短編集

□色褪せない永遠の影
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「綺麗だな」


 そう言って微笑んだガイラルディアの視線の先には、


「……月?」
「ああ」


 彼の髪と同じ色をした金色の大きな月が浮かんでいた。
 どうしてかしら?不意に泣きそうになったの。


「ええ、そうね。綺麗……綺麗だわ、とても」


 ねえ、ガイラルディア。
 美しさを感じられること、それを美しいと口にできること、感情を表情に声に素直に出せること。そんな些細なことが、きっとすごく大切で素敵なことなんだと私は思うわ。
 綺麗なものを綺麗と素直に口にできる。その心が綺麗なんだ、って。

 共に復讐を誓ったまだ幼い頃。あの時のあなたの横顔を、きっと私は一生忘れることはないでしょう。
 だけど、そんなに穏やかな顔で綺麗だなんて笑うあなたを見ていたら、あの日のあなたが嘘みたいに滲んでしまったの。だって、こんなにも純粋にそれを口にできるんですもの。


「ねえ、ガイラルディア。あなたって不思議な人ね」


 月は人を変える、だなんて一体誰が言っていたかしら。でも、私は思うのよ。あなたを変えたのは月のせいなんかじゃない、って。


「さあ、自分ではよくわからないな」
「ふふっ、そう。でも、きっとその方がいいんでしょうね」
「どういう意味だい?」
「あら、意味なんてないわよ。……でも、そうね。強いて言うなら、あなたそのものが答えみたいなものよ」


 意味のないものなんてこの世の中にはないと言うわよね。だから、私は矛盾しているのかもしれない。
 それでも、全てを言葉にしたり、答えを出すことは重要ではないと思うの。
 秘めているものがあるものこそ、説き明かさず謎のままに残しておくことが美しいのかもしれないわ。
 それはきっと、この空のように蒼く紅く、姿を変えてゆくものだから。触れず探らずに、囚われず求めずに、どうか。



(内側からはあなたにしか見えないのに、)
(外側からは私にしか見えないものは?)
(あなたという解答欄はどうか空白のままで)


ああ、お月様は見えない何かまで照らしてくれるというのでしょうか?


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