幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編04
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黄泉「ハァハァハァ…、黒鵺…」



――黄泉と黒鵺による旧友対決は黄泉がついに制した。


黄泉「うっ……」



ズボッ!!



黄泉は右手を後ろにまわすと肩に突き刺さっている
鎌を掴んで一気に引き抜いた。



黄泉(ハァハァハァ……)



カランカラン



鎌を地面に投げ捨てた。



そして立っているのがやっとだった黄泉は地面に膝をついた。



目の前には炎裂撃を受けて倒れた黒鵺がいる。



黄泉「黒鵺…」



黒鵺は名前を呼ばれると黄泉の顔を見た。



黒鵺「悔しいが俺の負けだ黄泉。俺は殆ど勝負がついたと言える程のダメージをお前に与えていた。それがまさか敗れてしまう事になるとは思わなかった…。
お前が鎌を防御壁で防がなかったのは本当に予想外だったぜ」



黄泉「俺は蔵馬だったら防ぎようのない攻撃に対してどのように対処するのか考えた。実際に鎌の攻撃を防がずに受けるのはかなり危険な賭けだったがな」



黒鵺「蔵馬か……」



蔵馬の名前を聞くと黒鵺は目を瞑った。



黄泉「蔵馬はお前を死なせた事をずっと悔やんでいた。お前が生きていると知ったら喜ぶだろう。たとえお前が魔界にとって敵になったとしてもな」



黒鵺の脳裏に蔵馬の姿が浮かびあがってくる。



すると次々と昔の盗賊時代の事が昨日の事のようによみがえってくる。



黒鵺(蔵馬は俺が生きていると知ったらどうするのだろうな…)



黒鵺が親友の事を考え始めたその時だった。



ボン!ボン!ボン!



黄泉・黒鵺(!!?)



結界と外の境になっている部分が急に爆発した。



シュウゥゥゥゥゥ…



黄泉「おい黒鵺!結界が消えていっているぞ!!」



黒鵺「これは何者かが外部から結界を破壊したんだ。俺の結界は簡単に壊せるものではないというのに…」



――Dブロックの上空



鴉が髪の毛を風になびかせて空の上から二人を見ていた。



鴉は蔵馬との戦いで見せたフロート・ボムを使って上空に上っていたのだ。



正体がばれるのを防ぐ為に黒鵺が張った結界は、鴉の爆撃を受けたことによる影響でどんどん消えていっていた。



――メイン会場



小兎「あーーーーっとこれはどうした事でしょうか!!Dブロックに張られている結界が消えていきます!!!!」



「結界が消えたという事は決着がついたのか??」



「やったぜ!これでもうすぐ試合がどうなっているのか分かるぜ!!」



――Dブロック



黒鵺「この姿をあいつらに見せるのはまずい…」



黒鵺が仙道の姿に変身をしようとしたその時だった。


鴉《黒鵺》



黒鵺(こ、この声は…!)



鴉が上空から念信を黒鵺に送ってきたのだった。



鴉《クックックッ
黒鵺、私と戦う前に敗れるとは無様だな》



黒鵺(!!)



鴉《そんな様では到底王の仇討ちなんか出来ないな。雑魚め》



黒鵺「梟ォォォォォ!!!!!」



黄泉「梟だと!?」



結界が解けていっている為、一刻もはやく別の姿に変身して正体を隠さなければならない黒鵺であったが、最も憎い存在である鴉の言葉に怒りで我を忘れた。



黄泉「おい黒鵺!!」



黒鵺「ウォォォォォ!!!!!!」



なんと黄泉との戦いに敗れて戦闘不能状態に陥っていた筈の黒鵺が立ち上がった。



黄泉「その身体で無理をするな黒鵺!!」



黒鵺は黄泉が背中から抜いて捨てた鎌を拾い上げると、遥か上空にいる梟が今いる場所を妖気を辿って捜す。



黒鵺「見つけたぞ。梟ォォォォォォ!!!!!」



シュルシュルシュル



黒鵺の身体は限界を完全に超えていたが、最後の力を振り絞って鎌を鴉に向かって投げつけた。



鴉「フッ、馬鹿め。
そんな状態のお前の攻撃が私に通用するものか」



シュルシュルシュル




鴉の目前まで鎌が迫ってきていた。



ボン!!



