幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――亜空間



この場所で神夢界の王と闇撫の樹達の間で壮絶な死闘が繰り広げられた。



圧倒的な力を持つ王を相手に樹達は苦戦を強いられながらも最後は梟の手によって王を倒したのだった。



臥竜と梟は王との戦いで失った身体の部分は自らの能力で再生しているものの、かなりのダメージを受けていた。戦いの凄惨さがここから伺える。



そしてその凄惨な戦いの末に、仙水忍の復活の為に必要であった神夢界に伝わる秘宝・星の宝玉がついに樹の手に渡ったのだった。



樹「これで忍の魂と肉体を一つにして蘇生させる事が出来る」



樹は星の宝玉を強く握り締める。



イチガキ「ヒョヒョヒョ、ワシらの目的が一つ果たせたのう。早速試してみようではないか」



瀬流「イチガキ様、その前に臥竜と梟はかなりのダメージを受けています。失った身体の部分は再生はしていますが、治療をした方が良いと思います」



梟「私は大丈夫だ」



臥竜「強がるな梟、お前も俺と同様にかなり大きなダメージを受けている」



イチガキは瀬流の言葉を聞いて臥竜と梟の身体の状態を見る。



イチガキ「フム、そうじゃのう。この傷では自然の再生能力だけでは時間もかかるわい。
何があるか分からんし、
お前達はいつでも動ける状態にしておかねばならんしのう。なら臥竜と梟は装置の中に戻って機能を停止させて休むがいい。ワシが後で調整してやろう。瀬流は二人を連れて行った後、ワシらの護衛をしてくれ」



実験体達「分かりました」



瀬流は臥竜と梟を連れてこの場を後にしようとした。


イチガキ「そういえば……」


イチガキはこの場にいない一人の妖怪の事を思い出した。



イチガキ「梟よ、戸愚呂(兄)の姿が見えんがあやつははどうしたんじゃ?」



梟は瀬流の肩に担がれながら振り向く。



梟「戸愚呂(兄)様は私が倒し瀕死の状態に陥っていた黒鵺……いや雷蛾を自分の手で苦しめたいと言われ、あの場に残りました」



イチガキ「ヒョヒョヒョ、相変わらずじゃのう。雷蛾を拷問でもしているのじゃろう」



樹「フッ、そうだろうな。だが、俺達は王との戦いで時間を取り過ぎた。あいつには早速やってもらわねばならない事がある。あまりのんびりは出来ない」



樹はそう言うと戸愚呂(兄)に念信を送り始めた。



ところがいくら樹が念信を送っても戸愚呂(兄)からは応答がない。



樹「……チッ、あいつめ、念信に応じないな」



イチガキ「あやつの事じゃ、拷問に夢中になっているのじゃろう」



樹「皐月、戸愚呂(兄)のいる場所まで行き、戸愚呂(兄)に忍の身体を置いている場所まで来るように言って来てくれ」



皐月「え〜〜〜、
あいつ気持ち悪いから嫌だな…」



戸愚呂(兄)に嫌悪感をあらわしながらも、樹の頼みなら断れない皐月はしぶしぶ戸愚呂(兄)のいる場所に向かう。



樹「イチガキ、俺達も忍のところに行くぞ。この秘宝を早速使う」



(ニヤッ)
イチガキ「ヒョヒョヒョ、いよいよじゃな」



樹はこの場を去る前に王と死闘を繰り広げた場所を見渡した。



樹「殺すには惜しい男だったな……」



イチガキ「うん?何か言ったか樹?」



樹「いや、何でもないさ」



樹と王はお互いの目的は違うが、自分の目的にかける執念は王にどこか自分と似た部分を感じていたのだった。



樹(王よ、お前とはまた別な形で会いたかった)



――雷蛾と梟・戸愚呂(兄)が死闘を繰り広げた裏男の体内にある亜空間



皐月は樹の念信に応じない戸愚呂(兄)を呼びに来ていた。



皐月は辺りを見渡すが戸愚呂(兄)と雷蛾の姿は何処にもなかった。



皐月「変ね…あいつ何処に行ったんだろう」



――仙水忍の遺体を置いてある亜空間に樹、イチガキ、瀬流がやって来ていた。



樹は目の前に横たわる仙水忍に強い想いを秘めながら見つめていた。



樹は仙水忍の遺体から目を離し、亜空間の空を見上げるとゆっくりと両目を閉じた。



彼の脳裏に生前の仙水忍の顔が浮かぶ。



樹(…忍)



