ホラーお題 夢

□シーツを被った首吊り死体はまるで晴天を呼ぶおまじないのよう
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 『 犬 』  第一印象はそれだった。






同じクラスでそこそこ仲が良い…と思っている宍戸と
同じテニス部で後輩の鳳長太郎君。

彼はよく教室に足をはこんでは、「宍戸さん 宍戸さん」と宍戸に駆け寄っていく。


その姿は大型犬を連想させ、何とも可愛らしかった。

宍戸と話をしていると、自然と彼とも顔見知りになり話をするようになった。

HRが終わって部活が始まるまでの間や
昼休みなど3人で机を囲んで過ごす日が続いた。


何時だったか友達に、宍戸と鳳君と仲良くできて羨ましいと言われた事があった。

何故かテニス部の男子は顔がいい。
2人も例に漏れずカッコイイとは思うが、私から見れば飼い主と犬…は言いすぎだけど
よく話す同じクラスの男子と可愛い後輩というだけだ。



ある日の朝、宍戸がニヤニヤしながら私の方を見ていた。
何か話したそうな顔だった。


「何よ、気持ち悪いな」

「気持ち悪いはねーだろ?!」


文句を言いつつも顔はニヤケっぱなしだ。



「何?何かあったの?」



それを待っていたという顔をして、宍戸は周りに聞こえないように小さく言った。



「長太郎に彼女ができたんだよ」



彼女?

鳳君に?


