幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編03
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イチガキ「あいつら遅いのう…」



樹「じきに来るさ」



ズズズ……



その時、皐月が空間の中から姿を現した。



皐月「遅くなってごめんなさい」



イチガキ「皐月、戸愚呂(兄)はどうしたんじゃ?いなかったのか?」



皐月「そうなのよ。戦いがあった場所には誰もいなかったよ。あいつ何処に行ったんだろう…」



樹「妙だな。戸愚呂(兄)の奴め、一体何をしている」


「俺はここにいるぜ」



樹達の背後から戸愚呂(兄)の声が聞こえてきた。



イチガキ「戸愚呂(兄)」



皐月「私はあんたを呼びに行ったんだよ。今までどこにいたのよ?」



戸愚呂(兄)「いや、ちょっとな。それより王はどうなったんだ?」



皐月「王は死んだわよ。散々手を焼かされたけどね。最後は梟が止めを刺した」


戸愚呂(兄)(………)



皐月の言葉に戸愚呂(兄)の表情が変化した。



その変化に樹は少し違和感を覚えた。



戸愚呂(兄)「そ、そうか。やったじゃないか」



皐月「フフッ、そうよ。ほら樹の手に秘宝があるでしょう?あれが私達の勝利の証」



樹が二人の間に入ってくる。



樹「戸愚呂(兄)、お前の方は雷蛾の能力をちゃんと食べたのだろうな」



戸愚呂(兄)「ああ。あいつの能力は俺のものになった」



樹「よし、それならいい。お前には直ぐにやってもらわなければならない事がある」



戸愚呂(兄)「それで俺は何をすればいいんだ?」



樹「お前は雷蛾の能力を使い、王の姿に変身して貰いたい。分かるなこの意味が?」



樹の目が妖しく光る。



戸愚呂(兄)「お、俺にこの世界の王になれってか!?」



樹「そういう事だ。王が死んだ事が公になれば大戦が終わってまだ日が浅いこの世界は混乱するだろう。それは俺にとっては面白くない。それに魔界に旅立った比羅にこの事を知ればあいつの事だ、
総力を挙げて俺達を討ちにくるだろう」



イチガキ「なるほどのう。樹よ、それだけではあるまい。戸愚呂(兄)を王に仕立ててここに残し、王の名の下にこの世界をお前の意のままに操るのじゃろう?」


樹「流石に察しがいいな」



イチガキ「ヒョヒョヒョ」



これは愉快と楽しそうに笑うイチガキ。



樹「その前に戸愚呂(兄)、お前も見ているがいい。今から忍を蘇させる」



戸愚呂(兄)「おう。分かったぜ」



そしてこの場にいるの五人は仙水忍の遺体を取り囲む様にして立った。



仙水忍の遺体を覗き込むように皐月は見る。



皐月「いつ見ても死んでいるようには見えないね」



皐月の言葉通り、
仙水忍の表情はまるで眠っているようだった。死んでいる人間には見えない。



皐月は樹の肩に寄り添いながら呟いた。



皐月「樹…いよいよだね」



樹「ああ…ついにこの時が来た」



樹は皐月の髪の毛を下からすくうように撫でる。



樹(フッ、俺はあのままこの亜空間で永遠に忍と時を過ごすものと思っていたのにな。この皐月との再会が俺を動かした。運命とは分からないものだな)



樹は少し前まで、この死んだ仙水忍の肉体と魂と共に亜空間の中で4年もの間、静かに時を過ごしていた。


その樹が再び動き出すきっかけを作ったのは同朋の闇撫である皐月であった。



皐月は樹に髪を撫でられるのを心地よさそうにしている。



皐月「どうしたの樹?」



樹「皐月、お前には礼をいう」



皐月「樹……」



予想外の樹の言葉に少し照れたように頬を赤くした。


樹は皐月の髪の毛から手を離すと仲間達に宣言した。


樹「始めるぞ」



スッ



樹は目の前に空間から栓をした小さな壷のようなものを呼び出した



イチガキ「それは何じゃ?」


皐月「仙水忍の魂だよね」



樹「そうだ。死んでも霊界に行きたくないという忍の遺言だ。忍の魂はこの四年もの間、俺と共にいた」



樹はそう言うと壷の栓を外した。すると白い物体が宙に浮いた。



それは仙水忍の魂であった。



皐月「綺麗……」



仙水忍の魂に思わず見とれる。



そして樹は星の宝玉を仙水忍の魂に向けて掲げた。



樹「星の宝玉よ、彷徨える魂を再生させ、本来ある場所に戻すのだ」



ピカーーーーーー



イチガキ「ま、眩しい!!?」



星の宝玉から目が眩む程の凄まじい光が放出された。


魂は横たわっている仙水忍の身体の中に入っていく。


それと同時に星の宝玉の光は消えたのだった。



樹「忍……」



イチガキ「いよいよ目覚めるのか…」



皐月(ゴクッ)



