幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――比羅達が魔界へ向かって旅立ってから一時が過ぎた。



もうすぐこの王城に大きな危機が迫ろうとしていた。


――王の間



王である祐一は玉座に腰を下ろしていた。



その姿は比羅と二人で話していた時とは打って変わり、強烈な威圧感を放っていた。



将軍達が旅立った今、
王を守るべくその傍らには、護衛である雷蛾が付き添っている。



王「雷蛾、お前も本当は比羅達と一緒に行きたかっただろう?すまんな」



傍にいる雷蛾に声をかける王。



雷蛾「勿体無いお言葉です。確かに行きたい気持ちはありますが、俺の任務は王を守る事です。全力で王をお守りします」



王「有難う雷蛾。頼りにしているぞ。お前だけでなく私も正直言えば魔界に行きたかったのだがな」



(ニコッ)
雷蛾「王もですか」



王「ああ。だが、やはり王としての立場が私を縛りつける」



雷蛾「王という立場は時には不便ですね」



王「フフッ、全くだ」



二人が談笑を始めたその時だった。



「王にお話しがあります」



王・雷蛾(!?)



ズズズ……



突然、空間から闇撫の樹が姿を現した。



雷蛾「ここに何の用だ樹!」


いきなり現れた樹に対して雷蛾は声を上げる。



樹は雷蛾に対して別に気にした様子はなく雷蛾を無視するかの様に視線を王に向けている。



雷蛾「樹!!」



その態度にカチンときた雷蛾は樹に詰め寄ろうとする。



王「よい雷蛾」



王は右手を横に出して雷蛾を静止させた。



雷蛾「お、王…」



王は玉座から立ち上がった。



王「私に話しとは何だ樹?」


樹「はい。まずは本題に入る前に聞きますが、
今回、桑原がこの世界の為に使える事が実証出来たら王家に伝わる秘宝を俺に貸してくれるという話しは間違いないですよね」



王の傍らで聞いていた雷蛾は樹の口から秘宝という言葉が出た事に驚き、顔色が変わった。



雷蛾「貸し出すとはどういう事ですか王?」



大戦を経験した者の一人として雷蛾は王に詰め寄る。


王は雷蛾を見るだけで口では何も答えない。



その目はいつもの王の目ではなかった。



雷蛾「王…」



その目は俺を信じろっと言っている様に見えた。



雷蛾はこれ以上王に聞くのを止めたのだった。



樹「間違いはないですね」



もう一度王に聞く樹。王を見るその目はまるで、
王の思考を覗き込むかの様な目をしていた。



王「いかにも。私はお前との約束を違えるつもりはない。安心するがいい」



表情一つ変える事なく樹に答える。



樹「そうですか。それを聞いて安心しましたと言いたいところだが……」



王(?)



そう言うと樹は右手を上げた。



すると一人の男が王の間に姿を現した。



雷蛾「お前は戸愚呂(兄)!」


比羅の部屋で戸愚呂(兄)と出会い、その顔を知る雷蛾は直ぐにその名を呼んだ。


王(!?)



王はこの時、王の間の全てを包み込んでいる異質な力に気付いた。



王「何だこの感覚は!?」



王の間を見渡す。



雷蛾「どうしました王??」


王の突然の反応に問い掛ける雷蛾。



王「雷蛾、精神を研ぎ澄ましてみるがいい。何か異質な力を感じる」



雷蛾は王の言葉を受けて目を瞑ると精神を集中し始めた。



すると直ぐに王の言葉の意味が理解出来た。



雷蛾「この力は……」



王「どうやらそこの男が何か力を使っているようだな」



王はそう言うと戸愚呂(兄)に強い視線を向けた。



樹「流石だ。戸愚呂(兄)の張った領域に気付いたか。そこの雷蛾を含めて、
お前の配下の将軍共は領域に殆ど気付いていなかったというのにな」



雷蛾「どういう意味だ!!」


雷蛾の言葉を聞いた戸愚呂(兄)は薄ら笑いを浮かべて解説を始めた。



(ニヤッ)
戸愚呂(兄)「ククク、俺が比羅って野郎の部屋で、
そこにいる王が感じ取った力を使っていた。だが、お前らは殆どその事に気付いていなかった」



雷蛾「何だと!!?」



驚く雷蛾に樹は少し静かな口調で話し始めた。



樹「お前達は人間の持つ霊気と妖怪の持つ妖気を内に秘めながら、それらとは異なる力を感じ取る能力に欠けている様だな。現にあれだけの力を持つ将軍が揃いながら、戸愚呂(兄)の能力に気付いていなかった」



