幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜
□大会編03
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――亜空間
臥竜「しゃあ」
王(!?)
王の身体を狙って筆を繰り出したのだった。
フゥーー
王は咄嗟に臥竜の攻撃をかわした。
チッ
だが、王の両足の太ももに臥竜の筆が当たった。
そして王から距離を取って臥竜は着地。
王「もう一人もかかってきたか。いいぜ!まとめてぶっ倒してやるよ」
王は臥竜の筆で、足に施された化粧には気を止めていない様子。
バッ
ようやく王の凄まじい攻撃から逃れた瀬流は、ジャンプして臥竜の隣に着地した。
瀬流「余計な事を……」
臥竜にピンチを救われた事が少し不服な様だ。
臥竜「1対1で闘うのは悪くはないが、あの男の強さはズバ抜けている。お前一人の手に負える相手じゃあない。俺達の役目はあの男を殺す事だ。それを忘れるな」
瀬流「チッ…」
臥竜の言葉は、瀬流にとって面白くなかったが、彼は正論を言っていた。
主であるイチガキの命令は、王の抹殺。イチガキに作られた彼らは主の命令は絶対である。
瀬流「分かった」
瀬流は臥竜の隣で王に向かって構えた。
王と実験体の闘いを見ていたイチガキは、胸から何やら小型の装置を取り出した。
装置の上段部分がデジタル表示になっており、そこに数字が出るようだ。
イチガキ「樹、これを見るがいい」
イチガキは手にある小型の装置を王や実験体に向けた。
ピピピッ
少し大きめの音を鳴らすと、装置の上段のデジタル表示の部分に数字が現れた。
数字は60.1%と表示されていた。
樹「これは?」
数値の示す意味をイチガキに問い掛ける。
イチガキ「この機械はワシが新しく作った最新型の勝率を示す装置じゃ。この数値が瀬流と臥竜が二人で王と闘った場合、二人が王に勝つ確率じゃ」
そしてイチガキは装置の細かい仕組みを樹に簡単に説明した。
樹「60.1……、王に勝つ可能性がおよそ6割か」
ピピピッ
イチガキは王と瀬流に装置を向けた。
イチガキ「瀬流が一人で王と闘った時の勝率はこうなっておる」
イチガキの装置が示した数値は11.2%と出ていた。
樹「勝率はおよそ一割か。瀬流が一人で王を倒すのはやはり厳しかった様だ」
イチガキ「そのようじゃな。瀬流はいつも以上の力を発揮しておるが、王の力はさらに上をいっている。流石はこの世界で最強の男と言われているだけはある」
樹(二人がかりでも六割、こちらがやや上といったところか…)
イチガキ「もう少ししたら、雷蛾とかいう男と闘っておる実験体が雷蛾を倒して、ここに来る。その実験体こそがワシの実験体の中で最も最強じゃ。奴が加わればワシらの勝利は確実じゃ」
そう、この場にいないが、イチガキが作った実験体はもう一人いるのだ。
樹「なるほど。そいつは一体何者だ?」
イチガキ「以前は鴉と呼ばれていた妖怪で、臥竜と同じく蔵馬に殺された妖怪だ。今は梟という名じゃ」
樹「梟」
――もう一つの亜空間
王の間に現れたもう一体の裏男の体内に広がる亜空間の中に王と同時に飲み込まれた雷蛾がいた。
雷蛾の姿は自身の変身能力で比羅の姿に変わっていた。
「追跡爆弾」
ギィース
不気味な羽根の生えた丸い生物は声を上げて雷蛾を襲う。
雷蛾「クソッ!!」
バッ
高くジャンプして追跡爆弾をかわす。
ドガーーーン!!!!!
