幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――亜空間



臥竜の化粧を身体に施され、手足の動きを奪われた王であったが、
彼は瀬流と臥竜を二人相手にしていてもまだ勝負を捨てていなかった。



(ニヤッ)
王「勝負は数字ではない。闘いってのはな、機械なんかでは計り切れないってところを俺が証明してやる」


フゥ〜ハ〜フ〜



王はそう言うと周囲に気付かれない様に気をつけながら、独特の呼吸法で体内の魔光気を練り上げ始めたのだった。



イチガキ「ヒョヒョヒョ、口では何とでも言えるわ。瀬流、臥竜よ、王をさっさと始末しろ」



瀬流・臥竜「ハッ」



スッ



瀬流と臥竜は戦闘の構えに入る。



ブォォォォォ!!!!!



彼らは妖気を高め、いつでも襲いかかる事の出来る態勢だ。



瀬流「さっきお前にやられたダメージを倍にしてお返してやる」



臥竜「王よ、大口を叩いても無駄だ。俺の獄錠の粧は俺が解くか、俺を殺すしか解けない」



臥竜の言った獄錠の粧とは、筆で一つ塗るごとに70kgの鉄球をはめているのと同様の重さを相手に与える呪縛である。



かって蔵馬が画魔と闘った時には両手両足にこの呪縛を受けており280kgの鉄球をはめられてた状態になっていた。



王も蔵馬と同じく両手両足に筆を受けており、280kgの重さが彼にのしかかっていた。



王「フッ、だったらこの呪縛を解くにはお前を殺す方が楽だな」



臥竜「出来ないぜ!」



ズキューーン!!!!!



両手の拳に妖気を込めると王に向かって高速のスピードで駆け出した。



ボォォォォォ!!!!!



瀬流「今度こそ炭クズにしてやる」



ズキューーン



そして瀬流も両手に炎を宿し、王に襲いかかる。



王(キッ)



鋭い目つきで向かって来る二人を睨みつける。



イチガキ「ヒャヒャヒャ、手足の自由を奪われた王に勝ち目はない。ワシらの勝利じゃ」



勝利を確信し、はしゃいでいるイチガキとは違い、樹は涼しい顔で冷静に戦況を分析していた。



樹(あの王の目……)



樹は戦闘力では間違いなく王の足元にも及ばない。
だが、彼には実戦で培われた大きな経験を持っていた。



樹と王とでは闘ってきた相手の強さは違う。しかし仙水忍のパートナーとして行動を共にし、多くの死線をくぐり抜けてきた彼の実戦経験からなる勘だけは、百戦錬磨の王にも負けていなかった。



樹(間違いなく何かを仕掛けてくる)



樹は闘いの経験からか、王から危険な香りを感じ取った。



王(俺のとっておきを見せてやるぜ)



樹の読み通り、王には二人を退ける切り札ともいえる秘策があった。



王は体内から魔光気を向かって来る二人に向かって放出させていた。



王の放出した魔光気は瀬流と臥竜の気脈に侵入していく。



樹「瀬流、臥竜、油断するな!!」



実験体達が戦闘力に関しては自分より遥かに強い為、これまで闘いには口をださなかったが、樹はここで初めて二人に指示を出した。


瀬流・臥竜(コクッ)



樹の言葉を聞いて頷く二人。



これで二人に油断の文字はない。



王を葬り去る為に彼等は持てる全ての力を王にぶつけようとしていた。



だが、二人の身に信じられない様な出来事が間もなく起きる事となる。




――もう一つの亜空間



雷蛾は自らの封印を解き放ち、本当の自分である妖怪の姿に戻ったのだった。



梟「あれが奴の本当の姿」



戸愚呂(兄)「あいつが何者か、俺の“盗聴”で奴の心の声を聞いてやる」



そう言うと戸愚呂(兄)は領域を亜空間内に広げたのだった。



雷蛾(ピクッ)



