幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編04
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――魔界統一トーナメントAブロックの三回戦・第一試合



時雨(しぐれ)
×
桑原(くわばら)



――Aブロック



時雨は燐火円磔刀を握り締めていつでも攻撃を仕掛けられる態勢を作っている。



一方の桑原は、
試しの剣を弾き飛ばされて焦りを感じていた。



さっきの攻撃時に時雨が桑原を斬れた筈なのに、
何故斬らなかったのか?



今の桑原の頭にはそれすらを考える余裕がなかった。


試しの剣を弾かれたのと、精神状態の乱れから、
桑原の張り巡らせた領域は消え去っていた。



桑原は横目で弾かれた試しの剣を見る。



桑原(時雨はいつでも攻撃が出来る態勢だ。今俺が試しの剣を拾いに行こうとしたら、そのスキを狙ってくる…)



桑原と時雨、二人の師弟対決は激しい戦いを続けた結果、お互いに大きなダメージを受けている。



後一撃、決定的なダメージを受けたらそれで勝負は決する。



それは間違いなかった。



――選手達の休憩所



幽助「時雨が傷の痛みか知らねーが、
攻撃をミスってくれたからラッキーだったな。俺はあれでやられちまうかと思ったぜ」



あのピンチの時に、
時雨の攻撃で桑原の身体が切り裂かれたと思った幽助は、剣を弾き飛ばされただけですんだ事にホッとしていた。



幽助「あの攻撃の瞬間、
桑原の一撃で受けた傷が痛んだんだろうな」



飛影「お前らしくない。気付いていなかったのか幽助?
さっきのは時雨が意図的に試しの剣を弾き飛ばしたんだ」



幽助「あ?」



飛影「さっきの桑原の一撃は浅かった。あの様子なら桑原を倒す決定的な一撃を入れられていた筈だ」



幽助「ワザとあいつが外したってのか?一体何の為に?」



飛影「さあな。奴の考えは俺にも分からん。これからその理由を見せてくれるだろうぜ」



スクリーンに映る桑原を見つめる幽助。



スクリーンに映し出された桑原には誰の目にも焦りの色が見えていた。



幽助「……負けるんじゃねーぞ桑原」



――Aブロック



時雨「桑原、どうした?
その顔はあきらかに動揺している。試しの剣を失ったのが、そんなに不安か?」


桑原「ど、動揺なかんかしてねー!!」



強がる桑原。
だが、その顔には時雨の言うとおり、顔に焦っている事がはっきりと分かるぐらい現れていた。



桑原(使ったら消耗が凄まじいとはいえ、あの剣がねーと時雨の魔風斬を防ぐ手立てがねーんだ…)



時雨「拙者の魔風斬を防ぐにはあの能力を使うしかない。だが、手元に試しの剣を持たない御主に防ぐ事は無理だ」



桑原「ぐっ……」



時雨「御主も拙者もダメージは大きい。後一撃で勝負がつくだろう。これから拙者は全力を持って御主を魔風斬で斬る」



桑原「チクショー……」

(身体はボロボロ、時を遅らせなければ時雨の魔風斬は防げね…。試しの剣を取りに行く事すら出来ねー。一体どうすりゃあいいんだ)



絶望的な状況。



今の桑原に勝機はなかった。



時雨はここで先程、桑原を斬らずに試しの剣を弾いた本当の目的を口にする。



時雨「試しの剣なしで拙者の魔風斬を防ぐ方法。簡単な話しだ」



桑原(……!?)



時雨「御主のその手で時を操る剣を作り出すのだ」



桑原「俺のこの手で!?




桑原は時雨の言葉に驚くと同時に自分の右手を見る。


桑原(試しの剣なしで、俺の手だけであれが出来るのか…)



時雨の目的…、それは桑原に試しの剣がない状態で時の剣を作らせる事であった。



時雨「やるしかないぞ桑原。拙者は全力で行くと言っただろう。全力の拙者の一撃を浴びればいかに御主といえど今度は死ぬ事になる」




グルグルグル



時雨はゆっくりと身体を回転させ始めた。



そして桑原に向けて凄まじいまでの殺気を放ち始めた。



桑原「すげー殺気だ…。時雨の奴、本気で俺を殺すつもりだ…」



ズキャーーン!!!



時雨の身体は高速回転となった。これで魔風斬の準備は整った。



剣を失い、絶望的な状況に桑原を追い込んだ上で、
あえて引導を渡す事で、
武威戦で見せた桑原の土壇場の力に賭けたのだ。



時雨は桑原を狙う者達の目標はこの時を支配出来る能力ではないかと感じていた。


この能力を使いこなせるように桑原がなれば、その者達は桑原はより狙われる事になるだろう。



だが、この能力はどんな相手にとっても驚異にもなる。



時を桑原が操れば、
人間界にいた頃のように簡単に捕らえる事は難しいだろう。



全ては桑原の為。



桑原「で、出来ねー。いきなりあれはよー…」



時雨(ピクッ)



桑原の言葉を聞いた時雨は厳しい顔で言う。



時雨「もう諦めたのか?」



桑原(!?)