雷蛾「ぬっ…」



戸愚呂(兄)「おい樹、さっきお前が秘宝の事を王に聞いた時、この王は口ではお前に秘宝を貸し出すと言っているが、秘宝を渡すつもりはないようだぜ」



王「何の事だ?」



王は表情を変えずに戸愚呂(兄)を見つめる。だが、
外見とは裏腹に戸愚呂(兄)の言葉に王は驚いていた。


――心の中を読まれている?



そんな疑問が王の頭に浮かんだ。



そして頭に浮かんだ疑問が直ぐに確信に変わる事となる。



戸愚呂(兄)「ククク、お前、表情を全く変えていないが、心の中は動揺しまくりだな。全く大したポーカーフェイスぶりだ」



王「……樹、その男の能力は…」



王は真剣な目で樹の目を見る。



樹「おそらくは、お前の頭に浮かんだ答えで合っている筈だ。戸愚呂(兄)、王が頭に描いている事を言って差し上げろ」



王は頭の中に自分の思う戸愚呂(兄)の能力を思い描いた。



(ニヤッ)
戸愚呂(兄)「王の考えは心を読む能力だ。正解だ」



戸愚呂(兄)は答えると大声で笑った。



雷蛾「心を読む能力だと!!?すると比羅の部屋で俺達の考えは……」



戸愚呂(兄)「ククク、バッチリと聞かせてもらった。俺の能力の“盗聴”でな」


王「面白い能力だ。その能力を使われたら隠し事は出来ないな」



王は目を瞑るとフゥーっとため息をついた。



樹「この世界の大戦のきっかけとなった程の秘宝だ。お前が貸し出すとは最初から思っていない」



雷蛾「樹!戸愚呂(兄)!王の間に勝手に入って来るだけではなく、さっきから王に対して無礼だぞ!控えろ!!」



先程と同じく雷蛾の言葉に対して気にした様子はなく、その視線は王に向けられていた。



王「樹、お前の話の本題をまだ聞いていなかったな。聞こうか?」



王は既に樹が何の為にここに来たのか、おおよその検討はついていた。



樹は王の問い掛けに対して自分がここに来た目的を話し始めた。



樹「それでは単刀直入に言わせてもらう。
王よ、お前が持つ秘宝・星の宝玉を頂く。悪いが死んでもらうぞ」



ブォォォォォ!!!!!



樹から凄まじいまでの殺気が王に向けて放たれる。



雷蛾「化けの皮は剥がしたな樹」



雷蛾は王の前に立ち樹を前にして構える。



王「無駄だ。お前達の力では、私の身体に傷一つつける事は出来ん。後悔する事になるぞ」



ブォォォォォ!!!!!



王は攻撃的な魔光気を樹に向けて放出した。



ズズズ…



王の身体から放出された魔光気を受けて樹の身体が後ずさる。



樹「確かにお前の言う通り俺の力では倒せない。だが、勘違いするな。闘うのは俺ではない」



バッ



樹は素早く後ろにバックジャンプ。



樹「皐月!!」



そしてこの場に姿がない皐月の名を叫ぶ。



するとどこからか皐月の声が王の間に響き渡った。



皐月「裏男よ」



皐月の声と同時に王の間の左右の壁際に二体の裏男が姿を現した。



王・雷蛾(!?)



皐月「裏男よ、飲み込め」



左右の裏男は同時に王と雷蛾を飲み込もうと口を開いた。



フォォォォォ!!!!!



左右の裏男の口から凄まじいまでの吸引力が働く。



予想外の裏男の出現によって虚をつかれた王と雷蛾は、避ける動作が遅れた。



王「ぬっ!」



雷蛾「なんて強い吸引力だ!!?」



グググ…



裏男の吸引力の前に二人の身体はどんどん前に引きずられていく。



フォォォォォ!!!!!



