ホラーお題 夢

□死体が語る始まりの夜
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そういえば、メール着てたんだ。

確認すると友達からだった。


メールを読んでいると、女の子に声をかけられた。



「本当にごめんなさい。こんな事になって」


私はメールを閉じて女の子に向く。


「銀さんがゆうてたとおり、誰も悪くあらへん。
もうすぐオサムちゃんが助けに来てくれて出られるよ。

あ…キーホルダー探さな。大事なものなんやろ?」

「それは大丈夫。見つかったから」


彼女は携帯でキーホルダーを照らして私に見せた。

小さなハート型のガラスケースに淡いピンク色の液体が入っていて
その中には小さなハートが2つ入っていて、浮き沈みしている。



「可愛い!」


光を受けて輝いていてとても綺麗だった。



「ありがとう」


嬉しそうに微笑む彼女。
とても大事そうに手の中に収めた。

白石君と銀さんは、少し離れた所で話をしているみたいで
小さく声は聞こえるけど、何を話しているのかは分からなかった。



「あの、亜加里さん?」

「ん?」

「えっと、名前…そう呼ばれてたから」

「ああ、自己紹介してなかったね。私は桜 亜加里。亜加里でええよ」

「ありがとう。私、葉月 奏っていうの」

「奏ちゃんでええかな?」

「うん」


奏ちゃんの顔はよく見えないけど、笑ったというのが雰囲気で分かった。


「亜加里ちゃん。どうしてこんな時に?って思われてしまうかもしれないけど…
怖がらせようと思って言うわけじゃないの。
亜加里ちゃんに聞いてほしいの…」

「…どないしたん、急に」

「とても大事な事。今の私達みたいに、倉庫に閉じ込められた一人の女の子が居たの。
その子は転校生で、クラスの皆は気さくに話しかけてくれたんだけど
中々心を開く事ができずに『暗いやつ』と言って皆離れて行ってしまったの。

だけどある日、1人だった彼女に違うクラスの男の子が話しかけてくれたの。
優しくて明るいその男の子に、彼女は心を開いていった。

だけど、その男の子を好きな女の子に『彼と仲良くしないでくれ』と呼び出されたの。
『折角仲良くなれたのに、そんな事はできない』と断ったら
彼女が大切にしていた物を、女の子は倉庫に隠したの。

それを知った彼女は急いで倉庫に向かって探した。
女の子は倉庫に入ったのを確認すると、倉庫の扉を閉めてしまったの。
…夏が終って、秋に入った頃だったから、万が一長時間閉じ込められても
熱中症になる危険性は低かったと思うし、運動部が倉庫を使うのも分かってたから
女の子は、彼女を少し脅かそうと思っただけだったんだと思うのね。

だけど、計算違いが起こった。その日、急に運動部が休みになったの。

それに、亜加里ちゃんならどう?行き成り、1人暗い倉庫に閉じ込められて…。
叫んでも誰も来てくれない。友達もいないし、両親は仕事で、電話をかけて助けを呼ぶ事もできない。
転校して初めてできた大切な友達に貰った大事なものを無くしてしまった…。

彼女は倉庫内で自ら命を絶った。

弱い人間だと思っても構わない。けれど、彼女にとってとても大切なものだったの。
その時の彼女にとって、男の子と、男の子に貰ったものだけが
彼女の世界の全てだったの…」


