ホラーお題 夢

□禁じられた遊び
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「…うん」

「何つーか」

「意外…だな」


「…なんやねん、それ」








禁じられた遊び







私達は今、忍足の家に遊びに来ている。

部活が休みで暇だった。ただ、それだけの理由。

どうせならテニス部レギュラー皆で行こうよ!って事になり
マネージャーの私も行く事になったのだ。

まぁ、私もどんな所か気になったし。

途中のコンビニで少し買い物をして、目的地、忍足の家に着いた。

外観は普通で結構綺麗。

エレベーターを2台使い私達は部屋へと案内された。

玄関を入り廊下を歩いてリビングへ。

広いリビングにはシンプルな家具が綺麗に配置され
まるでモデルルームのようだった。



「…うん」

「何つーか」

「意外…だな」


「…なんやねん、それ」



私、宍戸、岳人の感想を聞いて苦笑いする忍足。

滝と樺地君は忍足と一緒に、買ってきたお菓子と飲み物を用意してる。
あ、私も手伝うべきだったのに、あまりにも忍足の家が予想外だったから動けなった。



テーブルを囲むように座る私達。跡部はソファに深く腰掛けてる。
何処でも態度がデカイ奴だと思ったが、それが跡部なので誰も気にしない。



「なぁなぁ、ここで1人で住んでんだろ?」

「そうや、家族は皆大阪やからな」

「へぇ…凄いね」

「俺様の部屋はもっと広いぜ?」

「はいはい」



跡部の言葉を慣れた感じで受け流すテニス部一同。
忍足お勧めの映画のDVDを流しつつ、忍足の家探訪が始まったのは必然だろう。

映画1本観終わった頃、お菓子と飲み物も無くなって、一通り家を見回った事もあり
何かゲームをしよう。と岳人が言い出した。



「ゲーム?」

「そ。…目隠し鬼って知ってるか?」

「何、目隠し鬼って」

「あ、聞いたことあります。最近クラスで話題になってましたよ」

「聞いたことねぇな」

「この人数だから、鬼は2人でいいか。
かくれんぼなんだけど、鬼は目隠しをして隠れてる他の人を探すんだよ」

「だから目隠し鬼…」

「危なくねぇか?」

「下に物置いてなければ大丈夫だろ?」

「面白そうやな」

「よし!侑士もこう言ってるし、やろうぜ!」



鬼は公平にジャンケンで、跡部と忍足になった。
部屋の電気は、雰囲気が出る。という岳人の提案で消される事になった。

鬼役の2人は目隠しの布を手に玄関へ向かい、外に出て1分ほど経ってから
部屋に戻り、捜索開始。

私達隠れる側は、思い思いに隠れる場所を探し
部屋の電気を消して待機、という事になった。



私は忍足の寝室に忍び込んだ。
部屋の中を見ると、ベッドの上にジローが寝ているのが見えた。



「ジローちゃん!ここに居たんだ…寝てるし」



私がベッド横で立ち尽くしジローをどうしようかと見ていたら
寝室のドアが開いて岳人が入ってきた。



「あれ?亜加里もここに隠れんの?ジローもいるのか」

「うん。私が入った時にはもう寝てた」

「ったく、しょうがねぇな」



岳人はこのままだとすぐに見つかるから、とジローをベッドの下に下ろし
ベッドの上にクッションを並べ、その上から布団を掛け
そこに人が寝ているように細工した。



「よし。俺等も隠れようぜ」

「うん」



私達は照明を消して、部屋の隅に座り2人が探しに来るのを待った。





**





日吉は洗面所にいた。
暫くして玄関が開く音がした。
鬼役の2人が入ってきたのだろう。

流石に目隠しをしている為か、慎重に歩いているようだ。

2人はゆっくり歩きながら、玄関から近い部屋に入って行ったようだ。

真っ暗で何も見えないが静かなのでよく音は聞こえる。
耳を澄ませて2人の行動を推測していると


ガチャ


玄関が開く音が聞こえた。



何で玄関が…。確かに2人一緒に部屋に入ってきたはずだが…?



不思議に思う日吉。
足音は何の迷いもなく、リビングに向かって歩いていく。



歩き方に淀みがない…。忍足先輩か?




**





キッチンに隠れている滝と樺地。
2人は廊下とリビングを隔てるドアが開かれる音を聞き、緊張した。
足音はどうやら1つで、跡部か忍足のどちらかだろう。

2人はなるべく音を出さないよう壁に背を付け息を潜めていた。

足音はキッチンに入ってきた。

暗くて相手の姿もキッチン内の様子もよく見えない状況で



シュッ



音が聞こえた。

聞き覚えのあるその音に、滝は困惑したが
何も見えない上に、足音はキッチンを出てリビングの方へ向かってしまった。



あの音…。まさかそんな事…。
でも…あれは、包丁を抜いた時の音だった…。





**





忍足の寝室に隠れている亜加里と岳人。
鬼が来るのを緊張して待っていると、その時がきた。

寝室のドアが開かれた。

姿は見えないが、足音から察するに1人だろう。
ベッドに近づいていく足音。



私は岳人と顔を見合わせ声を出さずに笑った。
ベッドのクッションをトラップだと思い、他の部屋に注意を向けさせる意味で仕掛けた物なのだ。
違う部屋に行ってくれる事を望みながら耳を澄ませた。

足音は止まり、衣擦れの音がする。
ベッドのクッションに気付いただろうか?