――樹の回想



あれは浦飯達と戦う前の事。



俺は忍が死の病にかかっている事をDr.神谷から聞いて初めて知った。



樹「病だと!」



突然知らされた衝撃の事実に俺は自分でも驚く程の声を上げてしまった。



(ニヤッ)
神谷「フッ、普段はクールなお前が大きな声を出すとは珍しいな」



神谷は俺が大きな声を上げたのが意外だったようだ。


樹「神谷、お前が今言った事は本当なのか?」



俺は少し落ち着いた声で、もう一度神谷に訪ねた。奴が話した内容は俺としては受け入れがたい話しだったからだ。



神谷「ああ。間違いない。彼の身体を俺は診断した。間違いなく悪性の腫瘍に侵されている」



樹(……)



神谷「普通の人間なら既に墓の中にいてもおかしくない状態だ。彼が今も生きていられるのは鍛え上げられた肉体、そして巨大な霊気があるからこそだ」



樹「神谷、お前の能力で忍の身体を治療する事は出来ないのか?」



神谷「こんな俺でも一応は医者のはしくれだ。治せるものならとっくに治しているさ」



神谷の顔は笑っているが、忍の病を自分の能力を持ってしても治せない悔しさが俺に伝わってきた。



樹「分かった。神谷、他の奴らには忍の病の事は言うな」



神谷「もちろん心得ているさ。俺はあんただから話したまでだ」



俺は神谷から話しを聞いてからは、忍の様子を常に目で追うようになった。



しかし忍は重度の病に犯されているとは思えないほど普通の姿で俺達に接していた。



俺はある日思い切って忍に聞いて見る事にした。



仙水「へへへ樹かよ。何だお前、深刻そうな顔をしてどうしたんだ?」



樹「今はカズヤか。悪いが忍に変わってくれ」



カズヤ「忍の奴は最近疲れているようだぜ。俺が呼んでもでないかもな」



樹「それでも構わない。忍を呼んでくれ」



カズヤ「へへへ、しようがないな。ちょっと待てよ」


カズヤは俺の前で目を瞑ると主人格である忍と話し始めた。



樹(カズヤは忍が疲れていると言ったな。そういえばここ最近、忍が出て来る回数が減ってきているな)



俺がそんな事を考えているうちに人格同士の会話が終わったのか、カズヤの表情が徐々に変化して来た。主人格である忍が現れたのだ。



仙水「樹、俺に何か用でもあるのか?俺もお前に頼み事があったからな。丁度いい」



ほぼ毎日会っているのにもかかわらず俺が“忍”と話しをするのは実に一週間ぶりだ。



樹「お前、俺に隠している事がないか?」



仙水(………)



忍は俺の言葉で俺が一体何を言いたいのか直ぐに分かったようだった。



仙水「お前のその様子だと神谷から俺の身体の事を聞いたようだな」



樹「ああ」



仙水「隠していたつもりはない。いずれは分かる事だ。お前には話すつもりでいた」



樹「…そうか…」



俺はここで一つの疑問を忍に問い掛けた。



樹「主人格であるお前が出てくるのが最近減ってきたのは最も霊力が強い忍が出てくる事で身体に与える負担を減らし病状の進行を遅らせているのだろう?」



(ニコッ)
仙水「お前には隠し事は出来ないな。そうだ」



樹「それで今は身体は大丈夫なのか?」



忍は屈託のない笑顔でおどけながら俺に答える。



仙水「見ての通りだ」



樹「フッ、馬鹿な質問だったな。樹「お前は簡単には死ぬ男ではない」



忍の身体からは抑えていても溢れるばかりの巨大な霊気が感じられる。



忍からは悪性の腫瘍に蝕ばれているようには全く感じられない。



仙水「人間を皆殺しにする計画は“俺達”の中でまとまった」



樹「珍しいな性格が全く違う“お前達”の意見がまとまるとはな」



仙水「樹、お前にはこれからやってもらわないといけない事がある」



忍は俺の力で魔界の扉を開いてくれと頼んできた。



樹「分かった。俺はこれから魔界の扉を開く“門番"となる」



仙水「頼んだぞ樹」



悪性の腫瘍に犯され余命いくばくもない忍、そして他の六つの人格には迷いはない。



俺に出来る事は忍の“コマ”として動くのみだ。



ところがその翌日、俺は見てしまった。そう、忍が俺達には気付かれないようにしていただけで、影では病に苦しんでいたという姿を。



仙水(ハァハァハァ……)




胸を抑えて忍はしゃがみこんでいた。



樹(忍……)



忍は俺の存在には気付いていない。だが俺は忍に駆け寄るのを止めた。



忍は俺達に病気で苦しんでいる姿を見せたくないというのは長年のパートナーである俺にはその後ろ姿から分かった。



樹(忍よ、お前が忍である時に想像を絶する苦しみの中で俺にはそんな素振りを見せてくれなかったな。俺はそれが少し悔しかった)



――樹の回想・終
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