Arcifanfano

□閑話2〜昏睡と届かぬ謝罪〜
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笹川京子side


 腫れ上がった痣だらけの腕に負担がいかないよう、そっとツナ君の手を握る。
 私と同じくらいの小さな手は頼りなく、けれどその手はいつでも私達を守ってくれていた。
 白く綺麗な肌をしていたツナ君の以前の腕はもうそこには無い。
 以前よりも更に細くなってしまったその腕は、もう未来でのように私を抱き上げたりは出来ないのだろう。
 傷だらけの腕。これをしてしまったのが、私達なんだ。

 峠は越えたとは言っても、意識が戻らない限り危険な状態なのは変わらず。
 自分の力だけでは生きられないツナ君を生かす為の沢山の管が、ツナ君の体に繋がっていた。
 青白い顔。白く痩せ細った体。呼吸すら、今は酸素マスクによって何とか行われている状態だという。
 そんなツナ君が生きている事を示すのは、部屋の隅にある機械のピッピッという甲高い音だけ。

 ああ。どうして。どうして私は、ツナ君を信じる事が出来なかったのだろう?
 あんなにいつも真っ直ぐで、いつも私達の事を一生懸命守ってくれていたツナ君を、どうして。
 今更考えたって、悩んだって遅い。答えなんて見つからないし、もし答えを見つけたとして、それが何だと言うの?
 過去は変わらない。私がツナ君を信じなかったという事実は変わらないのに。
 それでも、何度も考えてしまう。どうして。どうして。


ク「ボスは、大丈夫」

 浮かんだ涙を唇を噛み締める事で耐えていると、肩に誰かの手の感触を感じると共に声が掛かる。
 振り返って見ると、そこに居たのはツナ君のベッドのそばに座り込んだ私に合わせてしゃがむクロームちゃんだった。
 クロームちゃんは、私を責めなかった。ハルちゃんも。2人とも悲しそうな表情をするだけで、私や花を一度も責めなかった。
 きっとそれは2人の優しさで、厳しさなんだろうと思う。
 責めてくれれば、多少は私の罪悪感や後悔も薄らぐかもしれない。
 責めてくれれば、2人に謝ることで少しは楽になるかもしれない。
 でも、それじゃあ駄目なんだ。
 私が謝らなきゃいけないのはこの2人や他の人達じゃなくて、ツナ君。
 私が傷付けてしまったのはツナ君だから。


ク「大丈夫。ボスは絶対、起きるから…。絶対、目覚めるから…」
京「クローム、ちゃん…」
ク「だから、えっと……京子ちゃんも、ボスを信じて…」

 ゆっくりと、言葉を選びながら告げてくれるクロームちゃんに耐えきれず抱き付く。
 後ろでハルちゃんの泣き声が大きくなったのが分かった。
 ああ、私は本当に馬鹿だ。大馬鹿だ。
 ツナ君を信じられなかった事を後悔していた筈なのに、私はまたツナ君を信じれていなかった。
 いつだって真っ直ぐに、私達を守ってくれていたツナ君。
 私達を危ないことに巻き込まないよう、私達に心配掛けないよう、全力で守ってくれていたのを、私はもう知っている。
 そんなツナ君が、皆に心配かけたまま目覚めないなんてことするわけない。
 私が、私達がそう信じなくちゃいけないのだ。
 いつだって信じて、祈って、そうしてツナ君は笑顔で戻って来てくれていたじゃない。


京「ごめ、ん…ツナ君…!」

 ギュッと、一度強くクロームちゃんに抱き付いた後でそっと振り返る。
 変わらずに酸素マスクをして、様々な機械に繋がれているツナ君。
 青白い顔色に生気は無く、本当に生きているのかと怖くなる。
 けれど、それでも私は。


京「今度こそ、ツナ君を信じる」

 だからお願い。早く目覚めて。
 私はいつまでだって、ツナ君が目覚めるのを待っているから。だから。
 もし貴方が私と会うのを許してくれるなら、その時はきちんと謝罪と感謝をさせて下さい。
 信じる事が出来なくてごめんなさい。生きていてくれてありがとう。と__





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