福本さん作品 夢

□9月26日   快晴 。
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9月26日   快晴 。








午前8時46分。

私は家を出た。



今日は電車ではなく歩いて行くことにした。

雲一つない快晴。とても暖かい。



歩きながら、掌を翳して見た。

掌が大きくて、指が短い。



自分の手が嫌いだった。

だけど

大好きな人が

私の手を好きだと言ってくれた。

そしたら

私も、自分の手が好きになれた。









掌を翳して睨むように見つめる私。

後ろから、聞き慣れた大好きな人の笑い声。


振り返ると、やっぱり 赤木さんがいて

笑っていた。




「…なに笑ってるんですか」

「フフ…なに自分の手睨みつけてんだ?」

「…嫌いなんです。自分の手が」




赤木さんの視線が先を促している。と勝手に解釈した私は
先程コンビニに行って起こった出来事を赤木さんに話した。



「さっきコンビニ行ったんですけど、レジの女の子から
お釣を貰う時、私の手の下に女の子が手を添えまして…。
あ〜、大変だなぁ。そこまでしなくちゃいけないのか。って思った次の瞬間には
女の子の手のあまりの小ささに驚いて…。
やっぱり手が小さい方が可愛いと思うんですよ私は。
それか、指が長いと綺麗ですよね」



私は赤木さんに向けて手を突き出した。



「私はどっちでもない。
掌が大きくて、指が短い。真逆ですよ」



赤木さんは私の突き出した手を見つめると
私の手に、自分の手を合わせた。




「俺から見たら、亜加里の手も十分小さいがなあ。
…俺は好きだぜ、亜加里の手」



そう言って、また笑った。


でも、私はそれどころじゃなくて…。

赤木さんの大好きな手が、自分の掌に合わさっている。
大きいと思っていた私の手も、赤木さんが言うように
赤木さんの手と比べると、小さかった。
そ、それに…っ!
好きだって…手、だけど好きだって言われた…っ!!


顔が熱い。赤くなってるかも…。

赤木さんは手を離すと、その手を私の頭にのせた。

ポン、ポン。と叩くように撫でてくれる。

私は、赤木さんの大きな手で頭を撫でてもらうのが好きだった。











景色を楽しむように、ゆっくり歩いた。

あの人と歩く時は、景色なんて見ている余裕は無かった。

あの人のことばっかり…見てた。



途中花屋さんに寄って、小さい花束を作ってもらった。



もうすぐ、あの人が眠る場所に着く。


赤木さん…。



住宅街の中、小さなお墓。

色々な物がお供えされている。



小さく作ってもらってよかった。
もう、誰かが来たのだろう。
短くなったお線香に、お花も沢山置かれていた。

私はお花を立て掛けるように置いて、お線香を取り出し火をつけた。

香炉に立てて、手を合わせ、目を閉じた。



いいお天気になってよかったです。

あ、そうだ。

赤木さん。今日行った花屋さんの店員さん。

可愛くて、やっぱり私より手が小さかったように思います。

でも、もう気になりません。



赤木さん。



立ち上がって、削られてボコボコとしている赤木さんのお墓を撫でた。


ごめんなさい。

私も、削らせてもらいました。




赤木さん。

私は、あと何回、この日を迎えられるかな…。

あと何回、ここに来られるかな…。


赤木さん。

やっぱり、少し淋しいです。



赤木さんのお墓から手を離した。

それと入れ替わるように、私の頭に手が置かれた。

大きな手。

ポン、ポン。と叩くように撫でられる。


懐かしい感覚に目を瞑り、笑った。



振り返ると、ニコニコと笑いながら私の頭を撫でる天さん。
その後ろには、ひろゆきさん、沢田さん、原田さん、健さんがいた。



「久し振りだな〜亜加里」

「…久し振りって、1週間前に会ったばかりじゃないですか」

「1週間経ってたら久し振りだろ」



ハハハと笑ってお線香の準備をする天さん。



「珍しいですね。皆さん一緒だなんて」

「天とひろゆきから連絡があってな。どうせ行く事に変わりないんやから
それもええかと思ってな」



原田さんも私の頭に手を置いて、優しく撫でてくれた。
普段忙しい原田さんも、この日は1日用事を入れないようにしているそうだ。



「亜加里にも連絡を入れたんだが…1人の方がよかったか?」


花を持っていた沢田さんが申し訳なさそうな顔で言うものだから焦ってしまった。



「えっ、連絡…。何時ですか?電話鳴っていないような…。気付かなかったのかな?」



バッグから携帯を取り出すと、電池切れだった。



「…すみません。電池切れてました」


度々やってしまうミスに気を落して謝ると
沢田さんは苦笑しながら私の頭を撫でた。



「それじゃあ携帯の意味ないから、ちゃんと充電しておけよ?」


優しい沢田さんの言葉に頷くと健さんが笑っているのに気づいた。



「そんな笑わないでくださいよ、健さん」

「亜加里らしい思ってなあ。お前は変わらんな」

「私はずっとこのままですよ。健さんこそ、変わってないじゃないですか?」

「見た目は変わっとらんかもしらんけど、中身は変わったで?」

「いやいや、変わってないって言ったのは中身の方で…わっ」



言い終わる前に健さんに頭をグチャグチャに撫でられた。



「ほんと変わっとらんな…」

「…健さんもね」



2人で笑っていると、ひろゆきさんが呆れたような声を出した。



「何だかんだ言って仲良いよね2人共」



ひろゆきさんは私の乱れた髪を梳くように撫でてくれた。



「良い天気になってよかったな」

「本当に。今日は良い天気ですね」





赤木さん。


赤木さんがいなくなってしまって、少し淋しいです。

だけど、皆さんがいてくれるから

少し、なんだと思います。


赤木さんに頭を撫でてもらうのが好きでした。

赤木さんに撫でてもらう事は、もうできませんが


皆さんの、大きくて温かい手が私の頭を撫でてくれます。





『 よかったじゃねぇか 』




ザァ 。 風が吹いて葉が舞った。


その葉が一枚、私の頭に。


私はその葉をハンカチに挟んでバッグにしまった。


込み上げてきそうになる涙を必死に耐えた。



空耳だって、私の都合の良い想像だって構わない。

私が、そう感じたんだから。



赤木さんが、私の頭を撫でてくれたような…そんな感じがした。








「よしっ!全員揃ったし、飯でも食いに行くか!原田の奢りで!」

「何でおどれらに奢らなあかんねん!」

「組長がケチなこと言うなよ〜」

「モラルの問題や!」

「原田さんからモラルという言葉が聞けるとは驚きですね」

「ひろ…キッツいなあ」



じゃれあう天さんと原田さん。
冷静に傍観するひろゆきさん。
苦笑する健さん。
少し距離をとって楽しそうに眺める沢田さんと私。


そして


もう少し離れた所から、可笑しそうに笑って見ているだろう赤木さん。



この日は

この日だけは



皆一緒にいられる。

そう感じられる。














   9月26日   快晴 。









2011/09/26





赤木さん追悼。

毎年、皆でお墓参りしてたらいいな。
そんな皆の姿を赤木さんは『今年も来たなあ』な感じで見てたらいいな。







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