比羅の部屋では戸愚呂(兄)の領域に気付く事が出来なかった雷蛾であったが、
今度は直ぐに察知した。



雷蛾「この妙な感覚が王の間で言っていたお前の能力の“盗聴”か?あの時は不覚を取って気付かなかったが、今度は分かるぜ」



戸愚呂(兄)「お前は何者だ?」



正体を直接雷蛾に問い掛ける事で、たとえ雷蛾が答えなくても彼の心の声からその正体を探ろうとしていた。



だが、その正体が何者かまでは心の声から伝わって来なかった。



(ニヤッ)
雷蛾「俺は魔界からこの世界に迷い込んだ妖怪さ」



戸愚呂(兄)「何かの拍子で、この世界に迷い込んだくちか」



スッ



雷蛾は手に持っていた鎌を強く握り締めた。



スッ



そして鎌を持った両手をクロスさせてしゃがんだ。



これが雷蛾の戦闘の構えの様だ。



梟「私にはお前が何者かなどはどうでもいい。主であるイチガキ様の命令に従い、お前を倒すまでだ」



戸愚呂(兄)「おい!奴は今からその鎌を投げるみたいだぞ」



雷蛾の心の声から次の行動を読んだ。



梟「そんな獲物では私は倒せん。今度こそ一気に吹き飛ばしてくれる」



スッ



手を雷蛾のいる方向に向けて突き出すと五十以上の追跡爆弾が姿を現した。



雷蛾「さっきまでの数と比べるとざっと数倍はあるな…」



この戦闘が始まってから梟の作り出した追跡爆弾の数では最大の数だ。



大量の追跡爆弾による爆撃で一気に勝負を決めるつもりの様だ。



戸愚呂(兄)「おい!雷蛾の身体を完全には吹き飛ばすなよ。俺はあいつ喰うのだからな」



梟「御安心を。原型を残す程度の爆発力に抑えてあります」



戸愚呂(兄)(イチガキは実験体達が樹や俺にも忠実に従う様にしている。鴉をベースにして作られた別人とはいえ、あの鴉が忠実に俺に従うなんて、全く変な感じだぜ)



雷蛾「俺を喰う?」



戸愚呂(兄)の言葉に反応を示す。



戸愚呂(兄)「クックック、安心しろ、俺は今お前が考えている様なタイプの妖怪ではないぜ。俺が喰うのはお前の肉や魂ではない」



雷蛾「だったら何を食べるつもりだ?」



(ニヤリ)
戸愚呂(兄)「お前の能力だ」


不気味な笑みを浮かべて問い掛けに答えた。



雷蛾「…能力を喰らう様な真似が可能なのか?」



戸愚呂(兄)「クックック、お前、顔には出していないが、心の声からお前の動揺が伝わってくるぞ。現に俺が今使っている“盗聴”の能力も俺がある人間から喰った能力だ」



能力を食べるという戸愚呂(兄)の言葉に雷蛾は強い嫌悪感を覚えていた。



雷蛾「俺はお前の様な不気味な奴に、この世界で死にものぐるいで身につけた俺の能力を喰われるなんてまっぴらごめんだ。絶対に喰われないぜ」



戸愚呂(兄)「どうあがいても必ずお前は俺に喰われる運命にある」



そう言うと戸愚呂(兄)は目で梟に雷蛾を攻撃する様に促した。



梟は黙って頷くと雷蛾に攻撃を開始した。



梟「行け、追跡爆弾」



ギィース



追跡爆弾はいつものごとく不気味な声を上げて雷蛾に襲いかかっていく。



雷蛾「さっきまでの俺と同じだと思うと大間違いだ」


雷蛾はクロスさせた両手を横に広げると同時に鎌を投げた。



シュルシュルシュル



雷蛾の手から離れた二本の鎌には独特の回転がかかり、梟の追跡爆弾に向かって行く。



ザシュ!!



スパン!!



二本の鎌は次々と横一直線に追跡爆弾を斬り裂いていく。



変幻自在に動くその動きはまるで生き物の様だ。



ドガァァァァァン!!!!


斬り裂かれた追跡爆弾はその場で小規模な爆発を起こす。



梟「ほ〜う」



雷蛾は武器である鎌に妖気を込めて頭の中で思い描いた通りに動かしていた。



梟の追跡爆弾は大量の数を擁しながらも雷蛾に届く事なく次々と破壊されていく。



戸愚呂(兄)「おい!奴は鎌の動作を頭の中で指示を出している」



戸愚呂(兄)には鎌を遠隔操作している雷蛾の思考が次々と心の声として伝わっていた。



梟(追跡爆弾の動きの軌道を見切った上で、鎌を操作して破壊している。どうやら今の奴には追跡爆弾はもう通用しないな)



雷蛾(いちいち思考を読まれるのは目障りだ戸愚呂(兄)!先に倒させてもらうぜ)



