の秘宝。


様々な力を持ち、その力は死んだ者の魂さえ再生させる事が出来るという。



使う者によっては世界を滅ぼす恐れがあり、王家によって代々伝えられ、
厳重に管理されていた。



樹(お前達の事は皐月が調べ上げている。殆どの事は俺は分かっているつもりだ)



――亜空間



投影された映像で皐月とイチガキが樹と比羅の会話を聞いていた。



(ニコッ)
皐月「樹の話しに、彼は驚いているようね」



比羅の驚いている姿を見て楽しそうに笑う皐月。



皐月「フフッ、これはおそらくだけど、彼等の世界の情報は莫大な資料を持つ霊界ですら、殆ど載っていない筈よ」



イチガキ「ヒョヒョヒョ、しかしお前さんはそれを調べ上げた。霊界ですら知らない情報を一体どうやって調べたんじゃ?」



皐月はイチガキの問い掛けに、その美しい顔をイチガキに近付けて答える。



(ニコッ)
皐月「そ・れ・は・秘密よ」



イチガキ「む……」



言葉に詰まるイチガキ。



皐月「フフ、年寄りのくせに照れるのね」



イチガキ「わ、わしをからかうな!」



必死に反論するイチガキ。


皐月はイチガキから離れると、右手で自分の髪の毛を掻き上げた。



その姿はどこか美しく、
妖艶な雰囲気を醸し出していた。



皐月「でも樹はあの男にどこまで話すつもりなのかしらね〜」



皐月はそう呟くと投影している映像に視線を移したのだった。



――比羅の部屋



比羅「王が人間界にいた事実を知るお前なら既に知っていると思うが、あの秘宝こそが、五年前に起きた大戦の直接のきっかけとなったのだ」



樹「それは知っている。かなり大規模な闘いだったようらしいな」



比羅「凄まじい闘いの連続で多くの仲間が死んだ。
大戦を闘い、生き残った者は、王と一部の同士、
それ以外に僅か数名だけだ」



樹は比羅の話しを聞きながらゆっくりと歩いて比羅の部屋の窓から外を眺めた。


窓から見える外の光景は、太陽の光が射さない暗闇が広がる闇の世界。



どちらかといえば人間界よりは魔界に近いかもしれない。



比羅(………)



比羅は窓の外を眺めている樹の後ろ姿を見つめる。



戸愚呂(兄)は目を瞑り、黙って腕を組んで部屋の壁に背中をつけて、二人の話しを聞いていた。



窓の直ぐ傍にあるソファーには、瑞雲の一撃を受けて気絶した夢苦がスヤスヤと眠っていた。



樹は床に落ちていたシーツを夢苦の身体にかけた。



そして樹は比羅に視線を向けると再び話し始めた。



樹「王家の血を引きながら、それを知らずに人間界で普通の人間として生活していた王をこの世界に誘ったのは駁らしいな」



比羅「ああ、駁はあんな性格だ。王にはかなり警戒されたらしいがな」



樹「フッ、だろうな。
大戦の話しはもうこれぐらいにしておこう。話しを戻すが、お前達の持つ秘宝だが……」



樹は窓の傍を離れて、
比羅の目の前にやって来た。



樹「桑原の秘めた能力が、お前達の悲願である世界を“救う”事が出来ると実証されれば、お前達にもたらせた情報の見返りとして
秘宝を一時的に借りる事を王と約束している」



比羅「王がそんな約束を?」
(……秘宝の力を知る王が秘宝を貸し出す約束をするとは。ましてや異世界の妖怪なんぞに…信じられん)


樹「お前達の秘宝は死んだ者の魂を再生させる事も可能という。俺はその力が欲しいのだ」



比羅「宝玉の力をお前は一体誰に使うつもりだ?」



比羅はそう言うと真剣な顔で樹の目を見つめる。



樹・比羅(………)



