幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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九浄「俺と酎の試合は、
俺が今話した通りだ」



棗「そっか…、酎が勝ったんだ」



ここは救護室の中の一室。


九浄は妹の棗に自分と酎の試合の事を話したのだった。



棗は恋人が勝って嬉しい気持ちと兄が負けてちょっと複雑な気持ち。



そんな微妙な女心を覗かせていた。



棗はチラッと九浄の顔を見る。



その視線に気付く九浄。



九浄「何だ棗?何か言いたそうだな」



棗「九浄は本当に良かったの?酎に勝ちを譲ったりして……」



棗の問い掛けに九浄は笑みを浮かべて目を閉じた。



九浄「ああ。あいつのお前への強い想いはよく分かったからな。もうこの大会には満足したよ」



(ニコッ)
棗「さっきの酎の顔と九浄の顔を見たら、殴り合いで分かりあった感じみたいよね」



九浄「まぁな。酎はどう思っているか分からないが、俺は勝ちを譲ったとは思っていないぜ。あいつの勝ちさ」



そう言うと九浄は棗の肩に手を置いた。



九浄「闘ってみて俺は、
あいつにならお前を任せられると思った。お前はあいつからのプロポーズは受けるつもりだろう?」



棗(ニコッ)



兄の問い掛けに笑顔で答えたのだった。



棗の脳裏に酎と付き合う前の手合わせをしていた頃の映像が流れる。



――三年前



魔界の広い大地で手合わせをする酎と棗。



ズン!!!!!



いつもの様に棗は体重を前にかけて一歩を踏み出して必殺の一撃を放つ。



ドゴォォォォォ!!!!



酎の腹部に直撃。



ヒューーー!!!!!!



吹き飛ぶ酎の身体。



ドシャッ!!!!!



酎は両手を横に広げて仰向けになって倒れた。



腕を組んで、やれやれといった表情で倒れた酎を見つめる。



棗「全然だめ、てんでダメよ。スピードも技のキレも問題外。あんた見込みないわ。あきらめなさい」



倒れた酎に向かって冷たく言い放つ。



酎は完全にダウン。



棗は手合わせは“これで終わりよ”と言わんばかりに、その場から立ち去ろうと歩き出した。



ガバッ!!!



すると酎は凄い勢いで起き上がった。



酎「まだだ!!まだまだ時間はある!!」



起き上がった酎は血を口にいっぱい溜めて大声で叫ぶ。



酎「必ず追いつく。いや、追い越して見せるぜ。
その時お前は俺を見直すのだ」



棗「バーカ」



後ろを振り向く事なくそのまま歩き去る棗。



酎「ワハハハハ」



酎の高笑いが広い大地に響く。



笑い声を背に受けて立ち去る棗の顔は笑っていた。



――救護室



棗(フフッ、あの頃は私にしょっちゅう手合わせを挑んでは、防御を知らないあいつは私の一撃を毎回の様に受けてはボロボロになっていたわね)



――二年前



棗「身体の鋼鉄化!?」



ガシッ!



棗(!)



酎は棗の右手を捕まえた。


酎「これが棗さんに勝つ為に編み出した爆肉鋼鉄だ」


ブーーン!!



その場で棗を一本背負いで投げ飛ばした。



ドタッ!!



地面に背中を打ちつける棗。



棗「痛たた…、油断したわ」



ムクッ



棗は直ぐに立ち上ろうとした。



酎「フン!!」



グォォォォ!!!!!



棗(!!)



棗が起き上がる瞬間に酎は得意の頭突きを放った。



ピタッ



棗に頭突きが直撃する直前に酎はその攻撃を止めた。


棗「当てないの?」



(ニッ)
酎「いくらなんでも女性に頭突きなんてくらわせないぜ」



棗「身体を鋼鉄化させるなんて驚いたわ。貴方相当、特訓してきたようね」



酎「棗さんにどうしても勝ちたかったからな」



棗「油断していたとはいえ、予想外の技で私から一本を取ることが出来たわね。悔しいけど私の負けだわ」


酎「じ、じゃあ、棗さん、お、俺の勝ちでいいんだな!!」



棗「不本意だけどね」



(ニカッ)
酎「おっしゃァァ!!!」


酎は両手を上に突き上げて、人生最高の満面の笑みを浮かべた。



酎「じ、じ、じゃあ、棗さん、俺の女になってくれるんか?」



棗「…まぁ正直、私の好みのタイプじゃあないけど、約束だからね。いいわよ。それに私を想ってここまで強くなったあなたなら大事にしてくれそうだしね」



ポーー



酎は頭から足下まで全身が完全に真っ赤になった。



――救護室



棗(フフッ、あの時の酎は本当に茹で蛸みたいだったわ)