鴉は難なく黒鵺の鎌を爆弾で撃ち落とした。



黒鵺「クソッ……」



ドサッ



力尽きた黒鵺は再びその場に仰向けに倒れた。



鴉《私はこの大会でお前達と戦う事よりも、やるべき事が出来た》



この鴉の念信は黒鵺だけでなく黄泉にも送られていた。



黄泉「何!」



黒鵺「…どういう事だ!!」



鴉《私はもうここを去るという事だ。結界の破壊は蔵馬を殺す邪魔をしたお前へのささやかな復讐。周囲にその姿を晒すがいい黒鵺。そして黄泉、黒鵺を倒すとは流石はかっては魔界の三大妖怪の一人だな》



黄泉「チッ!」



黒鵺「クソッ、待て梟!!」



鴉《安心しろ。お前達とはいずれ別の機会に戦う事になる。その時には蔵馬共々殺してやるよ》



フッ



鴉はそう言うと闘場から姿を消した。



闇撫の樹に頼まれた者たちを消す為に。



鴉が消えるのと同時に黒鵺が張り巡らせた結界が完全に消え去った。



――メイン会場



小兎「あーーーーっと結界がついに消えました。黄泉選手の姿が見えます。それと…あ、あれは誰でしょうか?仙道選手の姿が見えないという事はあの方がもしかして仙道選手なのでしょうか?」




「一体誰だあいつは??」


「もしかしてあいつが仙道って奴じゃねーのか?」



スクリーンに映し出された黒鵺の姿を見つめる樹とイチガキ。



樹「なるほど。あの仙道という男は変身するタイプの妖怪だったというわけか」



亜空間の戦いで直接黒鵺と対峙したのは鴉と戸愚呂(兄)。樹やイチガキは雷蛾の姿は知っていたが真の姿である黒鵺の姿を知らなかった。



イチガキ「そのようじゃな。戸愚呂(兄)の“美食家”を使って雷蛾から手に入れた能力と同じかもしれん」



樹「そういえば俺達が魔界に来てから、神夢界に残して来た戸愚呂(兄)からは一切連絡がない。大丈夫だろうか?」



イチガキ「ヒョヒョヒョ、心配せんでもあの変身能力だったら完璧じゃよ」



樹「確かにそうだな」



二人はこの時、神夢界を去る前に王に化けさせた戸愚呂(兄)が黒鵺だったという事にまだ気付いていなかった。



――会場を一望出来る崖の上



スクリーンに映し出された黒鵺の姿に比羅達は騒然となった。



駁「あれは雷蛾!!?」



比羅「王を護衛している筈の雷蛾が何故ここにいるんだ……!?」



烙鵬「王に対して最も忠実な雷蛾がその王の護衛をせずに大会に参加しているとは信じられん」



比羅「一体何がどうなっているんだ……」



――Dブロック



黄泉「大丈夫か黒鵺?」



スッ



黄泉は地面に倒れている黒鵺を抱き起こした。



ズズズ……



抱き起こされた黒鵺は仙道の姿に変身した。



――メイン会場



小兎「これは!姿が変わりました。やはりあの謎の人物は仙道選手でした。しかし見た感じでは決着はついているような感じですが、審判さん、確認してください!」



――Dブロック



結界を張られていた為、
Dブロックの闘場から一旦離れていた審判が闘場に戻り、状況を確認。



審判「Dブロックの三回戦・第二試合は黄泉選手の勝利です!!」



審判は高らかに黄泉の勝利を宣言した。



仙道「フッ、今更この姿に戻っても遅いだろうがな」
(何処かで比羅達は間違いなく俺の姿を見ただろう……)



黄泉「何故、姿を隠す必要がある?」



仙道は何かを決意した顔で黄泉の問い掛けに答える。



仙道「この大会をどこかで比羅達が見ている。俺は本来はここにいてはならないのさ。だから俺の姿や魔光気が仲間達に分からないように結界を張った」



仙道に比羅が魔界に来ているという事を言われても黄泉は驚いていなかった。



仙道「比羅達が来ていると言っても驚かないんだな」



黄泉「ああ。奴らの存在は薄々感じていた。二回戦が始まった頃に会場の近くで僅かながら魔光気を感じたこれだけ巨大な妖気を持った者が集まって戦っているんだ。その事に他の者は誰も気付いていないだろうがな」



