幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――比羅の同士の一人である楽越が勝手に単身で魔界に行った。



その行動が比羅達は予定より早く魔界に誘う事となったのだった。



――王の部屋



比羅は魔界に向かって出発する前に王の部屋を訪れていた。



比羅は当初の予定より早く魔界に行って大会を監視する事、そして早期に出発するきっかけとなった楽越の勝手な行動を王に報告していた。



王「しかし楽越らしいといえば楽越らしいが、あいつは相変わらずのトラブルメーカーだな」



比羅の報告を聞いた王の顔は少し呆れ顔。大会を張り切っている楽越の顔が頭に浮かぶ。



比羅「ああ。だが、勝手な行動を取らすのは同士達を率いている責任者である私の不徳がなす事、すまない」



王に対して楽越の件を詫びた。



王「比羅、俺がお前の立場でも、あれだけ個性的な奴らが集まれば束ねるのは簡単じゃあない」



王はあまり気にするなと
比羅の肩を叩く。



比羅「有り難う祐一。それでは行ってくる」



パサッ



比羅は壁にかけていた青いマントを羽織った。



王「無事に帰って来い。
弱ったとこを叩くとはいえ相手は魔界の最強の妖怪達だ。くれぐれも油断するな」



王はそう言うと右の拳を差し出した。



比羅「フッ、私の辞書に油断の文字はない。任せてくれ」



比羅も王と同じ様に右の拳を差し出した。



比羅「私が帰って来たら、お前と久しぶりに手合わせがしたい」



少し挑戦的な目で王を見る。



王「いいだろう。お前との対戦成績は、俺は一六勝十五敗。お前が十五勝一六敗と俺が勝ち越している。さらにお前との差を広げてやるさ」



(ニッ)
王・比羅(………)



ガン!



無言で笑みを浮かべると二人はお互いの拳をぶつけたのだった。



カチャッ



比羅は王の部屋を扉に手をかけたところで王の方を振り向いた。



比羅「フッ、だが無事に桑原を手に入れて帰って来たとしても、直ぐに次の闘いが私達を待っている。
手合わせする時間はなさそうだな」



王「かもな。次の闘いは
“あれ”だからな。五年前の大戦を上回る闘いになる。勝てるかも分からない。だが、やらないといけない」



比羅「ああ。全てはこの世界の為に」



王と比羅のこの世界を想う気持ちは誰にも負けないほど強いものであった。



――雷蛾の部屋



砂亜羅は出発直前に雷蛾の元を訪れていた。



その右手には外した仮面があった。



砂亜羅「お前の分まで魔界で働いてきてやるよ」



久しぶりの闘いに赴くという事で砂亜羅は燃えていた。



彼女は戦闘好きという面では一人単独行動を取って魔界に向かった楽越といい勝負であろう。



雷蛾「正直、俺もついていってお前を守ってやりたいんだがな」



砂亜羅に対して大戦時から続く友情を越えて恋心を抱く雷蛾は、砂亜羅を命懸けでその手で守りたいという強い気持ちとは裏腹に、
王を守る護衛の任務がある為に、一緒についていけない事が悔しかった。



砂亜羅「ハハハ、私はお前に守って貰うほど弱い女ではない。いらぬ心配はするな。大戦の頃からお前の心配性は変わらないな」



実際のところ雷蛾の砂亜羅に対する想いに彼女は気付いてはおらず、砂亜羅は雷蛾に対しては親友という感情しか抱いていなかった。


雷蛾は大戦から続く想いを胸に秘めながら二人の関係が崩れてしまう事を恐れて、未だにその気持ちを砂亜羅に言い出せずにいた。



だが、雷蛾の胸の内は、
ある決意でいっぱいであった。



雷蛾「砂亜羅、この魔界での闘いが終わり、お前が無事に帰って来たら大切な話しがある」



雷蛾は魔界から砂亜羅が戻って来たらその想いを彼女に伝える決意を固めていたのだ。



砂亜羅「お前らしくないな。何だ改まって」



興味深そうに砂亜羅は雷蛾は近付くと下から覗き込む。



好きな女性の顔が近くにやって来た為に頬が赤く染まった。



砂亜羅「何だお前、照れているのか?」



その声はどこかからかい口調。



雷蛾「て、照れていない…」


慌てて否定する雷蛾。



砂亜羅「フフフ、冗談だ。お前が私を異性として見ていないのは良く分かる」



砂亜羅はそう言うと雷蛾から離れた。



雷蛾(相変わらず鈍い女だ)


フゥーっと溜め息をついた。



砂亜羅「そろそろ行かねばな。何の話しか知らないが帰って来たら聞かせてもらうぞ」



雷蛾「ああ。お前が驚く様な話しを聞かせてやる」

(俺の告白をな)



(ニコッ)
砂亜羅「それは楽しみだ」



カチャッ



側に置いている剣を手に取ると腰に装着した。



スッ



そして砂亜羅は美しいその顔を隠す様に仮面を装着した。



砂亜羅「邪魔したな」



砂亜羅はそう言うと、
雷蛾に背を向けて部屋の入口に向かって歩き始めた。


雷蛾は惚れた女性の後ろ姿を見つめる。



何故かは分からなかった。だが、この時、雷蛾は何か強い胸騒ぎを覚えたのだった。



雷蛾「砂亜羅」



部屋を出ようとする砂亜羅を呼び止めた。



砂亜羅「何だ?」



彼女は振り返らずに足をその場で止めた。



雷蛾「砂亜羅、お前も今回勝手な行動を取った楽越のように無茶をするところがある。今度行くのは異世界だ。くれぐれも同士達から離れる様な行動を取るなよ」



砂亜羅はその性格からか、雷蛾が言う様に楽越に似た部分があり、大戦時代から単独行動を取る事が多かった。その為に彼女は何度か危険な目に遭遇していた。雷蛾はそんな彼女の身を以前から心配していた。