二人に暫しの間、沈黙が流れる。



樹は沈黙を破り、比羅の問い掛けに静かに答えた。



樹「…俺の大切な者の為、只それだけだ」



比羅に答えた樹の表情はどこか切なさが漂っていた。


その樹の顔を見た比羅はこれ以上は踏み込んで聞くのを思いとどまたのだった。


樹「もういいだろう。俺は行く」



比羅「ああ、呼び止めて
すまなかったな」



樹「かまわないさ」



比羅に答えると樹は目で戸愚呂(兄)に合図した。



戸愚呂(兄)が樹の隣にやって来る。



ズズズ…



そして樹は戸愚呂(兄)を伴い空間の中に消えていったのだった。



樹達の消えた後を見つめながら神妙な顔で比羅は呟いた。



比羅「まさか樹が私達に近付いた目的が星の宝玉だったとはな…」



そして比羅の足は自然とある場所に向かって歩き出したのだった。



――亜空間



戸愚呂(兄)「ガキが大人になったり、変身する奴とか変な奴らばかりだったな」


亜空間に戻るなり、
戸愚呂(兄)が、比羅や同士達について話し始めた。



樹「フッ、奴らは個性的な能力の持ち主ばかりだ」



「フフフ、貴方に変な奴
呼ばわりされたら、彼等もたまったものではないわね」



戸愚呂(兄)「何だと!」



戸愚呂(兄)が声がした方向を振り向くと、そこには皐月が立っていた。



(ニコッ)
皐月「相手の能力を吸収するだけじゃなく、心の中で思っている事を盗み聞きしたり、バラバラになっても身体が再生するんだから、余程、貴方の方が変な奴でしょう?」



(ニヤリ)
戸愚呂(兄)「ヒヒヒ、そりゃ違いない」



皐月の言葉に戸愚呂(兄)は不気味な笑い声を上げた。


皐月は視線を樹に移して声を掛ける。



皐月「お帰り樹…」



樹「ああ」



皐月は樹の傍に近付くと
その肩に寄り添う。



スッ



だが、樹は寄り添う皐月を振り払うかの様に、戸愚呂(兄)の隣に歩いていく。



皐月(樹……)



寂しそうな目で樹の背中を見つめた。



樹「戸愚呂(兄)、“盗聴”の話しを聞こうか」



戸愚呂(兄)(ニヤッ)



