短編集

□還る場所
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 気が狂う程の現実。君が世界を取り戻したあの日から、もうすぐ二年が経つ。

 あれは、君の朱とよく似た真っ赤な夕焼けな所為であったと。エルドラントから見たそれが脳に焼き付いて消えないだけ。そう、あれは幻であったと。そう思いたい。
 きっとあたしだけ。あたしが君に会えないまま時が流れた。それだけのことよ。
 どうやら長い間、あたしは悪い夢を見ていたみたい。そう言って笑える日がこの世界に訪れればいい。

 私、ルークのおかげで忘れてた大切なことを思い出せた。だからね……あの時の私にもう一度伝えなきゃいけないことがあるの。
 信じなければ何も見えないし、何も変わらない。そして、何も始まらないってこと。

 君が教えてくれた奇跡、まだ起こるかな。

 ねえ、ルーク。あたしは、変われたかな。どこかで見ててくれた?それとも、捻くれ者のあたしのことなんて忘れちゃった?


 もう一度、今日のこの夕暮れと君の朱が重なって見えた。君のそのあたたかな朱色が、まだ雪解けの来ない私の心を溶かしてくれるのを、今はただそっと待ってみようか。

 もうすぐ夜が来る。海の底のように深い深いこの気持ち。どうか、真っ白なセレニアの花びらと一緒に風に乗せて攫って行って。


「……信じてるから」


 君を。そして、君が教えてくれた奇跡を。


 海に沈める事ができなかった『希望』という宝石が輝きを取り戻すまで、
 奇跡が起こるまで、


 あと―――……

 少しだけだと、



還る場所
(夜の渓谷に朱を見た)
(ああ、涙が止まらない)


「空に溶ける」の続編。


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