黄泉が言うのは北神と黎明、そして砂亜羅の戦いの事であった。



仙道「その口振りだとその事を他の者には話していないみたいだな」



黄泉「ああ。今はまだな……」



仙道(本来なら国にいなければならない俺がここにいる事を比羅達が知れば国で何かあったと感じ取ってしまう。あいつらには何も考えずに桑原を奪う事だけを集中してもらいたかった)



唇を噛み締める仙道。



黄泉「ここにいてはならないと言ったな。お前達の国で何かあったのか?」



仙道「敵であるお前には詳しくは話せないないが、今頃は混乱している事だろう…」



比羅達の世界である神夢界ではかっては大きな国同士の大戦があった。



祐一、そして比羅や黒鵺たちの活躍によって大戦を終わらせ、祐一が王として神夢界を統べていた。



世界は大戦が終わってからまだまだ日が浅く安定はしているとはいえない状況。



桑原を手に入れる為に国の最強の将軍達を魔界に派遣している為、国の戦力は落ちていた。だが王さえいれば誰も国を攻めようとはしないだろう。



それだけ王の圧倒的な強さは神夢界の全ての住人に知れ渡っていた。



だが今は王は樹達に殺され、そして雷蛾もいない。



国は今、大きな混乱を起こしていたのだった。



国の状況を知る樹が、
戸愚呂(兄)に雷蛾の変身能力を奪わせて王に変身させようとしたのは、もちろんある目的の為に影で国を意のままに操る目的もあったのだが、王を殺した事で他国から攻められて国を失ってしまうのを恐れたからであった。



戸愚呂(兄)を殺して戸愚呂(兄)に成りすました雷蛾は樹に王の姿に変身するように命じられて国に残っていた。



理由はどうあれ、国の状況を考えれば黒鵺は国に残るべきだった。



だが、彼は大切な王を殺した鴉に対する復讐心を抑える事が出来なかった。



イチガキがテストで鴉を大会に参加させるという情報を知った黒鵺は国の事より、鴉を殺す為、全てを捨てる道を選び大会に乗り込んだ。



そして黒鵺が魔界に来ている比羅達に王の死を知らせなかったのは、比羅達が王の死を知れば、恐らく桑原を手に入れるのを止めて神夢界に引き返すだろう。



そうなれば大会で疲弊した魔界の者達から桑原を奪う事が出来なくなるだろう。


もし再び魔界に来たとしても随分と間が空く事になり、その頃には殆どの妖怪が万全の状態になっているだろう。



そうなれば桑原を手に入れるのは容易ではない。



神夢界の為に桑原を手に入れるのは王や自分達にとって最大の目的なのだ。



機を逃すわけにはいかなかった。



仙道(…………)



仙道はボロボロの身体を引きずりながら闘場の端に向かって歩いていく。



黄泉「何処に行く黒鵺、休憩所に戻るならあっちだ」


仙道「俺は梟を追う。あいつを殺すのが今の俺の全てだ」



黄泉「あいつとの間に何があったのかは知らないが、その身体で行くのはよせ!みすみす殺されるに行くようなものだ」



仙道「やらねばならない。今ならまだあいつの妖気を辿って追跡出来る」



バッ!!



仙道はそう言うと闘場から飛び降りた。



黄泉「待て!!黒鵺!!!」



仙道「黄泉、お前と戦った事、そして僅かだったが蔵馬に逢えて嬉しかったぜ。生きていたらまた逢おう」



そう言うと仙道の姿と妖気は消えたのだった。



黄泉「黒鵺め……」



こうして黒鵺は鴉を追って会場を去った。



復讐心に支配されて、たった今死地に向かった黒鵺を思うと黄泉は複雑な気持ちになった。



黄泉(死ぬなよ黒鵺)



黄泉は心の中で黒鵺の無事を祈った。



この黄泉の祈りは通じる事になる。何故なら、
蔵馬と黄泉、そして黒鵺はまた別の形で再会する事になるからである。



続く
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