最低で最悪で最愛

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匡也のマンションの部屋の前を目にして、オレは重いため息を吐いた。

来る気なんてなかったのに、尊と久信に【気になるて顔に書いてる】と言い、ズルズルとマンションまで連れて来られた。
大体あんな啖呵切った後にどんな顔をして合わせたらいいのか分からない。オレはまだ怒ってんだぞ!?


「…やっぱ帰ろ…」


帰ろうと体の向きを変えると、目の前に、今見たくない顔があった。


「…俺は幻でも見てるのかな?…確か啖呵切ってったばかりだよね…」


驚いた顔をした匡也だ。
オレは顔を引きつり、嫌なタイミングで帰ってきた匡也を見た。


「…尊と久信に来させられたんだよ…」


オレは、直ぐに視線を外す。
あまり顔を見たくない。


「…そう…ッゴホ…」


匡也が、咳を何度かしてるのに、オレは視線を戻した。
よく見たら顔が赤い。

ん…?

まさかここ数日来なかったのって…


「風邪…?」


最後だけ無意識に心の中の言葉をもらしてしまった。
匡也が、ゲホッゲホッと何度かしてから、ダルそうにオレを見る。


「…滅多に引かないんだけどね。1度引くと長引くから」


…はあ?

なんだそれ!?
風邪!?


…来るんじゃ
なかった。


そう後悔して、おもっきり脱力する。
重いため息が出た。

オレは、何をやってるんだ…


「…帰える」


そう言って足を帰路に向けようとしたら、ギュッと腕を捕まれた。
いつもよりやけに匡也の手が熱い。
いつもなら、オレより冷たいくらいだ。


「…ねえ、何で…」


と匡也が言い切る前に、オレはとっさに匡也の額に手を当てた。


「…!?」

「…あつっ!!何度あんだよ!?」


匡也が驚いて目を瞬いた。


「39度だったかな…」

「39度!?何起きてんだよ!?寝てろよ!」


オレは、高熱なの普通に立ってる匡也に驚いて、頭の中で色々考えた事がぶっ飛んだ。
そんなオレに匡也が意外なのか呆然としてる。


「カギは!?」

「…ああ…これ…」


受け取って玄関のドアを開けると、オレより身長が高い匡也を抱え上げて部屋に入る。


「え…ちょっと…晃人くん!?」

「病人は大人しくしてろ」


珍しく匡也が取り乱してるが、そんな事はどうでもいい。
勝手に上がり、取りあえずベッドに放り投げて布団被せた。
匡也がキョトンとした顔をしている。


「飯は?薬は?」

「…食べてない。薬は病院でもら
って来た。」


「んじゃあ、台所借りるからな」


オレは、さっさと動こうと立ち上がると制服の端を匡也に掴まれた。
足を止めて振り返る。


「何で…?…怒ってないの…?」


その質問に、オレはイラッと苛立ちを覚えて、眉間にしわを寄せた。


「怒ってるよ!めちゃくちゃ怒ってるし、顔も見るつもりなかったんだよ!…いいから寝とけ」


理由になってない事を言ってる。そんな事は、オレにも分かって、自分の矛盾してる行動に苛立ってきた。
怒ってるならあのまま帰っても別によかったのに…

オレは、冷蔵庫の中身を確認しようと開けた。
使ってる意味があるのかと問いたいくらい何もなかった。
あるのは、飲み物くらいと栄養補給物があるくらいだ。


「…お前普段一体何を食ってんの…?」


「…外食とか、買って食べる事が多いかな」


何というか…意外だ。
一人暮らししてるくらいだから、料理もちょっとはできると思ってた。
まぁいいや。と思って米を探す。…が見当たらない。


「米どこ?」

「…ないよ」

「きれてんのか…」


仕方ない買ってくるかとカバンを取る。


「違うよ…元々置いてない」

「は…?」

オレはカバ
ンを落とした。


「米くらい炊けるだろ?」

「…」

「……」


え?


「…レトルトくらいできるよな?」

「…チンしたら飛んだね…」

「…それ湯煎だろ…」


お…オレは、初めてこんな人種を見た。
料理が出来ないとかそんなレベルじゃない。どこの坊っちゃんだよ…。


と言っても、部屋は綺麗だし他の事は困ってそうにない。


「アンタにも苦手な事ってあったんだな…」

「そりゃ…あるよ。」


匡也がクスッと笑った。
オレはため息をついてカバンを持ち直した。


「ちょっと行ってくるから、大人しく寝とけよ」


部屋から出た後、またため息がもれた。


何やってんだろ…オレは…
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