――もう諦めたのか?




時雨の言葉が桑原の頭の中を駆け巡る。



桑原はこの大会の参加の最大の目標であった師匠である時雨と対戦して勝利する事。



身体はボロボロ、切り札である時を操る剣を出す為の試しの剣を失ったいま、
それがどうあがいても達成する事が不可能に近いと桑原は感じていた。



――諦めたくない。



桑原の心の中でその気持ちが大きくなる。



武威と命を賭けた凄まじい戦いを生き抜いてようやく辿り着いた終着点。



桑原「負けたくねー…。
俺は絶対に時雨に勝つんだ」



時雨とのこれまでの出来事が次々と頭の中をよぎる。


黄泉によって人間界から魔界に飛ばされてから、
森での時雨との出会い。



時雨が飛影に剣術を教えた師匠と知って、彼のもとで剣術を学んだ日々。



時雨との修行はそれは大会まで間という短い期間ではあったが、
桑原は雪菜を守りたいという強い気持ちで急激にその実力を伸ばしていった。



修行は命を賭ける程厳しいものだった。



だが、桑原はその修行を乗り切った。



時折見せる時雨の優しさ、そして武士道精神に惹かれた桑原は、時雨という妖怪を心の底から尊敬していた。



自分を鍛えて育ててくれた、そんな時雨への最大の恩返しは強くなった自分を見せる事。



そして師匠である時雨を超える事。



――俺は時雨に勝つんだ。



動揺していた顔から一転。目標を再確認した桑原は真剣な戦う男の目に変わる。



時雨は桑原の目を見て嬉しそうに笑う。



時雨(それでいい)



時雨もまた桑原という人間を気に入っていた。



時雨の掲げる武士道精神とはかけ離れた男ではあったが、桑原の真っ直ぐな気持ち、そして根性を高く評価していたのだ。



時雨(この男は土壇場でこそ力を出す。拙者は御主を信じるぞ)



――メイン会場



雪菜「和真さん…、時雨さん…」



雪菜は祈るような目でスクリーンを見る。



――Aブロック



桑原は高速回転する時雨を見ながら、息を思いっきり吐いた。



そして何か吹っ切れたのか、桑原は口元を緩めて微かに笑う。



そして。



桑原「ウォラァァァァァ!!!!!」



ブォォォォォォ!!!



桑原の霊気が凄まじい勢いで上昇していく。



時雨「オオ………」

(なんと気合いの入った気持ちの良い霊気だ。迷いがない)



そして。



ドーーーーーン!!!



この桑原の霊気は闘場から凄まじい勢いで放出されていた。



桑原が大声で叫ぶ。



「俺の力、これが全てだァァァァァ!!!!」



――選手達の休憩所



幽助「ハハッ、桑原の野郎、すげー気合いが入ってやがる。マジで信じられねー。あいつ、まだあんな力を残してやがったんだ」



飛影「火事場の馬鹿力ってとこだろう」



幽助「なんか分かんねーが、血が騒ぐぜ」



奇淋「凄い霊気ですね躯様。人間とは思えない」



躯「ああ」

(フッ、時雨よ、お前の望み通りにことが運びそうだな)



――Aブロック



ピキーーン



桑原の右手には時を操る事の出来る時の剣が作り出されていた。



桑原「出来た……」



時雨、ニヤリ。



時雨(見事だ桑原)



その時だった。



桑原の放出した気合いの入った霊気に共鳴するかのように他の闘場でも大きな変化があった。



ドーーーーン!!!!



桑原・時雨(!?)



Bブロックの方から二つの巨大な妖気が放出された。


棗と鉄山である。



さらに続く。



ドーーーーン!!!!



今度はCブロックから方から二つの巨大な妖気が放出された。



酎と九浄である。



桑原の気合いの入った霊気が各闘場で戦う戦士達を燃えさせたのだ。



そしてDブロックでも。



――Dブロック



鴉「クックック」



既に蔵馬はエンドレス・ボムの爆撃を受け続けて地面に倒れて瀕死の状態に陥っていた。



そんな蔵馬に桑原の霊気が伝わる。



蔵馬(……桑原君…)



蔵馬は鴉を見上げる。



蔵馬(桑原君もあれだけ頑張っているんだ。俺もこのまま終わるわけにはいかない)



桑原の霊気が瀕死の蔵馬に最後の反撃する力を与えようとしていた。



続く
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