“インコンピタント”のリーダーと“ミューテイション”のナンバー1の俺との一騎打ちだから。

もう他のやつらは戦えない。

そうなるほどの激しい戦いを俺たちと彼らは行ってきたんだ。

ここで決着をつける。

そう思っているのは俺だけじゃないはずだ。

俺のことを、嫌悪と侮蔑と畏怖と色んな気持ちを混ぜ合わせた目で睨みつける彼。

その目を向けられるたびに俺は死にたくなる。

これが俺の最大の過ち。

バケモノと罵り、殺そうとし、憎み、蔑み、嫌い、仲間のことを傷つた彼を俺は……………愛したんだ。

きっと、そのことを知った仲間は俺を裏切り者と謗るだろう。

なぜ彼なのか。
なぜ敵の彼なのか。
なぜ自分を殺そうとする彼なのか。
なぜ決して想いが通じ合わない彼なのか。
なぜ俺を嫌う彼なのか。

俺自身にも分からない。

もう、これは本能なのだ。

愛することは、人として産まれた時点で決して避けられないものなんだ。

不思議な力を持って産まれた俺たちでさえ例外ではないこと。

なのに、どうしてその相手が“インコンピタント”のリーダーなんだ!

何て皮肉な話だ!!


自分の気持ちに気が付いた時、俺は声にならない絶望を味わった。

親や友達、仲間を殺し、傷つけたやつらの親玉を愛するなんて正気の沙汰じゃない!!

でも、好きになっちまったもんはどうしようもない!

好きなんだ!

初めは彼が憎いからずっと頭から離れないのかと思ってた。

でも、違った。

本当に一緒にいられないから、せめて頭の中だけでも一緒にいたかっただけだったんだ。

そんな弱々しい考えを持っていたら俺は唯一の居場所の“ミューテイション”中にも、いられなくなる。

だから必死にその想いを消滅しようとした。

一時は消えたような気がしていた。

でも……でも、でも、でも、でも!!!!

彼の姿を見たとき。

彼の話を聞いたとき。

彼に傷つけられた仲間を手当てしたとき。

彼の仲間を殺したとき。

少しでも彼との繋がりを感じてしまったら、また愛しさが溢れてくる。

完全に消すことなんかできやしない。

…………………でも、その感情ともこれが最後だ。

俺が彼を殺すか。

彼が俺を殺すか。

そのどちらかが今から起こる。

彼を愛している!

でも、同じように辛い境遇の中生きてきた仲間達を裏切ることも俺にはできない。


だから俺は彼を今日…………。





こんな不思議な力があっても好きな人と一緒の時を過ごし、一緒に笑い合い、気持ちを伝えることもできない。

もし俺なんかに《次》があるならば、できれば愛した人と一緒にいられる世界に、一緒に笑い合える存在にして下さい。













「おい、テル!もう講義終わったぞ!?いつまで寝てんだよ」

「アグリー………。夢を、見てた気がしたんだ。悲しくて辛い夢。でも、その夢にお前が出てた気がする」

「はっ!お前の夢に出演させてもらえる何て最高だな!!でも、お前を幸せにできねぇ夢の俺より、今すぐお前を幸せにしてやれる俺を見ろよ」

話をしていて、誰もいなくなった教室。

そこに残された2人の青年。

彼らは心から幸せそうに笑いあっている。

陽の光が柔らかく2人を包み込んでいく中、ゆっくりと2人の顔が近づいていって………。

幸せな2人の恋人の姿がそこにはあった。


1


〜END



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