ホラーお題 夢

□草木も眠る丑三つ時に
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「オサムちゃ〜ん!」




昼休み、職員室を教室の如くズカズカと入り込む女子生徒1名。



「なんや、桜」


担当しているクラスの一生徒で、名を 桜 という。



「昨日また凄いの見つけまして、この恐怖をオサムちゃんにも味わってもらおう思って」



毎日ではないが、昼休みに職員室に来ては、ネットで見つけたという
怖い話を俺に聞かせる、変わった趣味の持ち主や。



「オサムちゃん、寝室に窓ってある?」

「そら、あるやろ」

「ベッドもしくは布団の傍にある?」

「離れとるな…」

「ええなぁオサムちゃんはっ!私なんかベッドの直ぐ横やで?
昨日は怖くて中々寝られんかったわ」



寝られなかった、というのは事実なんやろう。
少しではあるが顔色が悪く、寝不足によるストレスか
目つきが悪くなっとる。



「桜〜、目つき悪いで?そんな目つき悪い生徒、先生嫌やわ」



笑いを含みながら言った言葉に無言で睨んでくる桜。
何時もだったら顔を真っ赤にして反論してくるというのに。



「…悪かった。で、その話ってなん?」



謝ったからか、話を聞く体勢になったからか
桜は機嫌をよくしたようにニンマリと笑って話し出した。



「昨日、都市伝説を纏めてあるサイトさんで読んだ話なんですけど
夜中に部屋の窓をノックされるんです。
起きた部屋の主は時計を確認して、誰やろうこんな時間に?って思うんです。

で、恐る恐る閉めていたカーテンを開けると
窓の外に血塗れの女の人が立っていて、目が合うと笑うらしいです。

でも、怖いのはここからなんです!

部屋主は女の人を幽霊だと思い、驚いて家を飛び出すんです。

それで、翌朝家に帰ると家の外が騒がしい事に気付くんです。

何があったのかと事情を訊くと…近所で通り魔に女性が襲われるという事件がおきていた。

被害にあった女性は怪我をした体を引き摺るように歩きながら
近くの家へ助けを求めた。

だけど、住人はいなかった様で助けを呼ばれる事なく
彼女はその場で息絶えたそうです。

女性が助けを求めた家というのが…その逃げ出した人の家だったそうなんです」



確かに怖い話や思った。
幽霊だったと言われる方が、ありふれた怖い話で終わらせる事ができただろう。



「ね?怖いと思いませんか?私ならどうしようって考えましたよ。
夜中、窓をノックされる、窓の向こうに血塗れの女性。
幽霊やと思いません?!きっと部屋を飛び出して親の部屋に逃げ込むくらいしかできません!」



力説する桜の頭に手を置いて、ポンポンと叩くように撫でると
拗ねたような顔で俺を見つめてくる。



「オサムちゃん、ちゃんと聞いてた?」

「おお、聞いとったよ…せやけど、なぁ?」



俺の言葉に「何?」と首を傾げる桜。



「いや、人間なのかそうじゃないのか、なんて確認の仕様があらへんやん。
ましてや夜中やで?幽霊や思う確立の方が高いんちゃう?」

「うーん…ですよねぇ」



別に桜の話を信じて真面目に考えているわけやない。
腕を組んで真剣に考え込む桜の反応が面白くて、口にしてみただけの話。



「あ、オサムちゃん!前に読んだ話でこんなのあるんだけど…」



そう言って桜が話し出したのは、同じくネットで見つけたという怖い話にあったもので

ドアをノックされ、「人間なら1回。それ以外なら2回ノックしてください」言うと
大勢でドアだけでなく、壁、部屋全面を叩かれるという話しやった。



「どうですか?これなら区別つく思いますけど…」

「…アホ。窓一枚隔てた向こう側に血塗れの女が立っとるんやろ?
そない冷静に問いかけられるか?
それに、もしできたとして、襲われて大怪我しとる女の人が暢気にノックできるか?
幽霊にしても、ノックするかいな…」



はぁ。と溜息を吐くと桜は、何故か悲しそうな顔をしていた。



「そうかもしれませんけど、やってみる価値はあると思います。
もし本当に襲われた女の人が助けを求めてきてたら…そう思うと
幽霊より怖いです」



そう言うと、桜は職員室から出て行った。


今日の桜はなんだか何時もと様子が変だった。

何をあんなに必死になっているのだろう。
ただの都市伝説やろ。








明日の準備を終えて、鞄の横にコケシを1つ置いた。

桜の様子が今日一日ずっと気になっていた。

心配する事はないとは思うが、もしかしたらあの話を思い出し
今日も中々寝付けずにいるのかもしれない。

ベッドに横になり少し離れた位置にあるカーテンが閉められた窓を見た。

とくに変わった様子はない。鍵もかけた。

…俺まで桜の話に流されとるわ。


苦笑をもらして布団をかけた。







何となく、目が覚めてしまった。
時計を確認すると夜中の3時。

桜の話を思い出し、何となく気味が悪い。そんな感覚に襲われた。

布団を掛け直し、もう一度眠りにつこうとするが目が冴えてしまって眠れそうにない。

仕方なくベッドから出ると冷蔵庫から水を取り出し飲み干した。


ただの都市伝説や言って、桜の事からかってたやん…。

つい窓に目を向けてしまう自分に苦笑した。


まだ起きるには早いしなぁ。


ベッドに戻り、入ろうとすると



コン…コン…。



背を向けている寝室の窓が弱弱しくノックされた。



嘘やろ…?



