長編D

□04
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 わからない。

 仲間だとか、友達だとか……なぜ、ああも容易く口にできる。なぜ突き放してもへらへらと笑っていられる。なぜ軽蔑しても尚立ち向かう。……なんのつもりだ。それで、あいつになんの得がある。一体何が目的だ。

 理解できん。疑問ばかりが浮かぶ。消化できずに頭の中でぐるぐると回り続けるそれに、苛立ちは増すばかりだ。
 気分が悪い。馬鹿馬鹿しい。なぜ僕がそんなことで悩まなければならない。いや、悩む必要などありはしない。あいつは、ただの足手まといだ。ただ、それだけだ。


「よろしくな」


 馴れ合うつもりなどない。何度言わせればわかるんだ。


「今日から一緒に仕事する仲間なわけだし」


 補佐官など冗談じゃない。僕一人で充分だ。


「俺はリオンのこと信用してるし、仲良くなりたいとも思う」


 他人をすぐ信用するなど馬鹿げている。よほどのお人好しか、何も考えていないのか。どちらにせよ、軽薄だ。


「リオンのこと結構好きだけどな」


 くだらない。僕はお前のように、馴れ馴れしい奴が大嫌いだ。


 なぜあいつは僕の心に入り込んでくる?出来るはずがないんだ。彼女以外に。僅かでも、僕の心を乱すなんてそんなことが。

 友達、仲間……友情、信頼……次から次へと、よくもくだらない言葉ばかり並べたものだ。
 そんな言葉を吐いて、投げつけて。憐れみか、それとも同情なのか……よしてくれ、貴様には関係ない。何一つ関係ない。
 僕を利用しようとしているのか、僕に取り入ろうと企んでいるのか知らないが。もう、うんざりだ。今まで、どれだけそんな輩がいただろうか。これからだって、きっと。

 父親――ヒューゴばかりを見る数多くの目。僕がヒューゴの息子だから、僕が客員剣士だから、と。僕の努力には、いつもヒューゴの名声がついてまわった。僕を見ようともしないふたつの眼差し。さすが、と口を揃えてヒューゴの息子としての僕を見る。誰も本当の僕など見ていない。
 地位や金に目が眩んで、勝手期待して、勝手に理想を押し付けて、勝手に憧憬を抱いて。自分の為だけに上辺を諂う。己の理想のままに虚像を作り出すくせに、それを裏切れば非難し、失望して去っていく。

 あいつも、きっとそうだ。奴らと同じなんだ。

 何を悩むことがある。僕は何にそんなに戸惑っているんだ。
 足手まといは切り捨てる。単純な話だ。くだらない情に捕われるな。何を今更、取捨選択に迷う必要がある。生来散々学んできたことだ。必要なものを得るためには、それなりの対価を払い、無価値なものは捨てる。

 僕は、ヒューゴにとって奴とオベロン社の利益の為の『駒』。セインガルド王家にとっては『客員』。『対等』という関係などありはしない。利用するか、されるか。……それだけだ。『対等』など不要な関係だ。僕は、そんなもの望んではいない。求めていない。
 そう、もし『対等』という関係を望むとするなら、それは唯一マリアンとの間だけだ。誰に、蔑まれようとも、理解されなくても構わない。ただ僕は、彼女とシャルが傍らにいてくれればいい。それ以上は、手に余る。


「俺はリオンと友達になりたい」


 そんなもの僕には必要ない。そう、必要ないんだ。






(考えたところで無駄なことだと、知ってるはずだ)
(それなのに、)


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