私は奏ちゃんの話を黙って聞くことしかできなかった。
話の中の彼女は…奏ちゃんに状況が似ている。
奏ちゃんもまるで、自分の事のように辛そうに話してる。

だけど、彼女は命を絶った…。そう言った。
じゃあ、身内、あるいは友達なのだろうか…。


何も言えないでいると、外から足音が聞こえ
倉庫の扉がノックされた。


「おーい、桜ー。いるんかー?」

「オサムちゃん?!はよ開けて!」


白石君の時同様、軽く開けられた扉の前にはオサムちゃんが立っていた。


「なんや…一緒やったんか?」


白石君と銀さんを見たオサムちゃんがそう言ったのが聞こえた。

私は奏ちゃんに手を差し出した。


「やっと出られる。行こう?」


だけど、奏ちゃんは私の手を取ろうとはしなかった。
座ったまま私を見上げてる。


「亜加里ちゃん。忘れないでね、私が話した事。
…そして、できれば彼女を探してあげてほしい。

辛い思いをさせてしまうかもしれない…。
けど、お願い。亜加里ちゃん」


私は驚いて奏ちゃんを見つめた。


「亜加里?何しとるんや?」


外で白石君が呼んでる。扉の外に視線を向けて返事をした後
奏ちゃんに向き直ると


奏ちゃんは、居なかった…。


1人で倉庫から出てきた私に、白石君と銀さんは不思議そうな顔をした。


私は泣きそうになった。



奏ちゃんが話してくれた彼女は…奏ちゃん自身の事だったんだ。



「…オサムちゃん。葉月 奏っていう女の子、知らん?」

「葉月 奏…?さぁ、知らんな」

「ここの生徒だったと思うんや。転校生で…。後で調べてもらってもええ?」

「ああ、分かった。調べとくわ」





白石君と銀さんと歩いた帰り道で、奏ちゃんから聞いた話と、奏ちゃんに言われた事を話した。

2人は黙ってしまったけれど、明日一緒にオサムちゃんに話を聞きに行くと言ってくれた。




次の日の放課後、オサムちゃんに呼ばれ視聴覚室に連れてこられた。


そこには、早坂先生が居た。

早坂先生は、15年前に四天宝寺に来たという。
初めて担当する事になったクラスに、葉月 奏 が転校してきたそうだ。

先生も大人しい奏ちゃんの事を心配していたらしい。
だけど、違うクラスだけど同級生の男の子と仲良くしているのを見て安心してたらしい。

だけど、暫くして奏ちゃんの両親から奏ちゃんが家に帰っていないと連絡を受けた。

クラスの子に訊いても奏ちゃんの事は分からず
仲良くしていた男の子に訊いても、奏ちゃんの居場所は分からなかった。

捜索願を出して、捜査されたけど…結局奏ちゃんは見つからなかったらしい。

仲の良い友達はいなかったけど、虐めを受けていたわけではなかったので
警察は、学校ではなく家庭の方に問題があったのではないかと言っていたそうだ。

それから15年。奏ちゃんの同級生達は卒業し成人してる。

最初こそ騒ぎになったが、だんだんと忘れられてしまったのだという…。


私はお礼を言って視聴覚室を飛び出した。

やっぱり、奏ちゃんはここに居る!

見つけてもらうまで、待ってるんだ。


私は、昨日閉じ込められ、奏ちゃんと出会った倉庫の前に来ていた。

奏ちゃんはこの中に居る。

見つけてあげなくちゃいけない、私が。



扉に手を掛けようとしたら、肩に手を置かれた。

振り返ると、白石君と銀さんがいた。

2人は何も言わずに頷いて倉庫の扉を開けた。

白石君も銀さんも、私と同じ考えなのだと分かった。

扉は閉まらないように籠を置いた。

3人で散らばって探したけど、奏ちゃんは見つからない。

何処にいるの?奏ちゃん。


私は一番奥に置いてある、もう何年も使われていない跳び箱やマットなどが置かれている
所に向かった。

埃が積もり、少し触れただけで埃が舞うその場所は
扉を全開にしていても光が届かない、暗くて寒い所だった。


慎重に奥へ進むと、跳び箱と壁との間に少しの隙間があり



そこに、彼女…奏ちゃんはいた。




手には、あのキーホルダーが大事そうに収められていた。



奏ちゃんの姿を見て、涙が込み上げて
声を上げて私は泣いた。





暫くして警察が来て、奏ちゃんをやっと
この寒くて暗い倉庫から出してあげる事ができた。



白石君に支えられながら倉庫から出た時、聞こえた奏ちゃんの声。




『 あ り が と う 』




ハッとして顔を上げた。



「よかったな」



銀さんは私の頭を撫でた。
奏ちゃんの声が聞こえたんだと思う。




「 う ん 」









忘れないよ、絶対に。











死体が語る始まりの夜










2011/01/19






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