幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
28ページ/37ページ

――亜空間



梟のエンドレス・ボムの前に王は立ったまま、ほぼ仮死状態となった。



樹(………)



樹は動かなくなった王を見つめていた。



王の状態を確認する為だ。


樹「あの巨大だった王の魔光気が殆ど感じられなくなったな」



皐月「死んだの?」



皐月の問い掛けに対して首を横に振る樹。



樹「いや、まだ死んではいない。今は仮死状態といったところだ」



ボン!



王の肩が爆発した。



皐月「あんな状態なのに
まだ爆撃が続いてる。容赦ないわね」



相手の息の根が止まるまで続くという梟のエンドレス・ボムが未だに止まっていないという事は、王はまだ生きているという証であった。



樹「フッ、相手が死ぬまで爆撃が止まらずに続くらしいからな。王が死ぬのも時間の問題だ」



イチガキ「ふむ…」



王の様子をジッと見つめ、左手で顎を擦りながら何かを考える様な素振りを見せる。



そして何かを思いついたようにニヤリと笑った。



イチガキ「梟よ、エンドレス・ボムを止めるのじゃ」



樹・皐月(止める?)



イチガキが突然言い出した言葉に一同は驚く。



梟「…分かりました」



スッ



主の言葉に軽く頷くと右手を王に向けた。



エンドレス・ボムを途中で解除する為だ。



樹「イチガキ、何を考えている?」



怪訝そうな顔でイチガキを見た。



するとそこには目をまるで純粋な少年の様に輝かせたイチガキがいた。



イチガキ「本当はワシに死の恐怖を味わわせたこの男にさっさと止めを刺せと言いたいところじゃが。よくよく考えてみればこれほどの素材には滅多に出会えないと思ってな」



皐月「それがどうしたのよ?」



樹は直ぐにイチガキの意図に気付いた。



樹「なるほど。王をお前の実験に利用するつもりというわけか…」



樹の言葉にイチガキは、満足げな顔で、



イチガキ「ヒョヒョヒョ、流石は樹。正解じゃ」



と答えると王を使って
これからどういう研究をするのかを仲間達に熱く語り始めた。



王はイチガキが研究について熱く語っている間に意識を取り戻した。



だが、大半の魔光気を失い、瀕死の重傷を負った王には、もはや抵抗する力はおろか、声すら発する事が出来なくなっていた。



王(……俺を研究に使うだと…、ふざけるなよ…。
俺はお前らなんかに使われるのは絶対にごめんだ……)



イチガキが王を研究に使うという話しも途中からだが、聞こえていた。



王(クソッ!!)



こんなとこで殺されるわけにはいかない。



勝負は絶対に諦めない。生き残る可能性があるなら何が何でもやる。



絶望的な状態になってもそんな強い想いを王は変わらず持っていた。



梟(………)



梟は胸元で腕を組んで王の様子を見ていた。



瀬流「梟」



瀬流が梟の隣に歩いてくる。



梟は隣に瀬流がやって来ても視線を王から離さない。


瀬流「王はこの世界では最強の強さとの事だが、魔界、霊界、人間界の全ての世界を合わせても奴の実力は間違いなくトップクラスにくる男だ」



梟「……だろうな」



途中から王との戦いに参加した梟であったが、王が戦いの中で見せた巨大な魔光気をその肌で感じ、万全の状態の王と全力で戦いたいと彼は思っていたのだった。



イチガキは研究についての話しを仲間達に語り終えていた。



イチガキ「どうじゃ?ワシの考えは素晴らしいじゃろう」



樹「確かに悪くはない。
だが…」



満足気なイチガキと違い、樹の声は、どこか不服そうな感じであった。



イチガキ「だが何じゃ?」



予想外の樹の反応に直ぐに聞き返す。



樹「王の身体を実験に使うのは構わない。
だが、王にこのまま止めを刺さないのは反対だ。この男には浦飯同様に得体のしれない何かを感じる」



王が戦闘不能となり、もはや完全に勝利したともいえる状況の中でも、王に対して強い不安と警戒心を樹は抱いていた。



それは何故か?



樹は相手の持つ能力や潜在能力を会っただけで殆どの事を見抜く事が出来た。



樹の脳裏には王が見せた最強の技がよぎっていた。



戦いの中で王の技の正体自体は見破る事は出来た。



だが、樹が初めて王と出会った時にその技の存在を見抜く事が出来なかった。



それが樹が王を警戒する理由であった。



何故、樹が見抜けなかった相手をそこまで警戒するのか?その要因が彼の過去にあった。



その要因となったのは浦飯幽助である。



仙水忍が引き起こした、4年前の魔界の扉を巡る戦い。



計画が始まる前、樹は浦飯幽助達の能力や潜在能力をその目で見て分析していた。



樹の見立てでは、浦飯幽助と仙水忍が戦えば確実に仙水忍の勝利となるだろうと思っていた。



結果、その分析通り仙水忍は浦飯幽助を倒した。



ここまでは完璧だった。
だが、その時異変が起きた。浦飯幽助の中に眠る魔族の血が突如覚醒したのだ。


樹(俺は浦飯が魔族であった事を見抜けなかった。その為に魔族として覚醒した浦飯によって忍を倒されてしまった)



