最低で最悪で最愛

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買い出しが終わって帰ってくると、匡也は寝ていた。
起こす必要もないし、そのまま構わず、台所を借りた。

一時間そこらで作り終えて、匡也の様子を見に行くと、まだ寝息をたててぐっすりと寝ていた。

(そいや、寝てるの初めて見た気がする…)


海の時は、基本的に先に爆睡したし、起きるのは匡也の方が早かった。
だから、今マジマジと見た訳で…。
気が抜けてる顔で寝てる匡也を見るのは新鮮だった。


「…寝てたらただのイケメンなのにな〜…」


ボソリと性格の残念さを思いながら呟いた。
とんだ残念さだ。



(ちょっとつついてやろ…って!)


と匡也のほっぺに指先を向けて、オレはハッと我にかえった。

「怒ってたのに何をやってんだ!オレ!?」


自分の頭を抱える。
コイツがやった事は許せない事だ。とんだ迷惑をかけられた。軽蔑にさえ思える。
なのに…

オレは、何でこんな事をしてて…
何で忘れかけてるんだ。


「…ん……晃人くん?」


さっきので起こしたらしく、匡也はボーッとした顔でオレを見た。
オレはビクッとして抱えてた頭を上げ、顔を合わせたくなくて他に視線を移す。


「…あ…起きたんなら帰る。お粥、多めに
作って鍋に入ってるし。後はテキトーに食ってください。んじゃあ」


立ち上がろうとした所で、服が引っ張られガクッと膝が折れた。振り返ると服の端を匡也が掴んでいた。


「な…なに?」


「…ありがとう」


そう弱った声で言われてオレは固まった。
自分の怒りが忘れてしまいそうで帰ろうとしたのに、ぐらついてる心に拍車をかける。
もうほっておこうと思った矢先に、珍しくこんな事を言われてしまったら…


「うー……あぁあ〜!くそっ!!」


自分の頭をガシガシと掻いて、悩んで自分に対してのイライラをぬぐいさる。
その行動に、匡也はどうしたの?と言いそうな顔で驚た。

オレは、キッチンに再度入って器にお粥を盛り付けて、再び匡也の時まで戻ると差し出した。

「はい。ちゃんと食えよ」


「…帰るんじゃなかったの?」

上半身だけベッドから起き上がった。
オレは匡也から視線を外す。


「帰るよ。飯食って薬飲んで寝たの見たら帰る」


ムスッとした顔で言うと、クスッと笑う匡也の声がした。


「猫舌だから、ふーふーして食べさせてくれない?」

「ちょ…調子にのんじゃねーよ!」


オレは、レンゲと一緒にお粥の入った器を
突きつけた。
またクスッと笑うと、受け取って口に運んだ。

「美味しい」

いつもだったら普通に受け取るその言葉が、どこか気恥ずかしく感じてしまった。

「…そりゃあ良かった」



その後、薬を飲んで効いてか、直ぐに眠りついたのを見るとカバンをもって立ち上がった。
チラリと匡也をもう一度視界に入れてから、オレは部屋を出た。


調子が狂う


オレは甘い…。


今更…匡也に甘いって分かった。

ムカつくけど、その事実は変わらなくて…
それが意味する事は、深く考えたくない。

そんで、やっぱりオレが怒ってる事にも変わりない。



まだ一言も何も聞いてないのに許せるかよ…!



だから、大目にみるのは今日だけだ。



オレは、速足で家へと向かった。







わざわざと教室がざわついていた。
それは、オレの方に集中していて、その原因はいつも違う風景だからだ。

矢上秀が目の前に居た。

匡也が風邪で休んでる中、いつの間にか匡也の定位置になりつつあった場所にソイツがいて、しかも1年の間で人気のあるイケメンがいるんだ。
例え、隣のクラス同士であったとしても、周りは何やら興味津々な視線を送ってくる。

「でさ、この前の話…考えてくれた?」


矢上の言葉に、オレは何度か目を瞬いてから、首を傾げて…フッとこの前「聞き間違い?」と思った言葉を思い出した。


「あ、アレか…」


矢上が目を見開いて驚いた。


「え!?…忘れてたわけ?」


「…いや、あん時ちゃんと聞こえなくてさ…」


本当は聞こえたけど、たぶん聞き間違いだ。
そう思って相手の様子をうかがっていると、ポカーンとした矢上は、机を間に向かい合って座っていて、机に頬杖をついてニッと笑みを浮かべた。


「じゃあ、もう一回言うけど。俺と付き合って」


今度こそ聞き間違いのない言葉に、オレはビックリして矢上の視線を合わしたまま固まった。
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