亜空間内に大規模な爆発が起こる。
雷蛾は目の前の男が次々と作り出す爆弾の前にかなりの苦戦を強いられていた。
そう、雷蛾が闘っている相手は、梟という名前でイチガキの実験体として蘇った鴉であった。
雷蛾は地面に着地。
梟(………)
梟は黙って雷蛾を見つめている。
雷蛾(強い…、まるで同士達と闘っている感じだ)
少し離れた場所で二人の闘いを見ている者がいた。
戸愚呂(兄)である。
その視線は梟に向けられている。
戸愚呂(兄)「イチガキの実験体の一人がまさか死んだあの鴉とは驚いたな」
鴉は戸愚呂(兄)が良く知っている妖怪であった。
かっては戸愚呂兄弟の敵とだった鴉。
敗北後も戸愚呂兄弟の命を鴉は武威と同様に狙っていたが、暗黒武術会では戸愚呂チームの一人として共に浦飯チームと闘い、鴉は蔵馬と闘い殺されたのだった。
戸愚呂(兄)(しかも化け物みたいに強くなっている。あの雷蛾やられちまうのも時間の問題だな)
梟はここで戦闘が始まって雷蛾に初めて話しかけた。
梟「さっきからお前は別の者の姿に変身して闘っているが、その変身した者の能力を完全に使いこなせていないようだ。そんな様では私を倒す事が出来んぞ」
梟の言葉通り、雷蛾は比羅の身体を使いこなせていなかった。
雷蛾の変身能力は一度でも触れた事のある相手なら、その者の姿形、身体能力や技も変身した者と同じに変身する事が出来る。
だが、姿は変えられても、技だけは熟練されていない為に簡単には扱う事が出来なかった。
雷蛾は技を使うつもりで変身したのではなかった。
彼の変身の目的は身体能力を上げる為。
雷蛾自身も将軍達と変わらない実力者。
そんな彼が自分より身体能力に優れた他人の姿に変身する時は相手が強敵で、本来の雷蛾の姿で闘うのが厳しい時だけであった。
戸愚呂(兄)(樹はあの雷蛾の能力を喰えと言った。変身だけなら人間界にいる柳沢って奴の模写でもいい筈…、模写なら記憶までも得られるのに…、分からんな)
樹が戸愚呂(兄)に能力の“美食家”を使って能力を喰えと命じたターゲットとはこの雷蛾であった。
ブォォォォォ!!!!!
梟は妖気をさらに上昇した。
雷蛾(さらに妖気を上げた。本当にヤバイな)
梟「別の場所で闘っている私の仲間達はお前の主を相手におそらく苦戦している筈。仲間達に加勢してお前の主を殺らねばならない。お前にはそろそろ死んでもらうぞ」
雷蛾(…やはり王も、もう一体の化け物の身体の中で別の奴と闘っているという事か)
ズズズ…
比羅の姿から従来の雷蛾の姿に戻った。
(キッ)
雷蛾「こんなとんでもない化け物を王の元に行かせるわけにはいかない。主を守るべき護衛が、主に闘いをさせているだけでも罪深いのに、これ以上、主に負担をかけるような真似は意地でも出来ん!」
梟「だったらどうするんだ?お前の力では私を倒せないぞ」
雷蛾「確かに勝てないかも知れないが、お前を制する事は出来るかも知れない」
そう言うと雷蛾は両腕を後ろに引いた。
ブォォォォォ!!!!!
梟・戸愚呂(兄)(!!?)
雷蛾の放出し始めた気に二人の表情が一気に変わった。
戸愚呂(兄)「奴の気は魔光気ではない!?」
梟「これは純粋な妖気!!貴様、まさか妖怪か!」
二人が驚いたのは雷蛾の放出していた魔光気から霊気の部分が完全に消えて純粋な妖気に変化したからだ。
雷蛾「ご名答。俺は妖怪だ。もっともこの事実を知る者は王と一部の者しか知らないがな」
ズズズ……
雷蛾の身体は別の姿へと徐々に変化していく。
雷蛾「俺の今の姿は仮の姿。だが、主を守る為なら永遠に封印した妖怪の姿に戻る覚悟はある」
カーーーーー!!!!!
雷蛾の身体が強く光輝いた。
そして雷蛾の姿は完全に変貌を遂げたのだった。
雷蛾(ニヤッ)
光が消えて本当の自分の姿を取り戻した男が不敵な笑みを浮かべて戸愚呂(兄)と梟の前に姿を現した。
その容姿は美しく、長い黒髪に黒い服。
その透き通る様な白い肌が黒をより引き立たす。
そして何より印象的なのは、雷蛾が被っている帽子には頭の天辺がなかった。
雷蛾の手には彼の武器なのか?鎌が握られていた。
雷蛾「目には目を、妖気には妖気をってな。純粋に妖気だけになった俺はさっきより強いぜ」
梟「あれが奴の本当の姿」
戸愚呂(兄)「あいつが何者か、俺の“盗聴”で奴の心の声を聞いてやる」
そう言うと戸愚呂(兄)は領域を亜空間内に広げたのだった。
果たして雷蛾の正体とは!?
