幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
27ページ/37ページ

――亜空間



樹「このままではまずい!!皐月!!!俺とイチガキをこの場から連れ去れ!!」



樹は大声でこの場にいない皐月に呼びかける。



皐月「樹!!」



皐月の半身が亜空間内に現れる。



王「遅い!!!」



魔光気が使えなくなる前に持てる力の全てを分身体が放つ一撃に込めた王。



ビューーン!!!!



樹(…………!!!?)



王の放つ最大の攻撃が樹達に襲い掛かる。



王の魔光気を気脈に取り込んでいない皐月は分身体の姿を見る事は出来ない。
だが、樹に命に関わる危険が迫っている事は亜空間内に立ち込める常軌を逸した力から容易に理解出来た。


皐月「樹ィィィィィ!!!!!!」



彼女の絶叫が亜空間内に響いた。



樹「むゥゥゥ!!」

(避けられない………!)



王の分身体が放った一撃は確実に樹の命を奪う心臓を貫こうとしていた。



樹(忍……!!!)



死を覚悟した樹の脳裏に大切な者の姿が浮かぶ。



その時だった。



ボン!!



何かが爆発する様な音が聞こえてきた。



その瞬間、驚きの事態が起きた。



ピタッ



なんと分身体の拳が、
樹の身体に触れる事なくその動きを止めたのだ。



樹(………!!!?)



予想外の出来事に目を疑う。



そしてこちらでも。



イチガキ「ヒィィィィ!
!!!!」



死の恐怖で目を瞑って
しゃがみこみ全身を強ばらせて怯えるイチガキ。



ピタッ



イチガキに襲いかかった分身体の動きが止まった。



イチガキ(ワシは……い、生きておるのか……)



恐る恐る目を開けて見る。


イチガキ(!!?)



イチガキの目に映ったのは、拳を突き出したまま静止している分身体の姿であった。



イチガキ「ど、ど、ど、どういう事じゃ!!?」



瀬流「…分身体の動きが止まったぞ!!?」



イチガキ、瀬流は一体何が起きたのか事態を理解出来ない。



そして。



シュゥゥゥゥゥ………



王の四体の分身体の姿が消えて行く。



イチガキ「と、止まったかと思ったら今度は消えおった……」



瀬流「一体何が起きた??」


樹(………)



驚きを隠せない一同。



皐月(あれは!?)



皐月が何かに気付いた。



皐月「樹!!あれを見て!」



樹「あれは……!」



ボン!!



小規模な爆発が再び起こる。



王「グァァァァァ!!!!」


それと同時に悲鳴を上げる王の声。



なんと王の背中が爆発したのだ。



樹「梟!!」



樹は梟の名を大声で叫ぶ。


そこには主であるイチガキにすら見せた事の無い真剣な眼差しで王を見る梟の姿がそこにはあった。



命の危険に晒された
この危機的状況から樹達を救ったのは梟であった。



樹の声を聞いた梟は横目でチラッと見る。



梟(………)



そして樹に対して何も言わず、視線を直ぐに王の方に向けた。



イチガキ「あ、あれはエンドレス・ボムじゃ」



梟の主であるイチガキが王に仕掛けた技の名を口にする。



樹「エンドレス・ボム??」


ボン!!!



大きな音と同時に王の肩が爆発する。



王「ウォォォォォォォ!!!!!」



身体を爆破された苦痛で顔が歪む。



梟「私のエンドレス・ボムはお前が息絶えるまで続く」



ボン!!ボン!!ボン!!


王「グワァァァァァ!!!!」



梟は苦しむ王に向かって静かな口調で語りかける。



梟「今のは際どかった。お前が万全の状態ならやられていたのは私達の方だった」



樹(………)



樹はここでようやく事態を把握した。



樹(大した男だ梟。
この場に到着したばかりのあいつは、王の集中力が途切れれば、分身体が消えるという事を知らなかった筈。あの極限の状況で初めて見る王の技の弱点を瞬時に見抜いたという事か…)



梟は王の分身体が動き出した直後に本体である王に向かって咄嗟にエンドレス・ボムを仕掛けた。



それは危機的な状況の中、梟の身体が勝手に反応して動いたものであった。
これは梟の持つ優れた戦闘センスゆえに出来た事である。



本来の万全な状態の王であったならばこのエンドレス・ボムは王には通用しなかったであろう。



しかし王は臥竜の化粧による呪縛、そして瀬流との戦いによる消耗、そして大半の魔光気を放出した直後で力を使い果たした事。



幾つもの要因と梟の戦闘センスが重なりこの危機を乗り切ったのだ。



イチガキ「しかし樹、今のは危なかったのう…」



樹「そうだな。今回は梟に救われた」



王(後一歩だったのに……)



王は悔しそうな顔で樹を見る。



その王に対して樹が静かな声で語りかけた。



樹「王よ、お前の命運もどうやらこれまでのようだな。お前は今の攻撃で大半の魔光気を使い切った。臥竜の施した化粧の効果を待つまでもない。今のお前には魔光気を使った攻撃や気を張り巡らして身を守る事はもう出来はしない」



王(……クソッ!)



