ホラーお題 夢

□首落ち花
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「…八ッ」



小さく息を漏らした亜加里先輩。

その目は驚きに見開かれていた。

どうしたのかと先輩の目線を追うも
先輩が見つめる窓ガラスには…

亜加里先輩の顔が映っているだけだった。



亜加里先輩には、俺には見えない何かが見えているのだろうか。



たとえそうだとしても、訊く勇気なんてものを持ち合わせていない俺には
さっき先輩が見たモノが何なのか、一生分からないだろう。



…そう思っていた。



押された背中。



あれ…確かここは屋上だったはず。


気持ちの悪い浮遊感と、下に引っ張られるような強い重力と
俺を屋上に呼び出した女の顔が笑ったように歪んで見えた。


急速に近づく地面に何も考えられなくなった。





ふと目が合った。


逆さまの亜加里先輩。


驚きに目を見開いて

何時か見た時と同じ表情だった。



ああ、亜加里先輩が見たのはこれだったのか…?



衝撃音。



苦しい。

霞む視界で見上げた校舎には
窓から身を乗り出して俺を見下ろす亜加里先輩の姿。



「リョーマァァァ!!」



必死に俺の名前を呼ぶ亜加里先輩。

だめだよ…そんなに身を乗り出したら…



パサッ



小さな音に横を見ると

赤い花が落ちていた。


その花が



俺のようで…

亜加里先輩が流した涙のようで…



最期に目にしたのが亜加里先輩でよかった。

そう思った俺は

近づく大勢の足音に、ゆっくりと目を閉じたのだ。









首落ち花









2012/08/01













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