幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――魔界統一トーナメントCブロックの三回戦・第一試合


九浄(くじょう)
×
酎(ちゅう)



――Cブロック



九浄「それはナイフか?」



酎の手には二本のナイフが握られていた。



そして九浄の問い掛けに酎は不敵な笑みを浮かべて答えた。



(ニヤッ)
酎「ああ。やるかい?ナイフエッジ・デスマッチを」



九浄「ほ〜う。何かの決闘法みたいだな」



酎の突然の言葉に九浄は驚いた様子はなく、
その顔はむしろ“何でも受けてやる”というような面構えだ。



酎「九浄のその顔は勝負を受ける気満々だな。少しはびびるかと思っていたぜ」


九浄「馬鹿言うなよ。さっきも言っただろ?未知の技や能力に興味があると。それが決闘法だとしても例外はない」



酎「やっぱりお前さんは根っからのバトルマニアだ」


そう言うと酎はゆっくりと歩いて移動し始めた。



ドスッ



酎は持っていたナイフの内の一本を地面に突き立てた。



九浄「それで闘うのではないのだな」


酎「ああ。まぁ見てな」



ドスッ



さっきナイフを刺した位置から少し離れた位置に残りの一本のナイフを突き立てた。



酎「準備はこれだけだ。靴を脱いで右足をナイフの前にして踏ん張りな」



そう言うと酎は自分の靴を脱いで右足をナイフの前にして九浄にやって見せた。


(ニヤッ)
九浄「面白そうだな」



九浄も酎に続いて靴を脱いだ。



そして酎の言葉の従って、右足をナイフの前にして踏ん張ったのだった。



互いに向かい合う二人。



酎「そのナイフが境界線だ。この線を越えない事が唯一のルールだ」



そう九浄に告げると今度は拳を強く握り締めて九浄に見せつける。



酎「使うのは肉体のみ。相手をぶっ倒した方の勝ちだ」



挑戦的な目で九浄を見る。


九浄「フッ、分かり易くていいな。シンプルなものは好きだぜ。この線を越えたら負けって事か」



酎「ああ。そういう事だ。止めるなら止めてもいいんだぜ九浄」



九浄「馬鹿を言うな。こんな楽しい決闘法を前にして止めれるか」



酎「俺が考え出した決闘法のこのナイフエッジ・デスマッチ。俺はまだ一度しか敗れた事がない」



九浄「何だ?お前が考え出した決闘法なのに負けた事があるのかよ」



酎(ピクッ)



九浄の言葉に反応する酎。


酎「う、うるさい。さっさと始めるぞ」



九浄「何だ?お前、そんなに自分が負けた事を気にしてんのかよ?」



無敗を誇っていたナイフエッジ・デスマッチにおいて、酎が敗れた相手は只一人。浦飯幽助だけである。



酎は上空に視線を向けて審判の女性に向かって大声で呼びかけた。



酎「お〜い審判のねーちゃん!!!こっちに来てくれや。合図を頼む!!」



審判「は、はい」



酎の言葉を聞いてCブロックの審判の女性は直ぐに地上に降りて来た。



――メイン会場



ザワザワザワ……



Cブロクの闘いを熱心に見ている一部の観客達は酎と九浄がこれから一体何をするつもりか分からない為にざわめきが起きていた。



「何だあいつら。一体何をするつもりだ?」



「酎の奴はナイフを地面にぶっ刺したぞ。何に使うつもりなんだ?」


「向かい合って一体何をするんだ?」



一部の観客達のざわめきを聞いた小兎が観客達に説明を始めた。



小兎「Cブロックの試合を御観覧の皆様、どうやら酎選手のオリジナルの決闘法で決着をつけるもようです」


「おい聞こえたか?あれは決闘法だってよ」



「あの解説の姉ちゃん、よくあれが決闘法だって分かったな」



小兎「私は暗黒武術会で審判をしていた時にこの決闘法を見ましたが凄まじい闘いでした。この決闘法で果たして勝つのは酎選手か?九浄選手か?」



流石(ゴクッ)



鈴駒「酎の得意のナイフエッジ・デスマッチだ。これで勝負はつく」



――Cブロック



審判「準備はいいですか?」


互いに向き合っている酎と九浄に問い掛ける。



酎「ああ」



九浄「いつでもいいぜ」



グググッ



二人の拳に力を込める。



審判「始め!!」



ナイフエッジ・デスマッチの開始の合図がなされた。


観客達、鈴駒や流石、そして多くの選手達が固唾をのんで見守る中、
ナイフエッジ・デスマッチは幕を開けたのだった。



酎「ウォォォォ!!!!」



九浄「ハァァァァ!!!!!」


審判の合図と同時に動き出す二人。



ドォォォォォ!!!