さらに裏男の王達を吸い込もうとする力は強くなる。


そして。



王(!!!?)



雷蛾「王!!!」



フォォォォォ!!!!!



王は左の裏男、雷蛾は右の裏男に吸い込まれてしまった。



樹は腕を組んでその様子を見守っていた。



戸愚呂(兄)が樹の隣まで歩いてきた。



戸愚呂(兄)「俺は予定通り、ターゲットの方に行くぞ」



樹「ああ、頼むぞ。忍の復活がかかった大事な一戦。抜かるなよ」



戸愚呂(兄)(ニヤリ)



戸愚呂(兄)は不気味な笑みを浮かべると右の裏男に向かってジャンプした。



裏男の口が開き、裏男の体内へと姿を消したのだった。



樹「俺の時間は本格的に動き出した。誰にも俺を止めることは出来ない。それがたとえ神だとしてもな」



――左の裏男の体内の中



裏男の体内に飲み込まれた王は立ち上がると辺りを見渡す。



王「これは亜空間…、あの化物の身体の中が亜空間になっているとはな」



「そういう事だ。ここなら誰にも邪魔をされる事なくお前を殺せるからな」



亜空間から男の声が聞こえてきた。



王「樹か!」



「ああ」



ズズズ…



裏男の体内の中に樹が姿を現した。



王(行くぞ)



ズキューーン!!!!!



樹が姿を現したと同時に王は樹に向かって駆け出した。



ビューーン!!!!



そして凄まじい破壊力を持った一撃が樹に向かって放たれた。この一撃を受ければ樹は即死だと言えるだろう。



だが、この一撃は樹に届く事はなかった。



ガシッ



白いフードを被った男が突如、姿を現して樹の前に立った。彼は王の拳を右手で受け止めていた。



王「お前は誰だ?」



攻撃を受け止めた男に問い掛ける王。



白いフードの男(………)



無言で何も答えない。



すると樹が白いフードの男に代わって王に答える。



樹「この男の名は瀬流(せる)私の仲間によって作られた実験体だ」



ボォォォォォ!!!!!



瀬流と呼ばれた男の左手が炎に包まれる。



ビューーン!!!!!



炎の拳が王を襲う。



王「チッ」



バッ



王は素早く瀬流の攻撃から逃れた。



瀬流と距離を取って着地。


王「その瀬流とかいう男、凄まじい妖気の持ち主みたいだな」



瀬流(………)



パサッ



瀬流は被っていた白いフードを脱ぎ捨てた。



その隠れた姿が露わになった瀬流は短い髪に、Tシャツにジーパンとラフな姿であった。



瀬流は非常にクールな瞳で王を見ている。



ボォォォォォ!!!!!



そして瀬流の両手の巨大な妖気の炎が宿り始めた。



王「……久しぶりに歯ごたえのある奴と闘えそうだ」


スッ



王は戦闘の構えに入る。



王・瀬流(………)



見つめ合い、最初の攻撃をどちらが先に仕掛けるか、互いにスキを狙っていた。


その時だった。



イチガキ「ヒョヒョヒョ」



イチガキが不気味な笑い声を上げながら姿を現した。


その隣には瀬流と同じ様に白いフードを被った男が一緒だった。



抑えていてもその男の身体からは凄まじい妖気が放出されていた。



イチガキ「ワシの作り出した実験体のデビュー戦を飾るのに相応しい相手じゃ。存分にデータ取りに協力してもらうぞ」



王「フッ、新てか…。それもかなりの使い手。
“俺”を本気で殺しにかかっているな」



王の一人称が私から俺に変わった。



王「二人相手か面白い。上等だ!まとめてぶっ倒してやる」



ブォォォォォ!!!!!



王は抑えていた魔光気を一気に解き放った。



王(ニッ)



亜空間に閉じ込められて、さらに二人の強敵を前にしながらも、王はむしろこの危機的状況を楽しんでいるかのようだった。



樹「死んでもらうぞ」



王「フッ、馬鹿言うな。
俺は王としてやるべき事が山ほどあるんだ。死ぬのはお前達全員だ」



王とイチガキの作り出した実験体達との壮絶な闘いが今始まる。



続く
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