――大会の少し前



棗「ああ、酎いらっしゃい…って、なんなのそのかっこうは!?」



棗は驚きの表情を浮かべた。なんと酎が綺麗な服を着て正装して現れたのだった。



棗(……)



酎(……)



棗「ぷっ、あははは!!!酎、あんたにそんなかっこうは似合わないわよ〜」



棗は酎の姿を見て涙を流して大笑いした。



酎「う、うるせ〜!!今日は棗さんに大事な話しがあるんだ」



棗「あ〜おかし過ぎてお腹が痛い…。大事な話しって何?」



酎「た、単刀直入に言うぞ。な、棗さん、お、お、俺と一緒になってくれ!!」


棗(えっ!?…これってプロポーズよね…)



ポーー



棗の顔が赤くなった。



棗(ど、どうしようか……?でも酎なら私の事を大切にしてくれるだろうしな…)



――救護室



棗(あの時は驚いたわ。いきなり正装してきたんだもの。あれから九浄が乱入して、酎と九浄の賭けが始まったのよね)



――三回戦の第一試合が始まる直前



酎「棗さん、俺は九浄に勝って見せるぜ。そんで棗さんにもう一度プ、プロポーズするぜ」



顔を真っ赤にして話す酎。


その姿を見て楽しそうに棗は笑う。



棗「フフ、本当に茹で蛸みたいね。酎、貴方の私への気持がどれだけのものか、この試合で証明してもらうわよ。九浄にもし本当に勝てたら私は貴方のプロポーズを受ける」



酎(!!)



ブォォォォォ!!!!!



棗の言葉に急激に妖力を上げる酎。



酎「絶対に勝ーーつ!!」


――救護室



棗(あいつが本当に九浄に勝つなんて……)



クスッと心の中で笑う。



棗の心は既に酎と交わした約束通りにプロポーズを受ける決心をしていた。



棗が目を閉じると浮かぶのは暑くるしいモヒカン男の顔。



胸に両手を重ねて心の中でそのモヒカン男に向かって呟いた。



棗(好きだよ酎)



それは一つの格闘愛が本当の意味で実を結んだ瞬間であった。



――選手達の休憩場



桑原「おめーは確か予選で躯のとこの雑魚とかいう奴を倒した奴じゃねーか!!おめーがスクリーンで闘っているとこを見たぜ!!」


「へ〜、俺が闘うところを見ていたのか。俺の名は楽越だ。宜しくな」



桑原と雪菜の前に突然接触してきた赤い髪の男は比羅達の同士の一人の楽越であった。



桑原「それで、俺に一体何の用だ?」

(こいつ、近くで見るとなんか浦飯に雰囲気が似ているな)



楽越「お前の闘いはずっと見させてもらっている。人間とは思えない闘いぶりだ。本当に大したものだ」



(ニヘラ〜)
桑原「照れるじゃねーか」



突然話しかけてきた楽越をやや警戒気味の桑原であったが、この楽越の言葉に気をよくして警戒心を解いたのだった。



雪菜はそんな桑原の隣から楽越の様子を伺う。



雪菜(この人は妖怪……?感じる気は確かに妖気だけど、どこか違和感を感じる)



楽越は雪菜の視線に気付いた。



楽越「隣の可愛い姉ちゃん、俺の顔に何かついてるかい?」



雪菜「い、いえ!!?」



慌てて誤魔化す雪菜。



楽越「フッ、それならいいんだけどな。話しは戻すが、俺はさっきの試合であんたが見せた能力に興味があってな」



桑原「俺の能力?」



楽越(ニヤッ)



その笑い方はどこか二人を狙った金髪の男・比羅を彷彿させるものがあった。



雪菜(…………!?)



