ああ、これは夢だろうか。 「リ、オン……ど……し、て……?」 痛い、苦しい、悲しい。 傷口が、まるで燃えているように熱い。確かめるように胸元に指を這わせればぬるり、とした感覚。掌から、指の隙間から零れ落ちるそれ。己の身体から溢れる鮮やかな紅は、止まることを知らない。ぽたぽたと流れ落ちる雫は、地面に紅い水溜まりを作った。 「……どうして、か。何故そんなわかりきったことを聞く?」 「な、……に……?」 どくん、どくん、と鼓動がやけにうるさい。 「僕は、お前達を裏切った。……それだけだ」 酷く冷たい視線が、地面に這い蹲っている私を見下ろした。 この人は誰?血の滴る剣を握り締めた、冷めた瞳の血濡れた少年。こんな人を私は知らない。 「ぅ……あ、あああ……あ……」 声にならない声が、声帯を震わせる程の力もなく、溜息にも似た重苦しく震えた声だけが、微かに開いた唇から漏れる。 必死に彼に伸ばした手は届かず、力なく血溜まりの中に音を立てて落ちた。ぱしゃ、という水音だけが海底洞窟に小さく響いた。じわじわと浅く広がっていく真っ赤な世界。 「……信じ、てた……の、に……」 彼の紫水晶の瞳が、ぐらり、と揺れた。 「この期に及んで、どうしてそんなことがまだ言える?なぜ剣を抜かない?なぜ躊躇う?……まだわからないのか。僕は、裏切り者なん――」 裏切り者?リオンが?……違う。リオンは裏切り者なんかじゃない。 だって、リオンは、 「仲、間……だから……」 「……!」 「リ、オンは……大切な、……仲間、だから」 「だから馬鹿だというんだ。お前といい、スタンといい……全くおめでたい連中だ」 ふ、と口元に歪んだ弧を描くとリオンはシャルティエを構えた。 ああ、シャル。君はなんて言っているの?ねえ、あなたのマスターは、どうして道を過ってしまったの? 私は、ソーディアンマスターじゃないから彼の声は届かない。でも、彼から発せられるコアクリスタルの輝きが、酷くかなしいものに感じられた。 ――瞬間、 「ぅあ、あああああ……!」 振り下ろされた刃。 もう考えることもままならない。視界には暗闇と紅が交互に映る。 こわい。黒が、赤が……、私を、意識を奪っていく。 光が眩しくなければ、空が碧くなれけば、悲しくなどはなかったのだろうか。頬を伝った雫はまだ紅く染まってはいなかったというのに、 「……リ、……オ、ン……?」 もう、なにもきこえない。 もう、なにもみえない。 モノクロの世界が滲む (それは彼女の涙か、僕のそれか……) (お前とは、別の形で出会いたかった) (だが、これもまた運命、……か) 運命とは時に残酷なものである。人は自ら選択しているようで、実はその道を選ばされているだけなのかもしれない。 |