Arcifanfano

□閑話2〜昏睡と届かぬ謝罪〜
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黒川花side


 壁から突然伝わって来た衝撃に、思わず凭れていた背中を壁から離す。
 この病室は防音設備でもあるのか音は室内にまで届かず、しかし壁に背を付けていた私にはその衝撃がダイレクトに伝わって来た。
 防音のおかげか、京子やハル、クロームは気が付いていない様子。
 私はそっと扉の近くに移動すると、僅かに扉を開けてその場に座り目を閉じた。
 病室の外の音が、僅かに耳に届く。


雲「…だ。何で?どうして彼女らを許せるの?」
黒「っ!」

 聞こえてきたのは、雲雀先輩の固く抑揚の無い声。雲雀先輩のこんな、感情を押し殺したような声は初めて聞いた。
 雲雀恭弥という人物は、ある意味でとても素直な人だ。
 だからこそ感情をそのまま表現し、こんな押し殺したような声なんて聞いた事が無い。
 勿論それは私が雲雀先輩の事をよく知らないという事も理由の一つではあるのだが。


雲「僕は許せない。許したくない。だって…綱吉への裏切りを、無かった事にしてしまう」

 その言葉に、閉じていた目に力が入ったのが自分でも分かった。
 雲雀先輩の言う事は正しい。正論だ。一遍の間違いも露程の綺麗事も欠片の偽りも無い。
 正しすぎる程に、正論だった。

 私は甘かった。例え沢田の知り合いの人達が許してくれたとしても、ここに来るべきでは無かったんだ。
 クロームとハルは最初から沢田の味方だった。京子は自力で気付けた。
 それなら、私は?私は何をした?
 何もしていないじゃない!沢田を信じなかった、京子の言葉を聞かなかった!
 気付けるチャンスは沢山あったのに。ヒントはそこらに転がっていたのに。
 私はそれら全てに目を逸らして耳を塞いで、のうのうと過ごしていただけだった。

 傍観者を気取って、輪の外から暴言を投げつけて自分は何もせず。
 そんな最低な自分が、許されるべきでは無い。認められるべきでは無いのだ。
 閉じた目の奥から、熱い物が込み上げて瞼を濡らす。涙を流す資格すら、私には無いというのに。
 分かっている。叩かれるべきは、非難されるべきは、敵視されるべきは、私なんだ。
 それでも分からないフリをして、理解しないフリをして此処に居る私は卑怯者ですか?
 それでいい。卑怯者で構わないから、どうか。

 どうか、沢田が目覚めるまでは、お許しください…。





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