『掌で...』
「どうせ人間いつかは死ぬんだから」
そう言って親父はニヤリと笑った。
小さな俺は意味を正確には理解してなかったが、何となくあぁ…親父にはもう会えねぇんだな、って思った。
まぁそれだけは当たってたんだけど。
だって親父は死んだから。
俺が産まれる前に今の母親の恋人に殺されたから。
それを母親は知らない。
知ってたら夫を殺した男の下で(たまに上になってたけど)喘げねぇだろ。
できたらもう動物だよな。
そんな会話を親父とした。
親父は笑ってたけど、何考えてたのか俺にはまだ分かんねぇ。
人生経験の差ってやつだ、って餓鬼の頃は思ってた。
でも、もう親父が死んだときと同じ年数を生きた。
親父は十代で俺を孕ましたから今俺も十代。
でも全く分かんねぇ。
人は殺すなよ、って苦笑いしながら親父は言ってたけど今すっげぇ殺してやりたい奴がいる。
親父。親父。親父。親父。
痛ぇよ………痛ぇ。
アイツはだんだんと母親を、あの女を殴るようになった。
そして俺を、俺を!!
嫌だ!
もうアンナコトされるのは嫌だ!
俺が産まれる前に死んだ親父。
今ココから飛び降りたらあんたに会えるか?
気持ち悪い。
ケツから出てくる白濁色のモノが気持ち悪い。
親父、助け………。
男が死んだ。
原因不明の死因で、初めは俺やら母親やらが疑われたがその死に方が人間離れし過ぎていてとっとと疑いが晴れた。
親父。
半透明なあんたにしか会ったことがなかった。
何かフヨフヨしてる姿しか見たことなかった。
諦めた顔しか見せたことなかった。
一歩引いたことしか言ってくれたことなかった。
そんな親父が、親父が、俺のこと、守ってくれ………た。
親父。
一度でイイからあんたに頭撫でてもらいたかったよ………。
ありがとう。
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