Arcifanfano

□閑話2〜昏睡と届かぬ謝罪〜
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雲雀恭弥side


 気付いた時には、右手に握ったトンファーで傍の壁を殴っていた。
 どうしてだとか、何でかなんて、自分でも分からない。むしろ僕が聞きたいくらいだ。
 気付いたら殺気を放出していて、気付いたら壁を殴り壊していた。意味や理由なんて考える暇も無く、突発的に。
 何度でも言おう。全て無意識下の行動である。


リ「どうした?雲雀」

 赤ん坊の声に、溜息を吐き出すようにして深呼吸をする。
 そうでもしないと、この胸の中に沈殿する感情そのままに暴れてしまいそうだった。
 どうした、なんて。だからそんなの、僕自身が知りたいよ。


雲「知らない。なんか、ムカついたんだ」

 苛々する。むしゃくしゃする。
 感覚はあるのに、その理由がはっきりしない。何となく曖昧で、靄で覆われているようで気持ち悪い。気味悪い。
 何で。何で。何で?


雲「…何で、赤ん坊は平気なの?」

 ずっと引っかかっていた。その理由が、漸く分かった気がする。
 僕は未だ、彼女達を含めた『綱吉を信じなかった奴ら』を許せない。許す必要があるとすら思っていない。

 だってそうだろう?どうして許す事が出来るというのか。
 彼ら彼女らのしたことは、とても許せる事では無い。
 法律的に見ても、何かしらの罰は与えられて然るべきモノだ。
 それをしないのは、偏に被害者である綱吉が昏睡しているから。
 彼が目覚めてから加害者である者達の処遇を決める事になっているからだった。
 けれどそれは甘い。子供だろうと大人だろうと、自分の行動の責任は取らなくてはならない。
 親の擁護下にある内は自分で責任を取るというのが分からないかもしれないが、その際は自分の責任を親が取らされているのを見て学ぶものだ。
 それら全てを後回しにして、一体どうやって罪悪感を覚えさせるというのか。

 そして。そんな中でも、今綱吉の病室に居る笹川京子と黒川花。
 彼女らに対して、平気な顔で対応している彼。そんな彼の態度に、僕は苛ついていたんだ。


リ「どういう意味だ?」
雲「どうして普通でいられるのさ。宍戸亮だってそうだ。何で?どうして彼女らを許せるの?」

 元々言い出したのは宍戸亮だった。
 そして越前リョーマは憤っていたが、他の人間は反対していなかった。
 つまりそれは、僕や越前リョーマ以外の人間が、彼女らを許したという事になる。綱吉を信じなかった彼女らを。
 どうしてそんな事が出来るのか。特に目の前の赤ん坊は綱吉の家庭教師で、宍戸亮は幼馴染ではなかったのか?
 僕には分からない。憤って、綱吉に近づけさせたくないと言っていた越前リョーマの言葉の方が、余程納得がいくというもの。


雲「僕は許せない。許したくない。だって…」

 だって、もし許してしまったら。
 もし彼女たちの罪を許してしまったら、どうなる?


雲「綱吉への裏切りを、無かった事にしてしまう」

 そして悲しむのは、辛い思いをするのは、結局綱吉だけになってしまうんだ。
 彼はきっと、それでいいと笑うだろう。気付いてくれたのなら、もうそれでいいと。
 全てを包み込むような笑顔で、許してしまうんだ。

 そんなのは絶対に、許さない。





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