幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編04
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――魔界統一トーナメントDブロックの三回戦・第一試合



蔵馬(くらま)
×
梟(ふくろう)



――Dブロック



仙道の正体は亜空間の中で戸愚呂(兄)の能力である“美食家”によってその身体ごと喰われて死んだと思われていた黒鵺であった。



黒鵺「フッ、流石のお前も俺が生きていた事に驚いているようだな」



鴉「貴様は戸愚呂(兄)に喰われて死んだ筈。生きているとは一体どういう事だ」



黒鵺「へ〜、今は“戸愚呂(兄)”と呼び捨てか、出世したんだな梟。あの時お前は戸愚呂(兄)様と呼んでいたのにな」



鴉「私は全ての記憶を取り戻したのだ。やつらの部下として従う理由はもうない」



黒鵺「そうかい」



鴉「そんな事はどうでもいい。戸愚呂(兄)は…戸愚呂(兄)は一体どうした?」




黒鵺「戸愚呂(兄)は死んだよ」



鴉「死んだ!?」



黒鵺「ああ、死んだよ。
あの時、あいつはお前に敗れて瀕死の状態に陥った俺を拷問しようとしていたのはお前も知っているだろう。せっかくだ、俺がどうやって生き延びたのか話してやるよ」



〜黒鵺の回想〜



――亜空間



戸愚呂(兄)は自分の人差し指を鋭利な刃に変えていた。



ドスッ



黒鵺の肩を貫く。



黒鵺「う……う……」



戸愚呂(兄)「ヒッヒッヒ!いい声だぁ。次はどこを刺してやろうかな」



戸愚呂(兄)は黒鵺を苦しむ姿を見て快感を得ていた。



今度はどういう風に苦しめてやろうか、それを考えるだけど彼はわくわくしていた。



黒鵺(…身体が動けばあの程度の妖怪、赤子の手を捻るようなものなのに…)



戸愚呂(兄)「今のお前を喰うのは簡単だがよぉ。俺も酷い目に合わされたんだぁ。タップリとお礼をしないとなぁ」



ズズズ……



黒鵺(………!!?)



今度は左手をハサミのような形に変化させる戸愚呂(兄)。



戸愚呂(兄)「どこから切ってやろうかなぁ」



黒鵺「…くっ…戸愚呂(兄)!!」



戸愚呂(兄)「決めたぜぇ」



左手で作ったハサミの先を黒鵺の足に向ける。



戸愚呂(兄)「まずは足の腱を切ってやる」



戸愚呂(兄)は黒鵺に近付いてくる



黒鵺(…俺の身体に残った僅かな妖気。使うのは今だ。お前ごときに好きなようにやられてたまるか!)



ハサミで切ろうと黒鵺の足を狙う戸愚呂(兄)。



ブォォォォォ!!!!



戸愚呂(兄)「な、なんだぁ!!」



黒鵺(何度も再生する奴を殺すには完全に消し去るのみ。頼む!あいつを消し去るだけの力が俺の中に残っていてくれ!!)



ドーーーーン!!!



だが、黒鵺の放った最後の力は衝撃波を生み出すのが精一杯だった。



まともに衝撃波をくらった戸愚呂(兄)の身体は思いっきり吹き飛ばされる。



ズシャッ!!!



戸愚呂(兄)「ぐぇぇ!!!!!」



吹き飛ばされた戸愚呂(兄)の身体は地面に強く叩きつけられる。



戸愚呂(兄)「い、痛たいぜぇ!チクショウ!!あの野郎まだあんな力が残っていやがったか」



黒鵺にやられたダメージが回復していない戸愚呂(兄)は苦しそうに立ち上がる。



戸愚呂(兄)「頭にきたぜぇ。もう拷問はもうやめだ。喰ってやる」



黒鵺(クソッ、最後の力でを持ってしても奴を消し去る事が出来ないとは…)



戸愚呂(兄)「どうやら今のがお前の正真正銘の最後の力だったみてえだぁ。手こずらせやがって!!」



戸愚呂(兄)は倒れている黒鵺の前に立つと口を大きく開けた。



戸愚呂(兄)「クックック、今からお前の能力は全て俺様に物になるんだぁ。光栄に思うがいい」



戸愚呂(兄)の能力“美食家”の領域はその体内にあった。



領域に入れられた者はその中で死ぬと同時にその能力までも食べられてしまう。



そして食べられてしまった能力は戸愚呂(兄)のものとなってしまうのだ。



ヒュォォォォォォ!!!!!!