その言葉を待っていたかの様に笑う戸愚呂(兄)。



樹「話しを聞く前に、
奴らの中にお前の“盗聴”に気付いた者はいたのか?」



樹は比羅の同士達の集いの時に戸愚呂(兄)に命じて、“盗聴”をさせていた。



戸愚呂(兄)を比羅達に紹介する形で一緒に連れていったのはその為であった。



戸愚呂(兄)「ガキが暴走した時にガキの肩を必死に抑えていた奴がいただろう。あいつの名前は何ていうんだ?」



樹「弥勒だ」



戸愚呂(兄)「その弥勒って奴が俺の“盗聴”の能力自体には気付いていなかったが、部屋に張った領域の違和感を感じていたようだぞ」



皐月「彼はこの世界の大戦の時に、キレる頭から智将って呼ばれていたみたいよ」



皐月が間に入って弥勒の事を説明した。



樹「なるほど智将か。
智将と呼ばれていただけあって、あの男は中々鋭いようだな。一応注意しておくか」



戸愚呂(兄)「他の奴らは俺の領域を気にした様子はなかった」



樹「そうか。では本題に入るが戸愚呂(兄)、あの駁の様にこの俺を警戒するような動きを心の中で見せている者はいたか?」



戸愚呂(兄)「大丈夫だ。
大会で弱まった連中を
叩くっていうお前の策は、大体受け入れているようだ」



樹「不穏な考えを持つ者がいれば警戒する必要がある。場合によっては始末する事も考えていたが、今の所はその必要はなさそうだ」


目を瞑り、皐月の様に髪を掻き上げる樹。



桑原の次元刀に斬り裂かれた傷が目立つ。



戸愚呂(兄)「そういえば奴らの中に面白い事を考えていた奴がいた」



樹「面白い事?」



戸愚呂(兄)「あの後ろにいた浦飯に似た感じの赤髪の奴だ」



戸愚呂(兄)の言葉に一人の人物が頭に浮かんだ。



樹「楽越か」



――王の間



部屋を出た比羅は王の間に訪れていた。



王「どうした比羅?」



比羅「王にお話があります」


比羅は真剣な目で王の顔を見つめる。



王「比羅、私の部屋で話そうか」



比羅「ハッ」



比羅の表情から何かただならぬ話しだと感じた王は、比羅を自らの部屋に誘ったのだった。



――王の部屋



王の部屋の内装は意外とシンプルで、煌びやかな装飾等は皆無であった。



悪く言えば庶民的な感じの部屋といったところだ。



それはまるで人間界に住む人間が使う部屋の様な雰囲気を醸し出していた。



その為、とても一国の王が使うものとは思えない部屋であった。



比羅「早速ですが王にお話があります」



王「比羅、今はお前と“俺”だけだ。形式ばった話しは止めよう。俺とお前は形式の場から離れたら主と部下の間ではないからな」



王の一人称が私から俺に変わると同時に王の間で放っていた強烈な威圧感が王の身体から消え去っていた。


(ニッ)
比羅「分かった」



王「たまには肩の力を抜かんとたまらん」



比羅「フッ、お前はよくやっているよ祐一。人間界にいた時とは別人の様だ」



比羅は王の本名である祐一の名で呼んだ。



その呼び方には親しみがこもっていた。



王「この世界に俺がやって来て六年。五年前の大戦は今となれば夢のようだ」



王はグラスを二つ取り出した。片手にはワインが握られている。



グラスにワインを注ぐと比羅に手渡す。



王「真面目なお前の事だ。人間界にいっても酒を飲んではいないだろう?」



比羅「フッ、頂くよ」



王からグラスを受け取ると軽く一口飲む。



王「それで俺に話しとは何だ比羅?」



自分のグラスにワインを注ぐと比羅に問い掛ける。



比羅「樹の件だ。あいつが私達に近付いたのは、王家の秘宝である星の宝玉が目当てというではないか」



王「そうか樹に聞いたのか。お前の言う通り、
あいつの目的は秘宝だ」



王はそう言うとグラスのワインを飲み干した。



比羅「樹は桑原が私達の世界を救う事が実証されたら、お前から秘宝を借りる約束をしたと言っていたぞ」


王「なるほどお前がここに来たのはその事か」



比羅「祐一、いくらあいつが私達の世界を救う事に尽力してくれているとしても、秘宝の力を知るお前が
貸し出す約束をするとは私には信じられん。本気なのか?」



王は比羅の言葉を聞きながらグラスにワインを注ぐ。


王「比羅、俺があの秘宝を本当に貸し出すとお前は思っているのか?」



王は目を細めて比羅の目を見つめた。



比羅「祐一、するとお前は!?」



王(ニヤッ)



王は意味深な笑みを浮かべたのだった。



――亜空間



戸愚呂(兄)は楽越の心の中を“盗聴”した事を話し始めた。



戸愚呂(兄)「その楽越って野郎は仲間達から抜けがけして一人で魔界統一トーナメントに参加するつもりみたいだ」



樹「あの男はバトルマニアらしいからな。血が騒ぐのだろう。楽越の行動が比羅達の知る事になれば俺としては好都合だ」



皐月「どういう事?」



樹「俺の読みが正しければ楽越の行動がきっかけで、比羅達は予定より早く魔界に行く事になる。彼らがここを立ち去ったその時は…」



戸愚呂(兄)「その時は何だ?」



樹は野望に満ちた目で仲間達を見渡すと宣言した。



樹「俺達が行動を起こす時だ。そして“あの男”を殺す」



続く
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