幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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――世界には人間が住む世界である人間界。



死んだ人間の生前の行いから天国行きか地獄行きかの行き先を定める世界である霊界。



そして邪悪な妖怪が住むとよばれる魔界が存在している。



だが、この三つの世界以外にも存在する世界があった。



その世界は太陽の光が遮られ、永遠に続く闇の世界。



そしてこの世界に住む人々は、生まれた時から人間の持つ霊気、そして妖怪の持つ妖気の二つを合わせ持っていた。



霊気と妖気を合わせ持った気を人々は魔光気と呼んでいた。



何故二つの気をこの世界の住人が生まれ付き持っているのかは、住人ですら知る者はいないという。



そして謎に包まれたこの世界の事は膨大な資料を要する霊界ですら、この世界の事が書かれた資料が殆ど存在していない。



暗い闇に包まれたこの世界は、実は闇に包まれていない時があったという。



その頃は、陽の光が射し込み、綺麗な水が川に流れ、美しい森が広がり、小鳥の囀りが聞こえる。まさに
楽園とも呼べる世界であった。



この世界が闇の世界になってしまったのは、遥か遥か昔に巨大な力を持った者達が、突然姿を現した為だと伝えられている。



彼らはどこからやってきたのかは分からない。



何者かすら書き記された資料は一切存在しない。



一説によると彼らは人間界の人間とも、魔界の妖怪とも言われているが定かではないが、一つだけ言えるのはこの世界の者ではなかったということ。



王家に代々伝わり続けた伝承には、この世界に現れた彼らの中で最も力を持っていた者がその力を暴走させたと伝わっていた。



暴走させた力は世界を飲み込むほどの巨大な力だった。



力を暴走させた者を人々は破壊神と呼んだ。



暴走する凄まじい力の前の美しい緑は枯れ果て、
太陽の光は遮られた。



そして大地に生息する生物、そして多くの人々が命を落とした。



世界は滅亡の危機に扮した。



だが、この世界は滅亡しなかった。



それは何故か?



破壊神となった者とその仲間達は突如、この世界から姿を消したのだ。



諸々の説によると彼らは破壊を尽くした世界に興味をなくして立ち去ったという者もいれば、
彼らを追って来た同じ異世界の者に倒されたという者もいる。



真実は闇の中だ……。



――王の部屋



王「比羅、俺があの秘宝を本当に貸し出すとお前は思っているのか?」



王は目を細めて比羅の目を見つめた。



比羅「祐一、するとお前は!?」



王(ニヤッ)



比羅「樹を利用するつもりだな」



王「ああ。だが、俺の本音を言えば利用する形を取らずに貸してやりたい気はするが、あの秘宝の力は何が起こるか分からない」



比羅「懸命な判断だ祐一。少し安心した。王として成長しているようだ」



そう言うと比羅はワインを飲み干した。



比羅「だが、樹はどうするのだ?奴は貸し出さないと知れば黙ってはいないだろう」



闘いにおいては比羅や他の同士達より遥かに力の劣る樹であったが、比羅は樹の持つ力を越えた何かを警戒していた。



王「樹は次元を自由自在に移動出来るだけでなく、相手の持つ能力まで見抜くから驚かされる」



比羅「私は見せてもいない赤いフィールドを、一目であいつは見抜いた。そうでなければ桑原が私達の求める能力を持っていると言われても信じる事はなかったな」



樹は桑原の眠る潜在能力がこの世界を救う可能性がある事を王や比羅達に初めて接触した時に伝えた。



その時、多くの者が戯言だと疑う中で、樹は臆する事なく、彼らの持つ能力を見抜き、その場で次々と言い当てたのだった。



樹の戯言と疑っていた者も不信感を残しながらも、樹の言葉を信じるしかなかった。



(ニコッ)
王「比羅、樹の事は俺に考えがある。任せておけよ」


自信ありげな表情を比羅に見せた。



その顔は何か大きな考えがあるように見えるが、
王の性格を良く知る比羅はその表情から既に察していた。



比羅(フッ、何時もの様に何も考えていない顔だ。
だが、考えていなかったとしても必ずやってくれるのが祐一だ。大戦もそれで勝つ事が出来たのだからな)


