幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編05
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――魔界統一トーナメントBブロックの四回戦・第一試合



棗(なつめ)
×
飛影(ひえい)



――Bブロック



大きな傷を負い、
今にも倒れて死んでしまいそうな状態の飛影だが、
その眼はまだ勝負を諦めていない。



飛影「…今のお前は強い。おそらく…全力を出した躯と比べてもあまり差はないだろう…」



棗「クックック、瀕死のわりにはよく喋る。今のお前は私の軽い一撃を受けても即死だ。それは分かっているのか?」



飛影「…フン…。勝手に賭けを破ったお前には…最高のプレゼントをやるぜ…」



棗「最高のプレゼントだと?」



飛影は不敵な笑みを浮かべてニヤリ。



飛影「…貴様の…安らかな死という…最高のプレゼントをな…」



棗「私の死?その身体でよくそんな大きな口を叩けるものだ。気でも狂ったか?」



棗は薄ら笑いを浮かべた。


飛影「…フン、大きな口かどうか直ぐに分からせてやるぜ…」



棗「やってみるがいい。無駄な抵抗をな」



飛影は構える。



飛影(キッ!)



飛影の目が鋭い目に変わり棗を睨む。



棗(こいつ……!?)



棗の顔から笑みが消えた。



目の前に立っている飛影は今にも死にそうな程の重傷。



だがその瀕死の飛影から漂う異様な雰囲気を棗は瞬時に感じ取ったからだ。



飛影は黒龍波を放つ構えを取る。



棗「黒龍波か。それは私には通用しないぞ…」



飛影(…………)



棗(しかしこいつが通用しないと分かっていて黒龍波を選択するとは思えない。何か策でもあるのか…)



飛影・棗(…………)



二人の間に緊張が走る。



その時だった。



《……………》



《……………》



《……………》



棗「チッ…」



舌打ちをする棗。



この時、棗の中で大きな変化が起きようとしていた。



《聞こえる?もう一人の私》



棗《貴様、心の奥深くに封じ込めた筈なのに、まだ私に呼びかけられるほどの力があったとはな》



《私は貴方によって完全に封じ込められていた。でも私は出て来た。純粋な悪でしかない貴方をこれ以上表に出すわけにはいかなかったから》



棗(クックック、純粋な悪だと?この私を生み出したのは、他ならぬお前自身だという事を忘れるな)



《そうね。貴方を生み出したのは他ならぬこの私。だからこそ私は過去と向かい合わなければいけない》



棗(フッ、どうやら思い出したようだな。私が生まれた経緯を)