それは砂亜羅の身に何かが起こるのでは?っと胸騒ぎを覚えた雷蛾が彼女に言える精一杯の忠告であった。


砂亜羅「分かっているよ。気をつける」



そう雷蛾に答えると砂亜羅は部屋を出たのだった。



だが、砂亜羅はこの時の雷蛾の忠告を右から左へ聞き流していた。



その為、魔界で彼女は、
雷蛾の忠告を守らずに単独行動を取ってしまう事となる。それが元で彼女は闇撫の樹によって、
その命を絶たれる事になるのであった。



雷蛾「無事に帰って来いよ砂亜羅」



砂亜羅が出て行った部屋の扉をいつまでも雷蛾は見つめていた。



愛する女性の無事を祈りながら……。



――弥勒の部屋



弥勒は自室で魔界へ向かって旅立つ準備をしている。


愛用の品々を袋に詰め込む作業をしながら弥勒は、準備の手伝いをしている部下に声をかけた。



弥勒「やれやれ、これで大体の準備が出来たね。
私は身の回りの整理が苦手だ。手伝ってくれて本当に助かるよ凱亞(がいあ)」



凱亞と呼ばれた男は背は高く金髪の坊主頭が特徴の弥勒の直属の部下の一人で、普段は影となり主である弥勒を守っていた。



主からの労いの言葉をかけてもらい、嬉しそうな顔。


凱亞「弥勒様、この度の魔界との闘いは、どう思いますか?」



弥勒「今回の闘いは私達の世界を変える為、救うと言ってもいいかもしれない闘いだ。私達がもっとも必要とする力を持つ桑原を手に入れる為の闘いではなかったら、私は魔界との闘いは全力で止めていただろうね」



凱亞「どうしてですか?」



闘いを止めていたという主にその真意を聞く凱亞。



弥勒「忘れてはならないのが激しい闘いがあった大戦はまだ五年前の出来事だという事。今は王を中心として、複数の国が一つにまとまっているけど、いつ王家に不満を持つ者達が動き出して、世界のバランスを崩すかもしれない」



弥勒達の世界は今は王である祐一を中心に一つにまとまっているが、大戦の時に敵対していた者達がいつ王家に反旗を翻してくるか分からない情勢であった。



弥勒「戦力を結集しないと魔界とは事を構えられないとはいえ、腕の立つ者達がこの王家から大勢いなくなるのは些か不安だよ」



凱亞「……確かに言われてみたらそうですね」



「弥勒様」



部屋の何処からか男の声が聞こえてきた。



弥勒は声の主に声をかける。



弥勒「禊(みそぎ)かい?」



禊「はい。弥勒様に報告したい事があります」



凱亞「全く、気配を消して入って来るなよ」



姿を見せない禊と呼ばれた男は凱亞と同じく弥勒の直属の部下で片腕的な存在であった。



凱亞「ったく、こんなところまで忍び足を使うなっていつも言っているだろ禊。姿を見せろよ」



フッ



凱亞の言葉を受けてその姿を見せる禊。



禊「性分だ。気にするな」



凱亞「気になるわ」



禊の姿は忍装束を身に纏っていた。
彼は普通の男性よりやや小柄であるのにもかかわらず、その背中に一際目立つ大きな剣をさしていた。



禊「それで弥勒様、報告ですが…」



弥勒「聞くよ」



禊の報告を聞いた弥勒は直ぐに真剣な顔となったのだった。



――王城の入口



王城の入口には比羅を始めとした将軍達が勢揃いしていた。



比羅「みんな準備はいいか。我々は今から魔界に向かう」



比羅は同士達を見渡す。



それぞれが新たな闘いに向けて気合いに満ちた目をしている。



(ニッ)
烙鵬「宜しいですぞ比羅殿」


烙鵬の言葉に満足した比羅は同士達に向けて宣言した。



比羅「この魔界との闘いは、世界を“変える”闘いの始まりでしかない。桑原を得た後に待つ次の闘いは大戦を上回る大きな闘いとなるだろう。その闘いに向けて必ずみんな生きてこの世界に戻るぞ」



一同「オォォォォ!!!!」


こうして比羅、弥勒、烙鵬、駁、瑞雲、菜艶、夢苦、辣姫、袂、砂亜羅の十人の王家の将軍達は王城を後にした。



彼らは一つの目的に向かって魔界に旅立つのだ。



その目的は人間界から黄泉によって魔界に飛ばされた桑原和真という人間を手に入れる事。



突如この世界に現れた闇撫の樹が持たらせた情報では、桑原の秘めた能力こそが、闇の世界を変えると共に救う事となる。



全ては世界の為。十人の同士達は熱い想いを胸に秘めて激しい闘いに身を投じるのだ。



だが、彼らの運命の歯車は闇撫の樹によって大きく狂い出すのであった。



続く
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