黒鵺「くっ………!!」



戸愚呂(兄)の口から放出される凄まじい吸引力の前に黒鵺の身体は徐々に戸愚呂(兄)の体内に吸い込まれそうになる。



吸い込まれるのを必死に堪える黒鵺。



だが



戸愚呂(兄)「なかなか頑張るな。だけど無駄だぁ〜」


ヒュォォォォォォ!!!!!!!!!!!



どんどん強くなる吸引力。



黒鵺「ぬわァァァァァ!!!!!!」



ついに黒鵺の身体は戸愚呂(兄)の体内に飲み込まれてしまったのだった。



ゴクン



戸愚呂(兄)「クックック!!ごちそうさま」



――戸愚呂(兄)の体内にある領域の中



黒鵺の身体は戸愚呂(兄)の胃袋とも言える領域の中に落とされた。



黒鵺「くっ、ここは奴の体内か…」



瀕死の重傷を負った上に妖気も殆ど残されていない黒鵺はもはや身体を動かす事が出来なかった。



だが、黒鵺はまだ諦めてはいなかった。



黒鵺「…俺は王を守る使命がある。こんなとこで死ぬわけにはいかない」



黒鵺は辺りを見渡した。



何もない空間が広がっている。



黒鵺はここで自分のまわりに幾つかの白骨化された死体が転がっている事に気付いた。



黒鵺「あれは人間の死体か」



黒鵺が見た死体。それは四年前に戸愚呂(兄)によって喰われてしまった“盗聴”の能力を持つ人間・室田の死体であった。



黒鵺(戸愚呂(兄)に喰われてしまった人間か。この人間も戸愚呂(兄)に殺された上にその能力を奪われたという事か。さぞかし無念だっただろうな)



黒鵺は唇を強く噛み締める。



黒鵺「俺はこいつらのようにはならない。何が何でもここから脱出する」

(しかし一体どうすれば……)



《力を貸すよ…》



黒鵺(!?)



