頂き夢

□素直になるまで知らんぷり。
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一人暮らしで、

アルバイトで、

彼氏も居ませんけど、なにか問題でも?




義務教育など当の昔に終わり、
それなりに修学して、

反りの合わない親元を離れて、

一人でこうして、生きています。




(昨日、楽しかったな、…眠いけど、)




ふと部屋の壁に飾られたカレンダーを見上げると、昨日の日付には沢山のお花マークが。



(カラオケでストレス発散、これマジだ)


友達だって、それなりにいますのでご安心を。

孤独なのは、私だって辛い。




「…ってヤバ、もうこんな時間だ、」



柄にも合わず物思いに耽っていたら、そろそろバイトの時間が迫ってきていた。

仕度は済んでいるので、私はバックを手に持つとバタバタとアパートを出て行った。






と言っても、私の職場は徒歩一分。

アパートの最寄の、コンビニである。

カンカンとリズミカルな音を鳴らして階段を駆け下りて、
道路を挟んだ向かい側にある『バチカルマート』。

この物件は非常に魅力的な物件だった。
先述通り、コンビニは徒歩一分。
最寄駅は徒歩五分。
キムラスカ国の首都バチカルのど真ん中。
それでいて家賃は格安(最初はいわく付きかと思った本当に)(でもマジだった)。
しかもそのお向かいさんが、職場。


(ぐだぐだな私には、この上ない物件だ)



しかし一つだけ、問題がある。

好条件の中で生活する私の中では、
たった一つだけ。

その問題は、私にとって苦いのか、それとも。









「おはようございまーす」


コンビニに入って直ぐ左手にあるレジの店員に声をかける。

ちらりとそちらを見て、私はげんなりした。



「遅い!屑が!!」

「…はぁ?」



腕組みをしている紅い髪の男は、眉間に皺を寄せてギロリと私を睨みつけた。


遅くないし。

そう思って腕時計を確認したら、やっぱり時間は合っている。

絡むのも面倒なので、そのまま奥手にある事務所に向かった。




自分のロッカーにバックを入れて、制服に腕を通して、タイムカードを押す。

うん、やはり時間通りだ。




自分の身なりを確認して店に出ると、
やはり紅髪の彼は腕組みをしたままで私を待ち構えていた。



「あの、アッシュ店長。時間通りですけど」

「三十秒経過していた。遅刻だ」

「はぁ?タイムカード上で秒単位までは関係ないでしょう?」

「テメェの家はソコだろうが。何故もっと余裕をもって、出勤できねぇんだ」

「いやいやだから…」


どこまで続くのか押し問答。
面倒になった私はひとつ大きな溜め息を吐いて、その言い合いを終わらせることにした。





大体この時間はいつも、客足が少ない。

そういう時間帯の従業員は二人体制なのだが、
(あー今日は店長と、だった…。マジサイアク、)

これが例の、問題そのものである。

お客さんのいない店内はBGMしか流れておらず、時間が過ぎるのが非常に長く感じた。



「暇なら掃除でもしろ、屑が」

「はいはい、」

「バカ、床じゃねぇ。便所だ」

「…はいはい、」

「昨晩の帰りは遅かったようだな」

「……はいは…、い?」

「酷く酔っ払っていた」



何言ってるの、この人。



「店長…、ストーカーですか?」

「屑が。昨日は夜勤だ」

「あぁ、なるほど」



きっと外を歩く人たちには、異様な光景に見えていることだろう。
レジに並んで立つ男女が、表情ひとつ変えず、淡々と会話をしているのだ。



「酔っ払いが夜中にひとりで帰宅か、」

「やけにつっかかりますね」

「酒は飲んでも飲まれるな」

「飲まれてませんよ。…あ、もしかして、心配してくれてるんですか?」

「屑が!!さっさと便所掃除してこい!」

「はいはい」



解りにくい表現だが、解りやすい人なのだ、この人は。





「お会計1150ガルドになります」


ありがとうございましたー。

淡々とレジの作業をこなして時間は過ぎる。


「…あの屑、遅いな」

「屑?」


遅い、という言葉に店内の時計を眺めてみると、そろそろバイト仲間のルークが出勤してくるであろう時間だった。


「アッシュ店長は上がりですか?」

「屑が来たらな」


言いながらアッシュ店長は結んでいた長い髪を解いた。
サラリと肩に落ちた紅い髪はつやつやで羨ましい。


「いいなー。私今日は初の夜勤なんですよ」



経済的に裕福でもない私はなるべく稼ぎたくて、最近夜勤でもシフトを入れてもらった。

今日はその初めての夜勤の日だ。
でも、若い女が夜中に店頭に立つのは危険だ、夜勤の時はルークと一緒に入るようシフトを組んでくれたのはアッシュ店長である。

シフトを入るようにお願いしたもののやはり朝方までの勤務は気が遠くなる。
あと何時間あるよ?

ぼーっとアッシュ店長の紅い髪を眺めていると、暫く黙っていた店長はまた髪をひとつに結い始めた。

何でまた結んでるのこの人、意味も解らずその様子を見ていると、綺麗に髪を纏めたアッシュ店長は口を開いた。


「屑と二人は心許無いな」

「…は?」


彼の言葉が理解できず、私は頭の天辺にハテナマークを浮かべる。


「俺も付き合うか」

「はぁ?」

「文句あるのか?」

「ちょ、マジ?いや、だって、アッシュ店長昨日も夜勤…」

「体力的には問題ない」

「いやいや、でも、」

「店長は俺だ。屑とテメェじゃ一夜にして店が潰れる」

「はぁ?シフト組んだの店長でしょ?」

「黙れ。俺も残る」



テメェが上がるまでな、
と言ったときの彼の表情は後ろを向いていたので伺えなかったが、
ちらりと見えた耳が真っ赤だったからどんな顔をしていたのかは想像がつく。
きっと眉間にぐっと皺を寄せて、バツが悪そうな顔をしているのだ。



もうほんと、解りやすいのだ、この人は。


「ルーク今日、休むみたいですよ。調子悪いんだって」

「…連絡があったのか?」



ぱ、と振り返った彼の眉間に皺はなかった。
予想外の、それでいて楽しそうな。



「嘘です」

「…テメェ、」





解ってますよ、アッシュ店長。

でも私はこういう人間なので、










素直になるまで知らんぷり。
意地悪ってわけじゃないのよ?

(悪い!ちょっと遅れた!)
(ルーク、遅いよ)
(あれ?アッシュは上がりだろ?顔赤いぜ?風邪?)
(屑が!!屑共がぁ!!)











龍田日和様、
一周年おめでとうございます!




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