幽☆遊☆白書〜2ND STAGE〜

□大会編05
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――魔界統一トーナメントBブロックの四回戦・第一試合



棗(なつめ)
×
飛影(ひえい)



――Bブロック



飛影「フッ、今のそいつの意識は黒龍波に集中している。お前ならどうにか出来る筈だ。さっさと身体を取り戻せ」



《言われるまでもない。
私はもう一人の私を倒す》


棗(!)



飛影の言葉に、封じ込められていた本来の主人格である棗が応えたのだった。



――棗の頭の中



善と悪・二人の棗が精神の中で、再び対峙する。



悪の棗「クソッ、さっき私はお前を完全に封じ込めた筈だ」



善の棗「貴方は、私を封じ込めたつもりでいたのかもしれないけど、私は貴方に封じ込められたわけではない」



悪の棗「チッ、しぶとい奴だ。だが、お前もわかっているだろう。今の私たちのおかれている状況を。
このままでは飛影の黒龍波によって消されてしまうぞ!



善の棗「そうね。一つの身体を私たちは共有している。このままでは消滅してしまうだろうね。さっさと決着をつけないとね」



明らかに焦っている、
悪の棗とは対称的に善の棗は冷静な口調で話す。



悪の棗「チッ、お前に私を倒すことなど出来ない。私とお前の力の差は知っているだろう!今度こそお前を封じ込めてやる!」



善の棗「今度は負けない。私は貴方を倒す」



悪の棗「さっきの私との戦いで、お前は相当なダメージを負った。無駄だ」



善の棗「そうかしら。
今こそ、分裂した私の人格を一つにする」



ズキューーーン!!!



善の棗が悪の棗に攻撃を仕掛けて、再度ぶつかり合う二人の棗。



この二つの人格の戦いは、実際の時間にして、
ほんの一分にも満たない、数十秒の出来事。



だが、二人にとってはその僅かな時間はとても長く感じられた。



現在、身体を支配しているのは悪の棗。



その妖気は善の棗の数段上をいっている。



だが、彼女は善の棗によって、完全に追い詰められていた。



善の棗より、圧倒的に力が上の悪の棗が追い詰められているのは何故か?



それは今、身体を支配している悪の棗は、飛影の放った黒龍波に対して、意識を集中していないといけないため、善の棗との戦いに集中が出来ていないからであった。



悪の棗「ハァ…ハァ…ハァ…。そんな馬鹿な、この私が……」



かなりの体力を消耗し、肩で息をしている。



その様子を見た善の棗は、この気を逃さずに勝負に出る。



善の棗(キッ!)



善の棗は必殺の一撃を放つ。



ズン!!!



体重を前に掛けて踏み込む。



ビューーン!!!!



ズボッ!!!



善の棗の必殺の一撃が悪の棗の胸を貫いた。



悪の棗「ガハッ!!」



口から大量の血を吐き出す。



善の棗「これで貴方は終わりよ」



悪の棗「クソがッ!!」



ガシッ!!!!!!



善の棗(!!)



胸を貫いている善の棗の右手を掴む。



ズズズ……



悪の棗「グッ……!」



そして胸を貫いている善の棗の右手を引き抜いた。



そしてゆっくりと後ろに下がっていく。




悪の棗「私は…」



悪の棗は鬼気迫る顔で棗を睨む。



悪の棗「私はこんなところで死ねない。せっかく表に出られのだ。私は目的を果たすまでは死ねないのだーーーー!!!!」



悪の棗の大きな声が響き渡る。



善の棗(目的?)



ブォォォォォォ!!!!!!!



善の棗(何、あいつから感じるこのプレッシャーは!)



悪の棗は最後の力を振り絞るかのように、妖気を爆発させる。



そして、悪の棗が妖気を爆発させたのと同時に、
善の棗の中に悪の棗の感情が伝わってきた。



善の棗(こ、これは…!?)


悪の棗「ウァァァァァァァ!!!!」



狂ったように叫び声をあげて荒れ狂う悪の棗。



善の棗(…………)



善の棗はそんな悪の棗の姿を黙って見つめている。



善の棗「そうか…。そういう事だったのね……」



悪の棗が、内に秘めていた感情の全てを理解した、
善の棗の両目からは、涙が流れている。



善の棗はゆっくりと悪の棗に近づいていく。



そして荒れ狂う悪の棗を優しく抱きしめる。



まるで実の姉妹を抱擁するかのように。



悪の棗(!!)