この心の声も当然だが戸愚呂(兄)の“盗聴”で本人に聞こえていた。



戸愚呂(兄)「おい!雷蛾は鎌で俺を狙っている。俺が危なくなったら直ぐに俺を守るんだ」



直ぐに梟に指示を出す戸愚呂(兄)。



雷蛾の二本の鎌は梟の追跡爆弾をあっという間に破壊しつくしていた。



シュルシュルシュル



追跡爆弾を破壊していた二本の鎌のうちの一本が雷蛾の操作によって違う方向に動き出した。



鎌の向かう先は梟ではなく、戸愚呂(兄)だ。



梟(………)



この動きに気付いた梟は直ぐに戸愚呂(兄)を助ける為に動き始めた。



この時すでに雷蛾の両手には新たな鎌が妖気で精製されていた。



雷蛾「行けーー!!!」



さらに二本の鎌が雷蛾の両手から放たれた。



シュルシュルシュル



二本の鎌は戸愚呂(兄)を助ける動きを見せた梟に向かって飛んでいった。



戸愚呂(兄)「別に鎌が来たぞ!!」



梟「むっ!」



フォー



動きを止めて雷蛾の鎌をかわした。



シュルシュルシュル



梟「チッ、ちょこまかと動いて目障りだ」



変幻自在に動く鎌の前に梟は狙いを定めて爆撃が出来なかった。



この為、戸愚呂(兄)のもとへ向かっていた梟は足止めされた。



そして戸愚呂(兄)に向かっていった鎌が戸愚呂(兄)に襲いかかる。



シュルシュルシュル



戸愚呂(兄)(奴の鎌は左斜めから飛んで来る)



バッ



戸愚呂(兄)は雷蛾の心の声から鎌の軌道を把握して、その攻撃をかわす為にジャンプした。



しかし“盗聴”の能力を使い、心の声を聞いて雷蛾の攻撃を察知していていたとしても、所詮はB級妖怪でしかない戸愚呂(兄)には雷蛾の攻撃を避けるだけの実力はなかった。



ズバァァァァァ!!!!!


戸愚呂(兄)「グワァァァァァ!!!!!」



戸愚呂(兄)の悲鳴が亜空間に響き渡る。



左斜めから飛んで来た雷蛾の鎌は、戸愚呂(兄)に接触する直前、さらに回転を強めて戸愚呂(兄)身体を真っ二つに斬り裂いたのだ。



戸愚呂(兄)の亜空間に張り巡らされた領域は身体を真っ二つにされた衝撃で消えた。



戸愚呂(兄)「チクショー!身体を真っ二つにしやがって……」



ズズズ……



二つに切断された身体をくっけようと戸愚呂(兄)は這い始めた。



雷蛾「大した生命力だ。奴は不死身か?」



シュルシュルシュル



雷蛾は止めとばかりに鎌を戸愚呂(兄)に向かって動かした。



ズバァァァァ!!!!



戸愚呂(兄)「ギャァァァァァァァ!!!!!」



鎌は戸愚呂(兄)の身体をズタズタに斬り裂いていく。


それは目を覆いたくなる様な凄惨な光景である。



ボン!!



ボン!!



梟は自分を襲っていた二本の鎌をようやく爆弾で撃ち落とした。



梟「戸愚呂(兄)様!」



ボン!!



梟は戸愚呂(兄)を斬り裂いていた鎌を破壊した。



戸愚呂(兄)は原型をとどめていない程、斬り裂かれていたが死んではいなかった。その姿は完全に戦闘不能状態になっていた。



再生する為に徐々に動き出していたが、この戦闘の間に元に戻るのはほぼ不可能といえる状態であった。



雷蛾「あの状態で生きているとはしつこい奴だ」



その時だった。



カパッ



倒された戸愚呂(兄)の姿を見た梟は口元を覆い隠していたマスクを自ら取った。


梟「こおおお」



ズズズズズ



梟の髪の色が金髪に変化。


そして口から体内に火気物質を集め始めた。



バチバチバチ



梟の両手が起爆装置となる。



梟は全力の力を持って雷蛾を倒しにかかるつもりだ。


梟「雷蛾というのは本当の名ではないだろう?殺す前にお前の本当の名を聞いておこうか」



雷蛾「フッ、いいぜ。この姿を見せたからには隠す必要はない。俺の本当の名は黒鵺(くろぬえ)元魔界の盗賊さ」



本当の名を告げた雷蛾の首には赤い珠のついたペンダントがかかっていた。



続く
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