比羅は王である祐一を親友として心の底から信頼すると共に自らが仕える主として祐一に熱い忠誠を誓っていた。



王「本当なら人間界で人間として16年間生活していた俺が桑原捕獲に行くのが一番いいのだがな。こういう時は王という立場がなければなと思うよ」



ガラガラガラ



王は部屋の窓を開けた。



部屋の中にビューっと強い風が入り込んだ。



比羅は美しい金髪を風になびかせながら王に近付き横に並ぶ。



比羅「桑原の捕獲は今度こそ上手くやる」



王は横目で隣にやって来た比羅の顔を見る。



王「期待してるよ。
でも桑原が普通の人間より遥かに霊力が強い人間とはいえ、あまりムチャな事をするなよ。目的の為なら
お前は容赦しないところがあるからな」



比羅に親友として忠告の意味を込めて王は言ったのだった。



比羅「フッ、気をつけるよ」


親友の言葉を受け止めると比羅は王と外を見つめた。


心地よい風を浴びながら、二人は僅かな一時を楽しんだのだった。



――楽越の部屋



楽越の部屋の前に袂がいた。



コンコンコン



袂は楽越の部屋の入口のドアを軽くノックする。



………。



だが、部屋の主からはノックに対する返事が返ってこない。



袂「彼が留守と言う事はないと思いますが…」



コンコンコン



もう一度部屋をノック。



………。



やはりノックに対する返事は返って来ない。



袂(留守みたいですね…)



袂はドアノブに手をかけて回した。



袂(鍵がかかっていない)



