最低で最悪で最愛
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9、最悪な予感しかしない!
匡也を殴った日から…暫くアイツは来なくなった。
パッタリと嵐が止んだように、顔を合わせる事も、チラリ見る事もなくなった。
殴って「関わるな」って言ったのに、元々顔なんか会わす気も更々ない。
これでいいんだ。
また平穏な学生生活が送れる。
そう思うのに…
あの時に、見た顔が忘れられない。
ムカつくのに、
怒ってんのに、
軽蔑してんのに、
「晃人、前!!」
そう言われて、荷物を抱えたまま顔を上げると、目の前は既に人の真ん前で避ける動作も出来ずに人とぶつかった。
「へぶっ!」
オレは体格負けしたのか、軽く後ろに転ぶと持っていた大量のノートもぶちまけた。
バサバサと落ちる。
一緒に運んでいた尊がため息ついていた。
「いてっ……って…『小野匡也と恋人』の加賀じゃん。」
ぶつかった男が、オレを見て一見にそう言い、つい反射的にバッ起き上がった。
「違う!!勝手に恋人にすんな!」
「え?違うの?…だって写真とか…」
相手は、意外そうに驚いくとケータイ出して指を差した。それは、出回ったメールの写真の事だ。
オレは、一瞬で写真が頭に浮かんで顔が
熱い。
「あ、アレは、事故なんだよ!たまたまそれ撮られただけで、別にオレは好きでした訳じゃねーんだよ!!」
男はパチクリと目を瞬くとへらっと笑った。
「へ〜…じゃあ、付き合ってないわけ?」
「そうだよ!」
相手が珍しく素直に話を聞いてくれて、オレは少しホッすると、ばらまいたノートを拾いだす。
ぶつかってしまった男も拾ってくれる。
男は、隣のクラスの見たことあるヤツだった。
ノートを渡してくれるのと同時に顔を近づけて来ると…
「…じゃあ、俺と付き合って」
とボソリと囁かれた。
「へ…?」
一瞬またノートを落としかけると、男が落ちないように支える。
オレは、頭が真っ白になって男を見ると、男はニッと笑って「返事待ってるから」とだけ言うと去っていった。
え…?
えええぇぇえ!!?
何それどゆ事…!?
尊に「行くぞ」と言われるまで呆然としてしまった。
さっきの男は、1年の間じゃあ小野匡也の次に大体のヤツが認識してるイケメンだ。
匡也とは、また別な感じのイケメンで…匡也が正統派イケメンなら、さっきの男はジ●ニ系の派手目なイケメンだ。
茶髪の今時の流行りの
した髪に、目がタレ目気味でも男前な感じの骨格をしている。
1年の中では、イケメンと女子の中では評価が高いらしい。
けど、見た目が軽そうだからか、彼女が変わるのが早いとか色々噂も多い。
そんな男、同じ1年の矢上秀(やがみしゅう)が何故かいきなり「付き合って」と言ってきた。
…男に…
お・と・こ・に…!!
精々関わりあるのは、隣のクラスで合同の体育の時と課外授業の時に、たまに話をした事がある程度だ。
つまり、そんなお互いに知るはずがないのに…
付き合ってって…
いやいやいや…
きっと聞き間違いだ。
そうに違いない。
オレは、首を振って頭からその言葉を追いやった。
今度、すれ違った時にでも、何を言ったか確かめたらいいだろう…そう軽く考えた。
「ねぇ、ねぇ、最近小野先輩来てないって先輩から聞いたんだけど、何かあったの?」
「え…?」
クラスの女子に話かけられて、オレは驚いた。
「…知らなかったの?何かここ数日学校に来てないし、学校にも連絡来てないらしくてさ。加賀なら知ってんじゃないかって思ったんだけど…」
と少し残念そうに戻って行った。
ここ数日全く見
かけなくなったと思ったら来てさえいなかったのか。
少し驚いた。
何だよそれ…
オレには関係ない…。
あんなヤツ知るか。
久信と視線が合うとじっとこっち見る。
「気になるのか?」
「気になってねーよ!!」
直ぐに否定してもジッと見てくる久信に視線を反らした。
イライラする。
何でこんなイライラするんだろうか。
「気になるなら行けばいいだろ?」
尊がため息混じりに言うのに、オレは顔をしかめて、勢いよく振り向いた。
「だから、気になってねー!!」
尊と久信は肩をすくめた。
イライラするのは、あの時した顔が頭の中でかすめるからだろうか…。
それとも…