緊張しながら様子を伺っていると



ドスッ



鈍い音がした。



ドスッ

ドスッ

ドスッ



何度も、何度も音は鳴った。

考えたくないが、クッションに何かを刺す、或いは何かを叩きつけるような音に聞こえる。



何、この音…。

一体誰が。



音と音を発している人物への恐怖心が湧き上がる。



電気を点けて確かめようか…?
そんな考えが頭を過ぎったが、恐怖で体が動かない。


すると、鈍い音は止み、部屋を出て行く足音が聞こえた。
ドアが閉まり、完全に部屋から出ていったことを確認してから息を吐いた。





**





リビングに隠れていた宍戸と長太郎は
寝室のドアが開かれる音と、寝室から出てきた足音に意識を集中させた。

一度リビングを素通りし、寝室に入った後また戻ってきたという事は
今度は自分達が隠れているここを捜索するという事だろう。

が、足音は2人の予想に反し廊下へと通じるドアの方へ歩いていく。
そして、足音に混じり女の笑い声が微かに聞こえた。

ドアが開く音が聞こえ、閉まったドアの向こうから遠ざかっていく足音が聞こえた。



「笑い声…亜加里、か?」

「でも、まだ隠れてる最中ですよね?見つかっちゃったんでしょうか?」

「さぁな…。でも何か、変な…」



宍戸は言葉を途中で切った。
再びリビングと廊下を隔てるドアが開いたからだ。





**





キッチンにいる滝と樺地は息を呑んだ。

先程出て行った足音。
その直ぐ後にまたドアが開かれ誰かが入ってきた気配。

あの、音も気になる。

自分達以外の誰かが、部屋にいるような…。
そんな錯覚が、恐怖を生んだ。


ゆっくりと、自分達に近づく足音と気配。

すると、樺地が自分の前に立ったのが分かった。



樺地!



滝は樺地の服の裾を引っ張ったが、樺地は動こうとしなかった。

気配はもう直ぐ近くにいる。

ヤバイっ!

そう滝が思った時、声が上がった。



「…誰だ?」





**





目隠しして歩くいうんは大変やな…。



跡部と別れ、洗面所の捜索に行こうと部屋から廊下に出ようとドアに近付くと
廊下から足音が聞こえてきた。



跡部か?



でも足音は玄関へと向かっている。

玄関が開く音がして、足音は聞こえなくなった。



誰や、外に出たんは…。



不思議に思いながら洗面所へと入る。
すると、目隠しをした布越しに照明が点いているのが分かった。



「…忍足先輩」

「日吉か?どないしたんや」

「先輩達、最初に玄関から入る時2人一緒に入ってきましたか?」

「…2人で、やけど?…何があったんや?」



忍足は日吉の声色に、何かがあったのだと感じ
目隠しを取ると日吉に尋ねた。





**





キッチンにいた2人は、近付いてきたのが跡部だと分かると力が抜けていくのを感じた。



「跡部さん」

「樺地か?」

「跡部…何か変な感じがするんだ」

「滝も一緒か。…何かあったのか?」



跡部は目隠しをしていた布を取った。



「跡部が来る前に、誰かがキッチンに入ってきたんだ。
跡部か忍足だろうと思ってたんだけど…俺達を探している様子はなくて
…音が、聞こえたんだ」

「音…?」

「聞き間違いかも、しれないけど…。包丁を抜いた時のような音が」

「俺も、聞きました」

「…。おい、照明を点けろ!中止だ!」





**





「ね、ねぇ岳人…今の音」

「…確かめよう」



岳人は立ち上がり、照明のスイッチを探して点けた。

明るさに目を慣らしてベッドを窺う。

2人は目を疑った。



布団の上からクッションに包丁が突き刺さっていた。



「あ…っ、う」



うまく声がでない。

早く皆に知らせなくちゃいけない、と思うのに。



「…っ、皆!来てくれ!!」



岳人が叫んだ。

聞こえる足音。

開かれるドア。

息を呑む音が聞こえる。

言葉が出ない。



私はハッとして、ベッド横のジローに駆け寄った。

ジローはこの騒ぎに起きることなく、寝ていた。



「早くここから出るぞ!」



跡部の一言で皆は玄関に向かっていく。
ジローは樺地くんが背負ってくれた。



跡部が呼んだ車に乗って、その日は全員跡部の家に泊まることになった。

正直あんなことがあって家に帰って1人で寝るのは怖かった。

忍足は深刻な顔で何かを考えている様子だった。

警察に連絡することを考えたが
まだ頭が混乱していて、もう少し待ってほしい、と忍足が言った。










翌日、皆で登校したが昨日の出来事が頭から離れない。
現場を見ていないジローも、話を聞いてショックを受けたようだった。

もし、あの時ジローをベッドの下に下ろさなかったら…
刺されていたのはクッションではなく、ジローだったかもしれない。



言葉を交わさないまま、重い足取りでそれぞれの教室へと歩いて行く。

私は忍足と同じクラスだ。

並んで廊下を歩いていると1人の女子生徒がこちらを見ていた。

青い顔で、驚愕の表情を浮かべている。


何をそんなに驚いているのだろう…。


私達がその子とすれ違う時、確かに聞こえた。





「どうして…。どうして、生きてるの?」





ああ、貴女だったんだ…?








2011/08/02






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