善の棗(…………)



悪の棗「は、離せ……!」


善の棗「もういいよ。分かったから」



悪の棗「お、お前…!」



荒れ狂う悪の棗の動きが止まった。



善の棗「貴方は自分が生まれるきっかけになった、
あの声の主を憎んでいる。そして貴方はあの声に導かれるまま、父と母を殺してしまった自分自身の存在までも憎んでいる」



悪の棗「クッ……」



善の棗「貴方の本当の目的は私の身体の主導権を握って、あの声の主を殺す事が目的だったのね。父と母の敵を取るために」



悪の棗「私は父と母を殺した自分自身を許せない。
そしてあの声の主も。事件の事を忘れてしまった、お前の中にいながら私はずっとその事を考えていた」



善の棗「ごめんなさい。全てを忘れていた私は、貴方に全ての負の感情を押し付けてしまっていた」



ギュッと力強く悪の棗を抱き締める善の棗。



善の棗「貴方と私は再び一つになる。大丈夫、貴方の想いは私が引き継ぐ。あの声の主は私が必ず捜しだして殺す」



善の棗の言葉を聞いた悪の棗は、ニコリと笑うと、邪気が取れたように、
みるみる優しい顔になっていく。



シュゥゥゥ…………



そしてその姿は足元から消えていく。



悪の棗「私の力…、お前に託す…」



悪の棗の妖気が善の棗に流れていく。



善の棗「さよならはいわない。貴方は私の中でずっと生き続けるのだから」



消えていく、もう一人の自分を涙を流しながら見送る。



悪の棗「フッ………」



悪の棗は最後に笑みを浮かべる。



シュゥゥゥゥゥ…



そして悪の棗は完全に消滅したのだった。



――Bブロック



飛影「終わったようだな」


邪王炎殺黒龍波を受け止めている棗の表情が変わった事を飛影は見逃さなかった。



飛影「ハッ!」



ピカーーーーー



飛影の邪眼が光ると黒龍波が消えていく。



――メイン会場



小兎「あーーーーっと!!!飛影選手が放った黒龍波が消えていきます。これは一体!?」



――Bブロック



棗「飛影…」



黒龍波が消えて、棗は地面に膝をついて、飛影を見つめている。



飛影はゆっくりと棗に近づいていく。



飛影「フン、手間をかけさせやがって」



右手をスッと差し出す。



棗、ニコリと笑い、飛影の右手を掴んで立ち上がる。



棗「飛影、貴方には、大きな貸しが出来てしまったわね…」



飛影「まったくだ」



棗は敗北を認めた。そして飛影の勝利がアナウンスされたのだった。



――メイン会場



躯「終わったな」



雪菜「棗さんのあの顔は、私の知っている棗さん…」


躯、ニヤリ



躯「良かったな。お前の知っている棗が帰ってきたようだ」



雪菜「はい!」

(良かった。二人とも無事で)



――Bブロック



棗「待って、飛影」



試合が終わり、選手達の休憩所に戻ろうとする飛影を呼び止める棗。



飛影の足が止まる。



棗「飛影、すまない。私は結果として、貴方との賭けを破る事になってしまった」



飛影「フン、もういいぜ。お前の別の人格がしでかした事をお前にとやかく言うつもりはないぜ。雪菜との事にケリをつける時がとうとうきたって事さ」



棗にそう告げると飛影は選手達の休憩所に向かって歩いていった。



棗はその後ろ姿を見つめる。



棗(雪菜ちゃん…、貴方と飛影の止まっていた時間がやっと動きだすわよ)



そして棗の脳裏にもう一人の自分の事がよぎる。



棗(止まっていた時間が動き出すのは私も同じか…)



大昔に起こった忘れられていた家族の悲劇。棗の止まって時間がこの時から動きだした。悲劇の元凶との戦い。



それはこれから起こる、
復活した仙水忍と樹との戦いにも大きく繋がっていくという事に、棗はまだ知る由もなかったのだった。



続く
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