黒鵺の頭の中に何者かが
話しかけてきた。



黒鵺「一体何者だ!」



《俺は巻原。この身体の元々の持ち主。“美食家”の能力者だよ》



黒鵺「何だと!?」



姿は見えないが、本来の身体の持ち主と名乗った巻原の登場に流石の黒鵺も驚く。



巻原《俺は戸愚呂(兄)を喰らい、領域に取り込んだんだが、あいつは異常な程にしぶとく、俺は徐々に身体と意識を奪われていった》



戸愚呂(兄)を体内に入れてから徐々に自分が自分でなくなっていく恐怖。



そして完全に身体を奪われてしまってからの戸愚呂(兄)がこれまでやってきた事



巻原はこれまでの経緯を全て黒鵺に話したのだった。



黒鵺「今のお前は残留思念みたいなものか」



巻原《そうなるかな。霊界に行って成仏したいところだけど、戸愚呂(兄)のせいで俺の魂はここから離れる事も出来ないんだ》



黒鵺「何で俺に声をかけてきた」



巻原《俺は強い者がここ(領域)に来るのをずっと待っていた。あんたならここを破って戸愚呂(兄)を殺して俺を成仏させてくれると思ったんでな》



黒鵺「なるほどな。
さっき手を貸すとか言ったな」



巻原《ああ。俺に出来る事なら何でもするよ》



(ニッ)
黒鵺「だったら一つだけ協力してくれ。俺がお前を成仏させてやるよ」



巻原《何でもするよ。戸愚呂(兄)が死なない限り俺は成仏出来ないからね》



黒鵺「見ての通り、俺は重傷で動けない。この俺の身体を完全に回復させる事は出来ないか?」



《回復させるなんて俺にそんな力はないよ。特殊な能力を持っているだけで普通の人間なんだよ》



黒鵺「駄目か。俺のこの傷の痛みだけでも、消す事は出来ればなんとかなる」



槙原《それなら可能だよ。残留思念となった今なら、その程度は出来る。傷の痛みを消してあげられるよ》



巻原の言葉に不敵な笑みを浮かべる黒鵺。



黒鵺「ナイスだ。傷の痛みが消えれば誤魔化しでも
妖気も少しは使えるようになる」



巻原《分かったよ。本当に頼むよ。俺を安らかに眠らせてくれ》



そう言うと黒鵺の頭の中に語りかけていた巻原の声が途絶えた。



それと同時に何かは分からないが、黒鵺は身体が熱くなるような感覚を味わった。



すると



黒鵺「傷の痛みが消えた!!よし、これならなんとかなる」



ここから脱出する為の希望が出てきた事への嬉しさを拳を強く握り締める事で表現。



黒鵺「戸愚呂(兄)今からお前の身体をぶちやぶってやるぜ」



黒鵺は目を瞑ると精神を集中し始めた。



――亜空間



戸愚呂(兄)「さてと、あいつの変身能力を早速使ってみるかぁ」



黒鵺を領域に入れて手に入れた能力を早速使ってみたい欲求が高まる戸愚呂(兄)



だがそんな戸愚呂(兄)の身体に大きな変化が起きようとしていた。



戸愚呂(兄)「な、何だぁ、腹が痛て……よ」



どんどん痛みが増していく。



戸愚呂(兄)「一体どうなっていやがる!!!」



あまりの痛みに、ついに立っている事すら出来なくなった戸愚呂(兄)はガクッと膝を地面につく。



戸愚呂(兄)「ま、まさかあの野郎が…」



戸愚呂(兄)の脳裏に黒鵺の顔が浮かぶ。



身体に異変が起きたのか、その理由を考えると黒鵺そしか考えられなかった。



戸愚呂(兄)「グギャァァァァァァァ!!!!」



亜空間に響き渡るほどの悲鳴を上げる戸愚呂(兄)。



ズボォォォォォ!!!



戸愚呂(兄)の腹を突き破って黒鵺が亜空間に飛び出てきた。



黒鵺「ハァハァハァ…。やったぜ…」



戸愚呂(兄)「き、き、貴様ァァァァ!!!」



腹を突き破られた戸愚呂(兄)はその場に仰向けに倒れている。



ゆっくりと近付く黒鵺。



黒鵺「年貢の納め時だ戸愚呂(兄)」



戸愚呂(兄)「…お前は瀕死の状態だったはずだ。な、何故、領域から脱出来た…」



黒鵺「フッ、それはあの世でじっくりと考えな。一つだけ言わせてもらえば、これまでお前のやって来た事の報いだと思え」



黒鵺は右手に大きな妖気の弾を作り出す。



戸愚呂(兄)「ま、待て!!俺が悪かったァ!!命だけは助けてくれェェェェ!!!!」



黒鵺は必死に命乞いをする戸愚呂(兄)を冷めたような目で見る。



黒鵺「フッ…」



目を瞑り、不敵な笑みを浮かべる黒鵺。



黒鵺「お前は一体何人、
今のお前のように命乞いをしてきた者を殺してきた?」



戸愚呂(兄)「はう……!?」



黒鵺の言葉に一気に顔が青ざめる戸愚呂(兄)。



黒鵺は目を開けると静かな声で呟く。



「地獄に落ちろ」



戸愚呂(兄)「ひ、ヒィィィーーー!!」



ドォォォォォォォ!!!!


黒鵺の放った妖気の弾を受けた戸愚呂(兄)は跡形もなく消滅した。



ヒューーーー!!!



その時だった亜空間に吹くはずのない風が吹き荒れる。風が黒鵺の髪をなびかせる。



それはこれまで戸愚呂(兄)に殺された者達の魂だったのかもしれない。



黒鵺(あばよ…)



黒鵺は髪を手でかきあげながら、亜空間の空を見上げて呟いたのだった。



〜黒鵺の回想・終〜



続く
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