ああ、そういうことか。



「そりゃあよかったじゃん。おめでとう」


ニコニコと笑顔で返す私に宍戸は訳が分らないという顔をする。



「俺に言ってどーすんだよ」

「彼女って宍戸のことでしょ?」

「んなわけあるか!!」



ここにちゃぶ台があったら絶対引っくり返しているだろう。
そんな勢いで叫ぶ宍戸。



「なんだ、違うの?」


と、聞いてくる亜加里に宍戸は溜息を吐くしかなかった。



「宍戸じゃなかったら誰よ?」

「俺を選択肢から外せ。
同じクラスの子らしいぜ」

「ふーん…どんな子なんだろーね?」

「可愛くて大人しそうな子だったな」



思い出すように言う宍戸に驚く。



「見たことあるの?!」

「おお。何か紹介された」

「お母さんかよ!!」



堪らず亜加里は噴出した。



「いーなー。あたしも見てみたいな〜」

「昼休みん時カフェに行けば見れるんじゃねーか?」

「よし!じゃあお昼見に行こう!」

「俺もか?」

「勿論!」

「はいはい」



溜息を吐いて、少し呆れてるけど
付き合ってくれるから、宍戸っていい奴だなぁって思う。

そういう所、好きだったりもする。






待ちに待ったお昼休み。

私達はカフェにて、それぞれに食べたいものを注文し
お互いに食べたいおかずを交換したりなど
普通に昼食を楽しんでいた。



「長太郎、来ないな」



周りを見渡す宍戸にハッとする。



「あ、そっか。鳳君の彼女見に来たんだよね!忘れてたよ〜」

「忘れるなよ。桜が見たいって言いだしたんだぜ?」

「ごめんごめん。…来ないのかな〜?」



持っていたフォークを置いて出入り口の方に目を向けると
鳳君が歩いて来るのが見えた。

鳳君の隣には、少し背が低い可愛らしい女の子がいた。



「あ!宍戸、あの子?」



宍戸は亜加里が指差す方に目を向けた。



「ああ、あの子だな」

「へぇ〜、可愛いね。…何か立っているだけで画になるって感じ」



2人並んで歩く姿は正に王子様とお姫様。若しくは騎士(ナイト)とお姫様といった感じだった。

会話をするのにも緊張とぎこちなさが感じられて
少し体が触れるだけで2人とも顔を真っ赤にさせている。



「なんか…初々しいねぇ。可愛いなぁ」



亜加里はテーブルに肘を立て頬に手を当てて
うっとりしたように2人を見ていた。



「気は済んだか?」


宍戸は苦笑しながら亜加里を見ていた。


「うん。今日はいいものを見れた!」

「なんだそりゃ」



2人は昼食を再開させた。








鳳君に彼女ができたことを知り
宍戸と見に行ったのがちょうど1ヶ月前。


度々鳳君と彼女が歩いているのを見かけ
廊下で会った時には、嬉しそうに少し照れながら彼女の紹介をしていた鳳君。

彼女ははにかみながら私に挨拶をした。

声も容姿に合う可愛らしいもので
相手に「守ってあげたい」と思わせるタイプの子だった。




友人に誘われて放課後テニス部の練習を見に行った。
そこには大勢の女子生徒たちがコートを囲み声援を送っていた。

普段なら近づくこともしないのだが
大きな大会が近く
どうしても見に行きたいと頼まれ一緒に来たはいいが

肝心のテニスコートが見えない…。

私達は人気が少ない所を選び、何とか隅の方から見える場所を確保した。

友達はテニス部に好きな人がいるらしく
その人のことを目で追っていた。

私は宍戸と鳳君が一緒に練習していたので
心の中で2人に「頑張れー」と言った。

暫く眺めていると私の斜め右前に鳳君の彼女がいることに気づいた。




あぁ、やっぱり応援に来てるんだ。



そんな彼女に健気さを感じたが、違和感も感じていた。

確かに彼女の視線は鳳君の方に向けられているように見えるが



何だろう、この違和感。


宍戸と同じコートにいた鳳君が、誰かに呼ばれて違うコートに入った。

その時だった、何故彼女に違和感を感じていたのか分かった。




彼女は鳳君ではなく、 宍戸を見ていたんだ…。



彼女の視線は宍戸に向けられたまま。



何で?貴女は鳳君の恋人でしょう?


何で、宍戸を見ているの?




その日から、私の彼女を見る目が変わった気がする。

私と宍戸と鳳君と彼女の4人で昼食を食べることになった時

私は敢えて彼女の隣に座り、彼女と向かい合うように鳳君、その隣に宍戸に座ってもらった。

最初は初めて見た時と変わらない、鳳君を見つめて頬を染める可愛らしい彼女だった。


やっぱり、私の勘違いかな。


そう思い始めた時だった


一瞬だけ。注意して見ていないと分からないくらいのほんの少しの変化。


彼女は宍戸を見ている。鳳君を見ている時よりずっと想いが込められた瞳で。



間違いない。彼女は宍戸に恋をしている。



じゃぁ、何で鳳君と…?





彼女に言っても気のせいだ言われるだけだろうし
鳳君も宍戸も気づいていなさそう。

これは、私が関わるべき事ではない。
だけど、もし、本当にそうだとしたら…鳳君が可哀相だ。

2人に余計なことを言わないように
会わない様に特に彼女のことを避けていた。


だけど、1週間後の放課後。

私は日直だったために帰るのが少し遅くなってしまった。
日誌を返すために職員室へ行くために渡り廊下へ向かっていた。

渡り廊下の近くに行くと何か話し声が聞こえてきた。

私は壁に隠れながらそっと渡り廊下の様子を伺った。

そこにいたのは、鳳君の彼女と宍戸だった。


何で2人が?!







夕日が照らす渡り廊下。

彼女が前を歩く宍戸のことを呼び止めたのか
2人の間には少し距離があり、宍戸は彼女の方に振り返った体勢になっている。



「あの…宍戸先輩」



彼女の顔が赤いけど、夕日に照らされているだけが原因ではないだろう。



「どうした?」



宍戸は何も分かっていないのだろう。
彼女があんなにも苦しそうに胸に手を当てて
切なく自分を見ているというのに。



「私、私、宍戸先輩が…」




私はここにいていいのだろうか。

2人に悪い気がして、私は引き返そうと体を前に出した時
見えてしまった。



渡り廊下の先、私と同じように行き場を失った人影を。



私は驚いて立ち止まってしまった。




「好きです。宍戸先輩」




遅かった。私は急いで体勢を整えて2人に見つからないようにまた隠れる。



宍戸は暫く放心状態で、暫く間をおいて驚いた声を上げた。

鳳君のことを思う宍戸にいくら鳳君のことを言われても
彼女は宍戸が好きだと言うばかりで。

宍戸は無理だと断って、走って行ってしまった。
彼女はその場に座り込む。


私は回り道をして職員室へ急いだ。

早く学校から出たかった。

今は誰にも会いたくなかった。

会いたくなかった…のに。



「あ、桜先輩!」


昇降口で鳳君に会ってしまった。



「鳳君…」

「宍戸さん見ませんでしたか?忘れ物を取りに行ったきり
戻ってこなくて」



鳳君は困ったように笑った。



「私は、見てないよ」

「そうですか。何処行っちゃったんだろう宍戸さん。
あ、そういえば今日は帰るの遅いんですね?」

「うん、日直で遅くなっちゃって…」

「それは大変でしたね。気をつけて帰ってくださいね」

「うん、ありがとう鳳君。また明日ね」

「はい、また明日」



鳳君は笑って手を振った。

これからあの3人はどうなってしまうんだろう。









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