《そう、私は思い出した。今の私は完全に幼い時の自分の記憶を思い出した。
あれは本当に忌まわしい記憶…》



――棗の過去の記憶



私の名前は棗。



優しい両親と双子の兄に囲まれて幸せに暮らしている。



私の住んでいるところは魔界の14番地区。



ここは魔界の中でも辺境の地。
この地区の外れには地元に住む妖怪ですら滅多に近づかないと言われている深い深い森がある。



私たち親子が住んでいるのはその森の直ぐ近く。



他に住んでいる僅かな妖怪とも交流は全くなく、ひっそりと私たち親子は暮らしていた。



他の妖怪と交流をもたない事で私の知る妖怪は家族だけという非常に狭い世界だった。



でも不思議と私は寂しいと思った事はなかった。



大好きな父と母、私をよく苛めて泣かすけど、優しいところもある兄の九浄がいてくれたからだ。



私たち兄妹は家から少し離れた広場に来ていた。



「九浄、行くよ」



私は九浄に向かって言い放った。



「来い、棗」



私の言葉に答える九浄。



そして私は九浄に向かって駆け出した。



そう私たち兄妹は組み手をしていたのだ。



私たち兄妹でする遊びといえば二人でするこの組み手だ。



九浄の方から私に攻撃を仕掛ける。



鋭い回し蹴りと素早いパンチを連続で繰り出す。



私はこの攻撃を難なくかわすと九浄の背後に回って、突きを放った。



九浄は真上にジャンプして私の突きをかわした。



私たち兄妹の動きは普通の妖怪の子供の動きを遥かに超越していた。



無邪気な子供が組み手を遊びとしてやってるから武術の上達もかなり早かった。


「棗ーーー!九浄ーーー!」



父が私たちを呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。



「父さんが呼んでる」



九浄がいち早く父の声に気付く。



「行こう、棗」



「うん」



私たちは組み手を止めて直ぐに父の元に駆け出した。


父の隣には母もいる。



九浄は母に私は父に思いっきり抱き付いた。



私は父の事が本当に大好きだった。



厳しいけど強くて優しい、私にとっては理想の父だ。


父は霊界の基準でいえば
A級の中位妖怪。



武術の好きな父は物心がついた頃から私たち兄妹に武術を教えていた。



私たち兄妹の戦い方の基本は全てこの父から学んだもの。



父は私たちに武術の才能があると、それはそれは一生懸命教えてくれた。



父は私と九浄の頭をクシャクシャと撫でた。



私は父に頭を撫でられるのが大好きだった。



なんかくすぐたっくて心地よい気持ちになるからだ。



「組み手を二人でやっていたのか?お前たちは本当に好きだな」



父の顔はとても嬉しそう。


「父さん出掛けるの?」



父の姿が普段と変わっている事に気付いた九浄が父に聞く。



「棗、九浄、父さんは大事な用で少し出てくるからな。母さんの言う事をよく聞いていい子で待っているんだぞ」



「は〜い」



私と九浄は笑顔で答える。



父はたまに家を空ける事があった。



父が家を空けていたとき、一体何をしていたのか、私も九浄も未だに知らない。


父は朝に出掛けていつも夜に帰ってきていた。



多分、今考えると魔界の他の地区の情報を仕入れに行っていたんじゃあないかと思う。



両親は何故か隠れるようにこの場所で生活をしていた。



その理由は分からない。



分かるものなら知りたい。


分かっているのは何かある妖怪たちとの間にトラブルがあったという事だけ。



「では言ってくるぞ」



「行ってらっしゃーい」



笑顔で見送る私たちに、
父は優しい微笑みをかけて出掛けていった。



私たちは父の後ろ姿をいつまでも見ていた。



父の姿が完全に消えてから暫くすると母が私たちに声をかける。



「二人ともそろそろ家に入りなさい」



母に促されて私たちは家に入る。



母は大人しい女性で、凄く優しい。
私たち兄妹はどうやら顔は母に似ているみたい。



家に入ってから私は、
父の帰りを待ちながら、
他愛のない話しを母や九浄として過ごした。



そして時間は過ぎて、
夜になった。



父はいつもならもう帰ってきてもいい時間なのにこの日はなかなか帰って来ない。



九浄と私は母に「父さん今日は遅いね」と何度も言った。



母は帰って来ない父を気にしてか、少し心配そうな顔をしていた。



「お母さんはお父さんが帰るまで起きてるから、棗と九浄はそろそろ寝なさい」


私は父が帰るまで起きてると駄々をこねたけど、母には勝てず、九浄と一緒に寝る事になった。



そして私と九浄が寝室に向かおうとしたその時だった。



ドーンと大きな音をたてて家の戸が開いた。



(!!?)



驚いて戸の方を見ると数人の妖怪たちが立っていた。


「貴方たちは……!」



母は現れた妖怪たちを見て震えていた。



「お母さん、誰なのこの人たち?」



妖怪たちの一人が叫ぶ。



「へへへ、ようやく見つけたぜ。手間かけさせやがって」



私と九浄は恐怖で泣いていた。組み手とか普段やっていても、所詮は幼い子供。


恐怖で固まるしかなかった。



そしてこれから起こる恐ろしい出来事。



それが私の忌まわしい記憶の始まりなのだ。



続く
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