――樹達のいる亜空間
臥竜《王の足に化粧を施した。次は腕を狙う。幸い王はまだ化粧の力に気付いていない。お前は炎で遠隔攻撃をしてくれ。後は俺の方で王の腕に化粧を施す》
小声で瀬流に作戦を説明する臥竜。
瀬流(コクッ)
瀬流は臥竜の言葉に黙って頷いた。
そして直ぐに行動に出る。
瀬流「ハァァーーー!!!!!!」
ボォォォォォ!!!!!
両手に強力な炎を作り出した。
瀬流「行くぞ王!!!」
ボォォォォォ!!!!!
瀬流は両手を前に突き出すと、その両手から炎が火炎放射器の様に王に向かって放たれた。
王「そんな単調な攻撃は俺には通用せんぞ。目を瞑ってもかわせるぐらいだ」
バッ
王は瀬流の炎をかわそうとジャンプした。
その時だった。
王(!!?)
王はこの時初めて両足に異変を覚えた。
王(どういう事だ?足が鉛の様に重たい!)
王の両足に施された臥竜の化粧がその効果を発揮したのだ。
王のジャンプは瀬流の炎をかわすのには不完全の高さであった。
ボォォォォォ!!!!!
王の太ももに瀬流の炎が接触した。
ジュゥゥゥゥゥ……
王「ぐわァァァァァ……!!!!!」
王の顔が苦痛で歪む。
だが、このままやられる様な王ではなかった。
王「これ以上焼かれてたまるか」
スッ
王は右手を素早く炎に向ける。
ブォォォォォ!!!!!
強力な魔光気を瀬流の炎に流し込む。
シュゥゥゥゥゥ……
瀬流の炎は直ぐに打ち消されていく。
その時だった。
臥竜「しゃあァァァ!!!!!!」
両手に筆を構えた臥竜が王に再び襲いかかった。
王(!!)
チッ
今度は王の両腕に臥竜は化粧を施した。
王は今度は両腕に化粧を施された状態で地面に着地した。
そして化粧を施す事に成功した臥竜は王から少し離れた位置に、してやったりっといった表情で着地したのだった。
王(………)
グググ……
王は臥竜に化粧を施された両腕を動かした。
両足と同様に王の腕は鉛の様に重くなっていた。
王は臥竜に視線を移す。
王「…今度は俺の腕が重たくなっている。お前の筆に何か秘密があるのか?」
臥竜「そういう事だ。
お前の動きはこれで封じられた。その状態で俺と瀬流の攻撃をかわせるかな?」
臥竜の言葉を聞いた王だが、その顔に焦った様子はない。
王「しかし俺の動きをここまで封じるとはやるな。
油断していた俺もまだまだ甘いようだ」
イチガキ「どれどれ」
ピピピッ
イチガキは装置を王と二人の実験体に向けた。
装置に実験体達の勝率が表示される。
(ニヤッ)
イチガキ「ヒョヒョヒョ、一気に勝率がはね上がったぞ!94.2%じゃあ。王よ、お前の負けはこれで決まりじゃあ!」
わざと王に聞こえる様に大声で喋るイチガキ。
王「勝率だと?くだらないな」
王の言葉をただの強がりに受け取ったイチガキはさらに楽しそうに笑う。
イチガキ「ヒョヒョヒョ、強がるなよ王よ。その状態ではワシの実験体達には絶対に勝てん。お前の死は近い」
王「フッ、仮にお前の装置が正確だとしても100%ではないんだぜ」
イチガキ「むっ」
王は重くなった右手を前に出すと強く握り締める。
そして高らかに宣言した。
(ニヤッ)
王「勝負は数字ではない。闘いってのはな、機械なんかでは計り切れないってところを俺が証明してやる」
王の目は勝利を信じている男の目をしていた。
続く