俺は窓を凝視した。
気にして変に意識したせいで、ノックしたように聞こえただけや。
そう思っても窓から視線を外せない。



コン…コン…。


もう一度聞こえたその音に、意を決して窓のカーテンに手をかけた。

微かに震える手でカーテンを握り、恐る恐るカーテンを引いた。



「…っ!!」


息を呑んだ音が耳に届く。

驚きで見開かれた瞳に映るのは、血塗れの女性。

窓一枚隔てた向こう側に、髪と衣服を乱し、頭から大量に出血している女性が立っていた。

声を発する事も、動く事もできずに、ただただ女性を見つめていた。

やがて青白い顔をゆっくり上げた女性は虚ろな瞳を自分に向けて…笑った。



ゾクリ。背中を走る悪寒にこの場を逃げ出したい衝動に駆られた。

だけど、こんな状況下で思い出される桜の話。


そうや、もしこの人が人間やったら…。


ゆっくりと口を開き、女性に問いかけた。



「…人間、なら1回。それ以外なら…2回、ノックしてや…」



声が震えていた。
問いかける間も、今も、女性と目を合わせたまま。外す事ができなかった。



コンッ…。



細い手が伸び、1回ノックをされた。

その音が 『 助けて 』 と言っているように聞こえた。

そのまま女性は気を失ったのかその場に倒れた。


俺は急いで携帯を取り出し救急車を呼び、警察に連絡をした。


電話の向こうで確かに今を生きている誰かと話をしながら
やっと窓を開けて、外に出る事ができた。

ノックだけで信用できるものじゃない。


女性はかろうじて息をしている、といった感じだ。
靴を履いておらず、素足は傷だらけで、ボロボロに裂かれた衣服には血と泥がついていた。
投げ出された手足には、刺し傷や擦り傷に痣が見える。

相当酷い暴行をうけたのだろう女性の姿に居た堪れなくなった。



直ぐに救急車が到着し、続いてパトカーもきて俺は警察に事情を話すためにパトカーに乗った。



学校に事情を話し、今日は休む事になった。
この事を知っているのは一部の教員だけで、警察の方も話を伏せてくれるという事で
騒ぎになる事はないだろう。



次の日、出勤すると校長に呼ばれ少し話をしたが
それ以外特に変わったことはなかった。


昼休み。何時もの調子で職員室に入ってくる桜に安堵した。



「オサムちゃーん」

「おお、桜か。待っとったで」

「えぇ…何の用ですか?」



俺が笑顔で歓迎してやれば、警戒心丸出しで俺を見る桜に声を出して笑った。



「桜、お前のおかげで助かったわ。おおきに」

「え?私何かしましたっけ?」

「…まぁ、な。桜の話のおかげでな、助かった。ほんまおおきに。
そんな桜には1コケシやろう。おおやろう」



俺はコケシを桜に差し出した。

桜は困惑した顔で俺を見てたが、コケシを受け取り
珍しそうにコケシを眺めた。



「なんやよう分からんけど、コケシ貰ったし今日はいい事ありそう!」

「コケシ貰ったんが今日の一番のええ事やないか」

「えー!それだけですか?…まぁ、いっか」

「それだけてなんや。そう簡単に貰えるもんちゃうで?
ところで、今日は何の用や?」

「あぁ、そうだった。オサムちゃんこんな話知ってる?
またネットで見つけた話なんやけど…」



またか。と思ったけど、桜の話で助かった今回の事。
前より身をいれて聞こうと思った。

そんな俺に、桜は今回体験した、都市伝説を語りだしたんや。



「ちょお待て。桜、その話聞いたで?」



俺は桜の話を中断させた。2日前に話した事をもう忘れたんか?



「そうなん?残念。今回の話、結構怖くないですか?
この恐怖をオサムちゃんと分かち合いたかったのに」



残念そうに呟く桜。



「何言うとんねん。桜から聞いたんやで?忘れたんか?」

「オサムちゃんこそ何言うてんですか。私昨日初めて知った話ですよ?
それなのにどうやってオサムちゃんに話できるんですか」



桜は不思議そうに首を傾げている。
その表情は嘘を言っているようには見えない。



「ハ、ハハ。桜から聞いたと勘違いしとったみたいやな…」

「もう、しっかりしてよ〜オサムちゃん」



笑いながら職員室を出て行く桜を見送る。












やっぱり、そうなんや…。




人間なんか、そうでないのかなんて




見分ける方法は、ないんや…。













草木も眠る丑三つ時に











2011/04/16








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