瀬流(今の王の放った技は凄まじいものだった。俺や臥竜が受けてきた技の五倍いや、10倍はあっただろう。もしあの攻撃を受けていたら再生が困難になるほど粉々にされていただろうな…)



ボン!!



梟の王に対する容赦ない爆撃は続く。



王が身に纏っている甲冑が爆発によって、次々と砕け散っていく。



そして王の首にかかっている星の宝玉がその姿を徐々に周囲に晒し始める。



イチガキ「あ、あれは!?」


樹に続いてイチガキもここで秘宝の存在に気付く。



樹(イチガキも気付いたようだな)



イチガキに近付き、その肩に手を置く樹。



樹「イチガキよ、あれこそが俺が求めていた秘宝だ」


樹の言葉を聞いたイチガキの目が輝く。



イチガキ「おぉ…!やはりあれがそうか!!この世界の伝説の秘宝といわれる星の宝玉!!」



ボン!!



王の胸部が爆発する。



イチガキ(!?)



イチガキは驚く。



王の首にかかっている星の宝玉が爆発に巻き込まれたからだ。



イチガキ「あわあわあわ、ひ、秘宝が!?」



樹「落ち着けイチガキ。秘宝はあの程度の爆発では傷などつきはしない」



樹の言うとおり、秘宝に傷がついた様子がなかった。


イチガキ「フゥ〜。驚かせおってからに…」



樹「イチガキ、あの秘宝が手に入り、忍が蘇れば、いよいよお前の研究の成果を忍の為に使う時。分かっているだろうな?」



イチガキ「ヒョヒョヒョ、案ずるな。分かっておる。」



樹「それならばいい。
俺はこの戦いが終われば魔界に行く。手に入れなければならないものがあるからな。イチガキ、お前にもまだやってもらわないといけない事がある」



イチガキ「うん?一体何をするつもりじゃ?」



樹「フッ、それは後でまた話すさ。まずは目の前にいる王の最期を見届けるのが先だ」



イチガキ「う、うむ…」

(ワシの天才的な頭脳を持ってしてもこの男の考えは分からんのう…。一体何を企んでおるんじゃ……)



皐月「樹!!!」



血相を変えて皐月が樹の傍に駆け寄る。



皐月「樹が死んでしまうかと思ったよ…。本当に無事で良かった!」



樹の肩に寄り添い、
少し目を涙で潤ませる。



樹の身を心の底から心配している皐月の姿を見ても、樹は特に気にした様子を見せる事はなかった。



樹「フッ、忍の為にも俺はこんな所では死ねないさ」


皐月(……“忍”の為か…。本当に憎たらしいほど妬ける。樹の心の中にはあの人しかいないというのは分かる。でも嘘でも「私の為に死ねない」って言って欲しい……)



皐月は樹の気持ちが自分には向いていない事、
そして樹の心の中には仙水忍という男しかいない事も分かっていた。



彼女が仮にその想いを樹に向かって爆発させたとしても、仙水忍という男に強く魅入られた樹の気持ちが皐月に動く事は決してない。


切ない気持ちを胸に秘めながら愛する樹の傍にいたいが為に皐月は樹の為に尽くしていたのだった。



王(ハァハァハァ………)



梟「威力を制御していないエンドレス・ボムを受けてここまで立っているのは大したものだが、いつまで
もつかな?」



王(クラッ)



爆激を受けた時に出来た多くの傷口から大量の血が地面に流れ落ちる。



体内の血液の大半が失われ、王の意識は徐々に朦朧としてきたのだった。



王(い、いかん意識が……)


樹「死にかけだな」



イチガキ「じゃな」



そして梟は親指を立てて王に見せる。



王(野郎……!!)



梟「ジ・エンド」



立てた親指を下に向かって下ろす。



王(!?)



ボン!!ボン!!ボン!!


王の胸部・腹部・背中が同時に三カ所が爆発する。



王「ガハァァァァ!!!!!!!」



王は口から大量の血を吐き出した。
そしてそのまま王の意識は立ったままの状態で完全に途切れたのだった。



イチガキ「遂にやりおったぞ!!」



樹「ああ…」



ピカー!



完全に勝利を確信した樹達であったが、
この時、意識を失った王の胸で星の宝玉が小さい光を放ち始めた事にまだ誰も気付いている者はいなかったのだった。



続く
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