カチャッ



不信に思った袂は直ぐに部屋の扉を開けた。



袂「楽越、入りますよ」



部屋に入った袂は部屋内を見渡した。



楽越の部屋は散乱した荷物が目立ち、とても汚い部屋だった。



袂「やれやれ汚い部屋ですね。しかし鍵も掛けずに楽越はどこにいったんだろう?」



楽越が留守と分かり、ここにいても仕方ないと思い、袂が部屋を出ようと、身体の向きを変えたその時だった。



袂「あれは?」



入口の横の壁に貼られているメモを発見した。メモにはどうやら何か文字が書かれている様だ。



メモを手に取ると直ぐに内容を確認した。



袂「こ、これは!?」



メモの内容を確認するなり袂の表情が一変した。



袂「これは直ぐに比羅に知らせないと」



袂は慌てて楽越の部屋を飛び出したのだった。



――王の間の外



王と暫し時を過ごした比羅は自分の部屋に戻ろうと歩いていた。



「比羅」



前方から比羅の名を呼ぶ声が聞こえる。同士の駁である。



比羅「駁か、どうした?」



比羅は目の前にやって来た駁に問い掛ける。



駁「丁度お前に話しがあって捜していた所だった。
王の元に行っていたのか?」



比羅「ああ。樹の件で王に話しがあって行ったのだが、最終的には久しぶりに王と二人でゆっくりと話しをしたよ」



親友との語らいをした為か、比羅の声はいつもより明るい。



駁「相変わらず王とは仲がいいな」



以前から二人の友情を知る駁も比羅の話しを聞いてどこか嬉しそうだ。



比羅「立場を離れれば親友だからな。それより私を捜していたとは何の用だ駁?」



駁「それがだな…」


駁の表情から比羅はおおよその検討はついていた。



比羅「お前のその表情から何の話しか分かったよ」



比羅はそう言うと近くにある部屋で話そうと目で合図した。



――王城の一室



部屋に入ると直ぐに駁は本題を話し始めた。



駁「比羅、あの男の言っていた策に従うのか?」



王の勅命が出ているとはいえ、駁はやはり妖怪である樹の策と言うのが腹立たしい様だ。



比羅「樹の言う通りなら
彼の策に従って私達は動いた方が得策だ」



比羅は駁を諭す様な口調で話した。



そして暫く比羅は駁と話しをした。やはり駁の樹に対する不満は拭えなかったが、とりあえずはおさまった。



そして二人の話しは魔界で行われる大会に移行した。


駁「魔界で新しい王を決める大会があるとはな」



比羅「その大会で奴らはお互いが競い合うことで多くの者が妖力と体力を消耗することだろう」



駁「その大会直後で消耗している奴らを相手に俺達は戦力を結集して桑原の捕獲に乗り出すというわけだな」



比羅「そういうことだ。大会が終了次第、私達は行動を起こす」



(ニヤッ)
駁「魔界の連中と闘いになっても消耗した奴らなら俺達の相手ではないぜ」



不敵な笑みを浮かべて
自信ありげに話す駁。



その時だった。



ガチャッ



扉を開けて袂が入って来た。



余程慌てているのか、
袂は汗だくになっていた。


袂「比羅、駁、大変です!楽越が勝手に単身、魔界に向かいました」



比羅・駁「何!?」



比羅と駁は突然、袂がもたらせた報告に驚きの声を上げた。



そしてこの楽越の勝手な行動が比羅達を予定より早く魔界へ誘う事となったのである。



――亜空間



樹と仲間達は亜空間内に投影した映像で比羅や他の将軍(同士)達が再び集まって話しをしているのを見ていた。



戸愚呂(兄)「何事だ?あいつら、ちょっと前に集まったばかりだと言うのにまた集まっているな」



樹「どうやら楽越が魔界に一人で向かった様だ」



映像から聞こえる音声から、樹の読み通り直ぐに魔界に向かう事が比羅の口から話されていた。



皐月「フフ、樹の読み通りに事が運びそうね」



樹「予定より早く行動を起こす事がこれで出来そうだ」



二人の闇撫は順調に計画が進んでいる事に満足といった表情だ。



樹は仲間の中の一番後ろから映像を見ているイチガキに視線を移す。



樹「イチガキよ、いよいよお前の実験体達の初披露目となる闘いとなる。準備は出来ているな」



邪悪に満ちたイチガキの目が樹の言葉に光輝く。



イチガキ「ヒョヒョヒョ、準備は出来ておるぞ。見るがいい」



スッ



イチガキはそう言うと手を上に上げた。



フッ



すると三人の男達が姿を現す。



彼らは白いフードで顔を隠していた。



その身体からは抑えていても凄まじい妖気が放出されていた。



樹「この者達で“あの男”を殺せるのか?」



樹の問い掛けにイチガキは自信ありげな顔で答えた。


(ニヤリ)
イチガキ「いくら“あの男”がこの世界最強といえども、ワシの作った実験体は最強じゃ。しかもそれが三人もいるのだ。“あの男”を確実に殺せる筈だ」



樹「いい答えだ」



イチガキの答えに樹は満足そうな顔を見せると同時に投影している映像を別の映像へと切り替えた。



その切り替えた映像には、この世界の王である祐一が映し出されていた。



王の姿を挑戦的な目つきで見つめる樹。



その右手にはナイフが握られていた。



樹「俺達の闘いがいよいよ始まる。お前達、もはや後には引けないぞ。いいな」


樹の言葉に皐月、戸愚呂(兄)、イチガキが同時に頷く。



そしてナイフの先を映像の王に向けると樹は高らかに宣言した。



樹「矢は放たれた。
王よ、忍の復活の為、お前を殺して秘宝を頂く」



この宣言こそが樹の最大の陰謀が本格的に始動する合図であった。



その陰謀の幕開けとなるのは王の暗殺。



樹の狙いは王が持つ秘宝・星の宝玉。



この秘宝を巡って樹達と王との間で凄まじいまでの死闘が行われる事となるのである。



続く
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