ついに仙水忍が目覚めるのか?一同の視線が一カ所に集まる。



仙水(………)



イチガキ「……何も反応がないのう」



樹は仙水忍の身体を抱き起こし胸に耳を当てて心臓の音を聞き始めた。



樹「心臓が動き始めた。暗黒天使は再びこの世に舞い降りた」



皐月「“暗黒天使・仙水忍”」



イチガキ「ここからはワシの仕事じゃのう」



イチガキは詳しい検査をする為に仙水の身体を調べ始めた。



そして直ぐに診断の結果を伝える。



イチガキ「確かに樹の言う通り、心臓が動き出しておる。じゃが脳が何故か分からないが動いておらん」



皐月「という事は彼は目覚めないの?」



イチガキ「それは分からん。何かのきっかけで目覚めるかもしれんし、このまま植物人間のようになったままかもしれん」



樹(………)



樹は表情を変えないままイチガキの話しを聞いている。



ポタッポタッポタッ



樹の足元に血が落ちていた。



皐月が血に気付く。



皐月(樹………)



樹は沸き起こる感情を抑える為に爪が肉に食い込む程に握り締めていた。



イチガキが樹の前に立ち、肩に手を置く。



イチガキ「ヒョヒョヒョ、そう悲観するな樹よ。
これで駄目じゃったらワシの研究で実験体達が蘇ったように仙水もワシが新しく作りだしてやるから安心するがよいぞ」



樹(キッ)



ガシッ



樹はイチガキの首を右手で強く掴んで持ち上げた。



イチガキ「うがが……!!!?」



首が苦しいのか?イチガキは口から泡を出している。


皐月「樹!!!」



普段はクールで冷静な樹が感情を剥き出しにしている。



樹「ゲスが!!俺にとって忍は一人だけだ。他の忍は認めない!!俺に必要な者は仙水忍だ。二度とこんな事を言うな!!」



そう言うと樹はイチガキを床に叩きつけた。



イチガキ「ゲホ!ゲホ!ゲホ!ワシは善意で言ったんじゃ!!」



ドカッ!ドカッ!ドカッ!


イチガキ「グォォォォォ!!!!」



樹は無言でイチガキの腹を蹴り飛ばす。



皐月「樹!!止めなよイチガキが死んじゃうよ!!それに後ろを見て!!」



樹は皐月の言葉に我に帰り、後ろを振り返る。



瀬流(…………)



ボォォォォォ!!!!!



瀬流の右手に炎が燃えていた。



樹から主であるイチガキを守る為だ。



樹は瀬流に近付き、肩をポンポンと叩く。



樹「安心しろ。お前の主にはこれ以上は手を出さない」



イチガキは床から樹を見ながら心の中で強い怒りをあらわにしていた。



イチガキ(おのれ樹め!!ワシをこんな目にあわせおってからに……。覚えておれよ。今日の恨みは絶対にワシは忘れんからな……)



この時をきっかけにイチガキは樹に対して不信感を抱く事になるのであった。



樹は仙水忍の身体を強く抱き締める。



樹(忍は必ず目覚める。俺は信じている)



************************


――メイン会場



スクリーンに映る妖狐・蔵馬は梟のエンドレス・ボムによる激しい爆撃を受けていた。



樹「王との戦いの時、
あのエンドレス・ボムで俺達は救われたな」



イチガキ「そうじゃのう。あの王でさえ、エンドレス・ボムの前に一度は瀕死に陥った。蔵馬の奴も長くは、もたないじゃろう」



――Dブロック



ボン!!!



妖狐・蔵馬の肩が吹き飛ばされた。



妖狐・蔵馬「クッ!?」



梟「今のお前の実力ではエンドレス・ボムから逃れられない」



妖狐・蔵馬「鴉、俺は負けない」



(ニヤッ)
梟「クックック、いつまでそんな口が聞けるか楽しみだ蔵馬」



妖狐・蔵馬(何か打開策を見つけなければこのままではまずい)



――選手達の休憩場



スクリーンに映し出されている圧倒的に劣勢の妖狐・蔵馬を真剣な目で見つめる男かいた。



「蔵馬……」



続く
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