雪菜は何か分からないが強く胸に引っかかるものを楽越から感じ取ったのだった。



楽越(闘いに夢中ですっかりあんたの事を忘れていた。あんたが三回戦で見せたあの剣のおかげで思い出したぜ。おそらくあれが、比羅が言っていた俺達に必要な能力だ)



楽越の脳裏に桑原と時雨の試合が浮かんだ。



――救護室



棗「そういえば九浄、他の試合の結果はどうなったか知ってる?」



急に思い出した様に九浄に問い掛ける棗。



棗は自分達以外の試合。
つまりAブロックの桑原と時雨、Dブロックの蔵馬と梟の試合がどうなったか、気になったのだ。



特に棗が気になったのは、蔵馬が桑原の放出した霊気に触発されて放出した妖気の気質であった。



九浄「他の試合?」



他の試合という言葉に九浄は棗に言いたい事があった事を思い出した。



九浄(そう言えば棗に話そうと思っていた事があったな……、何だったかな?)


喉まで出かかっているが、それが何か思い出せない九浄。



棗「あの桑原って人間が霊気を放出した時の事覚えてる?」



九浄(!)



九浄は棗の言葉で言いたい事を思い出した。



九浄「そうそうそれだ。
桑原って人間の霊気は気持ちがいいぐらいに気合いが入っていたな。久しぶりに血が騒ぐほど燃えたぜ。
お前も鉄山も妖気を全力で放出していたから、
かなり燃えたんだろう?」


棗「まぁね。私も鉄山もあれがきっかけで闘いが大きく動いたしね。その雪菜ちゃんの大切な彼の事も気になるけど、私が今一番気になるのは……」



九浄はここで棗の聞きたい試合がどの試合の事か漸く察した。



九浄「お前が聞きたいのは、もしかしてDブロックで闘っていた蔵馬の事か?」


棗「ええ、そうよ。あの時、彼も私達と同じ様に妖気を放出したのは覚えているでしょう?」



九浄「ああ」



棗「あの時、私が彼から感じ取った妖気は、
まるで命がけの最後の力を振り絞った様な…。そんな感じの妖気だった」



九浄「俺達は気付かなかったが。だが、あの蔵馬の試合は、二回戦の桑原と武威という男の試合の様にかなり激しい、まさに命をかけた死闘になったらしい」



蔵馬とは前大会の三回戦で闘っている為に彼をよく知る九浄だけに、
蔵馬の話しになって表情が少し曇った。



棗「死闘……」

(私があの時に感じた妖気の気質は気のせいではなかった)



九浄「ああ死闘だ。お前が意識を失っている間に、
一緒にいた雪菜に詳しく話しを聞いたよ」



棗「その蔵馬はどうなったの?」



九浄「お前と蔵馬はあまり面識はない筈だ。それなのに気になるのか?
今、もし鞍替えしたら酎が泣くぞ」



ちょっと妹をからかう様な口調。



棗「馬鹿。そんなわけがあるわけがない。あの時に感じた妖気が気にかかっただけよ」



九浄「フッ、冗談だよ。蔵馬は今でもこの救護室の一室で治療を受けている。
かなり酷い傷の様だが、
命には別状はないみたいだ」



棗「彼は勝ったの?それとも負けたの?」



九浄「雪菜から聞いた話しだからまた聞きになるが、それで良ければ話すよ。
あの試合は選手達の中から闘場内に乱入者が現れるなど、大きなハプニングがあった様だ」



棗「ハプニング?」

(それに乱入者って一体!?)



九浄「ああ。それで蔵馬の勝敗だが……」



九浄は蔵馬の試合結果を伝えた。



そして酎と自分が闘った時の話しの様に、
雪菜から聞いた話しを棗に語り始めたのだった。



楽越の回想する桑原と時雨の師弟対決。



そして九浄が語り始めた、命をかけた激しい死闘となった蔵馬と梟の闘いは一体どのような闘いだったのか?



そしてDブロックの闘場に乱入した者とは一体誰なのか!?



三回戦のAブロックの第一試合。



時雨(しぐれ)
×
桑原(くわばら)



三回戦のDブロックの第一試合。



蔵馬(くらま)
×
梟(ふくろう)



この二つの激戦を同時に追いかける。



続く
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