酎の拳が九浄の顔面を殴り、九浄の拳は酎の腹部に入った。



バキィィィィィ!!!!!


今度は九浄の拳が酎の顔面を思いっきり殴った。



ドゴォォォォォ!!!!



酎も負けじと九浄の腹部を殴る。



九浄「うっ……」



ザクッ



強烈な一撃を受けて後ずさった九浄の右足にナイフの刃が刺さる。



酎「ウラァ!!」



ビューーン!!!!



追撃となる酎のパンチ。



ヒュ!!!



そのパンチを紙一重でかわす九浄。



九浄「ハァァァァァ!!!!!」


ズガガガガ……!!!!!


酎「ヌォ!?」



酎の腹部に凄まじい数の連打。



ザクッ



酎の右足に食い込むナイフ。



酎と九浄の右足から血が溢れ出る。



酎「ウォラァァァァァ!!!!!」



バキィィィィィ!!!!!



九浄「セャァァァァ!!!!」



ベキィィィィィ!!!!!


酎・九浄「ぐっ!!?」



二人はお構いなしに殴り合う。



バキィィィィィ!!!!



ベキィィィィィ!!!!



ドゴォォォォォ!!!!



――選手達の休憩所



陣「これが酎がよく言っていたナイフエッジ・デスマッチかー。初めて見たぞ」



凍矢「凄い殴り合いだ。もはやこの闘いは二人の気力の問題。勝利への思いが強い方が勝つ」



――メイン会場



「あいつら凄いぞ!!」



「どっちも化け物だ!!?」


鈴駒「負けるな酎!!」



流石「頑張って!!」



二人は観客席から立ち上がって酎を応援していた。



――Cブロック



バキィィィィィ!!!!



酎の拳が九浄の顔面を殴りつける。



九浄(このナイフエッジ・デスマッチとやらは最高に面白いぜ。負けねーぞ酎)



バゴォォォォォ!!!!!


酎の顎に九浄の一撃が入った。



酎(ぐっ!?俺より見た目は細いくせになんてタフな奴なんだ)



バキィィィィィ!!!!



ドゴォォォォォ!!!!



ズガガガガガ!!!!!



凄まじいまでの殴り合い。


酎・九浄「ウォォォォォ!!!!」



何度も何度も繰り出される二つの拳。



バキィィィィィ!!!!



そしてどんどん右足にナイフが深く突き刺さり飛び散る鮮血。



だが、二人はその痛みを感じていなかった。



痛みを忘れているのだ。



もう目の前の相手を倒す事。それしか二人の頭にはなかった。



無我夢中になって殴り続ける二人の身体はいつしか限界を遥かに越えていた。



だが、強靭な精神力が二人の身体を闘いへと突き動かしていたのだ。



九浄「酎!!お前とここまでの闘いになるとは正直思わなかった。棗への想いは本物だと言う事を認めやる」



バゴォォォォォ!!!!



酎「へへへ、ありがとよ。棗さんを嫁さんにする為に九浄との賭けに勝つのが、俺のこの大会の最大の目標だったが、そいつを抜きにしても今はお前さんに勝ちてー!!!!」



ベキィィィィィ!!!!!


九浄「棗への想いは認めてやるが勝敗は別だ。勝たせてもらうぞ酎ゥゥゥゥゥ!!!!」



酎「負けねェェェェェー!!!!!」


ビューーン!!!!!



二つの拳が同時に放たれた。



ヒュー!!!!!



九浄は酎の拳をギリギリでかわす。



そして。



バキィィィィィ!!!!