樹は見抜けなかった事で結果的に大切な仙水忍を失う事になった。




イチガキ「ワシの考えておる今度の実験は生きているものが望ましいのじゃ」



異世界の王というめったに手に入れる事が出来ない素材を目の前にしては、
樹が反対しても、イチガキも簡単には退かない。



二人はついに口論を始めた。



皐月「あらあら……」



皐月は樹がこれぐらいの事で他人と口論する姿を見たのは始めてだった。



皐月「二人共やめなよ」



皐月が樹達の喧嘩を止めに入った。



ピカーー



王の胸にかかる星の宝玉が不思議な光を発していた。


樹達はまだ気付いていない。



皐月「二人とも目的を忘れてない?私達の目的は秘宝よ。まだ王から奪ってもいないじゃない」



樹・イチガキ(!!?)



皐月の言葉で二人は我に帰ったのだった。



樹とイチガキが口論している間、王の脳に語りかける者がいた。



《祐一…祐一…》



王(…幻聴か?…)



《祐一…祐一…》



王(……いや、幻聴ではないな…)



《今、あなたが一番望むのは何?》



王の脳に語りかけてくるその声は女性の声であった。


王(…俺の脳に語りかけるお前は誰だ?)



王の言葉に声の主は笑った感じがした。



《もう一度言います。今、あなたが望むのは何?》

(フフッ、私が分からないとはね。分からない方がいい。何故なら今の私は別の存在…)



王はその問い掛けにニヤリと笑った。



王(フッ、俺の望みか…。今の俺の望みはな…)



王は心の中でその想いを思いっきり叫んだ。



その時、何かが弾けた。



ドーーーーン!!!!!



そして王の身体から再び巨大な魔光気が放出された。



梟(!!!!!)



瀬流「な、何だと!?」



イチガキ「ま、まさか!?」


皐月「う、嘘でしょ…!?」


樹「王!!!」



驚く樹達を前に王は閉じていた目をゆっくりと開けた。



そして王は一歩、また一歩と歩き始める。



その光景に樹達はさらに驚きを隠せない。



臥竜が封じ込めた筈の化粧による呪縛が完全に王の身体から消え去っていたからだ。



瀬流「臥竜が身体を張ってようやく施した化粧が解けている……」



樹「あの状態から何故!?それにお前の身体は一体どうなっている!!」



(ニヤッ)
王「さぁな!」



不敵な笑みを浮かべて右手を前に突き出すと拳を強く握り締めた。



王「ハァァァァァ!!!」



ブォォォォォ!!!!!



王は樹に向かって攻撃的な魔光気を放出した。



樹「ぐっ……!!」



王の魔光気に思わず後ずさる。



樹(…信じられん。この魔光気の強さは俺達と戦う前の状態と殆ど変わらない…)



その額から冷や汗が流れ落ちた。



梟(………)



スッと樹の前に出て来て王と対峙する。



樹「梟!」



王「お前か…」



梟「どうして復活出来たのか不思議だが、今の私にとってはそんな事はどうでもいい。万全の状態に近いお前をこの手で殺せるのは嬉しい」



ブォォォォォ!!!!!



王が樹に向けて放出した魔光気の様に今度は梟が王に向かって攻撃的な妖気を放出した。



王「さっきお前に受けたダメージ分の借り、そして雷蛾の敵討ちをさせてもらうぜ」



スッ



そう言うと戦闘態勢に入る王。



それを見た梟は後ろにいる樹、そしてイチガキ達に向かって、



梟「戦いの巻き添えを受けないように、少し離れていて下さい」



と静かに語りかける。



樹「分かった」



そう言うと樹達は王と梟から少し離れた場所に移動した。



樹達が離れた事を確認すると梟は追跡爆弾を大量に作り出して戦闘態勢に入る。


王はその場で追跡爆弾達を迎え討つつもりだ



梟「行け、追跡爆弾!」



梟の指示に従い、追跡爆弾達が奇声を上げて王に襲いかかる。



王は両手に魔光気を蓄積させ始めた。



王(………)



その時、脳裏に王が復活を遂げる直前に謎の声が言った言葉がよぎった。



王(……俺には時間がない。だが、やるしかない!)


絶望的な状況の中から奇跡の復活を遂げた王。



彼の身に一体何が起きたのか?時間がないという言葉の意味は一体?そして謎の声の主の正体とは?



続く
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