酎の顔面に強烈な九浄のパンチが入った。



酎「グォッ!?」



グラッ



この一撃で初めて酎の身体が一瞬、ぐらついた。



その瞬間、力浄がここで最後の勝負に出た。



最後の勝負に使う決め技は、酎に二度も防がれた棗も得意としている必殺の一撃。



酎には通用しないと分かっているのにもかかわらず九浄がこの技を選択した。



それは何故か……?。



九浄「これで最後だァァァァァァ!!!!酎ゥゥゥゥゥ!!!!」



グンンンンン!!!!!



下半身をそのままに凄まじいスピードで上半身を後ろに反らした。



九浄「もらったァァァァァ!!!!」


そして後ろに反らした時に回した両手を重ね、
上半身のバネを使って、一気に酎の腹部を目掛けて突き出した。



ビューーーン!!!



零距離射程での必殺の一撃。



そう。妹である棗はもちろんの事、誰も知らない九浄のオリジナルの技だったからだ。



だが、酎も負けてはいなかった。



酎「ウォォォォラァァァァァ!!!!!!」



グォォォォ!!!!!



九浄が最後の勝負に出た瞬間に酎は九浄の頭を目掛けて得意の頭突きで勝負に出た。



――メイン会場



鈴駒「酎ゥゥゥゥゥゥ!!!!!」



流石「酎ちゃん!!!!」



雪菜「酎さん!!!!!」



――選手達の休憩所



陣・凍矢「酎ゥゥゥゥ!!!!」


痩傑「九浄ォォォォ!!」



才蔵「行けェェェェ!!九浄ォォォォ!!!」



――Cブロック



メイン会場、選手達の休憩所で二人の仲間達が見守る中、ついにナイフエッジ・デスマッチは決着を迎える。



ドゴォォォォォ!!!!



審判(!?)



直ぐ近くで二人のナイフエッジ・デスマッチをずっと見ていた女性審判は驚く。


審判「あ、あ……」



九浄の零距離射程の必殺の一撃は酎の腹部にめり込み、酎の頭突きは九浄の頭部に直撃していた。



酎・九浄(………)



ガクッ



一人は地面に膝をついた。


グラッ



そしてもう一人は身体がグラついた。



その身体は崩れ落ちる様に前に倒れる。



ガシッ!!



膝が地面についている者が崩れ落ちるもう一人の身体を両腕でしっかりと支えた。



九浄「あの態勢から頭突きかよ。やるじゃねーか」



酎「俺はお前さんがあの距離から一撃を放ってくるとは思わなかった…」



お互いの目を見つめる二人。



………。



………。



………。


男達の間で沈黙が続いた。


ほんの数秒でしかない僅かな時間だが、
激しい闘いを繰り広げた二人は目と目で語り合う……。



酎・九浄(二コッ)



二人は闘いに満足した様な、そんな笑顔を見せた。



そして九浄が口を開いた。


九浄「今回は俺の負けだ酎」


酎「あっ?倒れたのは俺の方だぜ…。何言っているんだ…?あんなに負けないって言っていたのに…」



九浄の腕に支えられながら酎は答える。



九浄「勝負は本当に紙一重だったぜ。どっちが勝ってもおかしくなかった。前の大会ではあれだけ力の差があったお前に追い付かれた上、ここまでやられたら負けも同然だ」

(それに思ってしまったんだよ。お前がこの大会で一体どこまで勝ち進めるか見てみたいってな)



酎「妖気が殆ど尽きただけでなく、またも得意のナイフエッジ・デスマッチに敗れてへこんでいる俺にまだ闘えってのか?」



九浄「ああ、もちろんだ。それにへこんでいたらあいつに嫌われるぞ“義弟”」


酎を義弟と呼んだ九浄。



その声はどこか親しみがこもっていた。



賭けは酎が勝ったのだ。



酎「へっ……」



九浄の義弟と言う言葉を聞いた酎は目を閉じて九浄の肩に顔をうずめたのだった。



九浄は酎の背中をポンポンと軽く叩いた。



(ニコッ)
九浄(これから妹を頼んだぜ酎)



大会史上、最も激しい肉弾戦を繰り広げたCブロックの三回戦第一試合は酎の勝利で幕を閉じたのだった。


続く
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