ホラーお題 夢

□受話器の向こうはあなたの後ろ
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「赤也…遅いな」





自室にて、携帯を眺めて呟いた。

今日は恋人である 切原 赤也 が神奈川から私の住む
東京に遊びに来てくれることになっていた。

青春学園男子テニス部のマネージャーをしている亜加里は
テニスの試合で切原と出会った。

彼のテニスのプレイスタイルに問題があると思いつつ
普段の彼は、陽気で優しい所もあって
一緒にいて楽しかった。



何時もは電話やメールのやりとりしかできなかったが
お互いに部活が休みなために
切原が亜加里の家に行きたいと言い出した。

バスを乗り過ごした事がある彼が1人でこちらに来れるか
心配で、ずっとこうして携帯を見つめていた。



暫くすると着信を知らせる音が鳴り響いた。
急いで携帯を開き通話ボタンを押す。




「もしもし、赤也?」

「もしもし、亜加里?今駅着いた」



その言葉にホッとする。



「うん。道覚えてる?」

「大丈夫だって!じゃぁまたな」





そう言って電話は切れた。

私は1階に下りてお茶の準備をした。


するとポケットに入れていた携帯が着信を告げる。


ディスプレイには赤也の文字。


「もしもし?どうしたの」

「亜加里、今コンビニの前に来た」




そこで電話は切れた。




「何、いったい?」



グラスとお菓子をトレイに載せてすぐに持っていけるようにして
リビングに向かうとまた着信音が鳴った。











携帯を開くとまた赤也からだった。



「もしもし、今度はどうしたの?」

「亜加里、今マンションの前に来た」



それだけを言うとまた電話は切られた。



亜加里の家は一軒家だ。
家の近くには大きなマンションがあり、その先にはコンビニがある。

道を案内するのにどちらも目印に使ったものだ。
だけど、わざわざ報告してこなくてもいいのに…。



リビングのソファに座るとまた着信が。

勿論、赤也からだ。



「もしもし?今度は何処にいるの?」

「亜加里、今T字路のミラーの前に来た」



亜加里が言葉を掛ける前に電話は切れてしまった。



T字路。2階にある自室からなら、辛うじて見える。

私は急いで階段を駆け上がり、自室のレースのカーテンを開けて外を見た。


T字路は見えたが赤也の姿は確認できなかった。



亜加里は外を眺めたまま携帯を握り締めた。



何度も何度も、電話してきて…
私がちゃんとここまで来れるか心配してたからかな…?



少し考えて、亜加里は一昨日観た映画を思い出した。

何年か前に上映された、子供を対象に作られたと思われる
『学校の怪談』という映画が一昨日テレビで放送されていた。

それを赤也も観ていたらしく、電話で話したのを覚えている。

その、学校の怪談で出てきた、幽霊…だろうか。
その中に『メリーさん』という自分の居場所を電話で相手に伝え
だんだんと距離が近づいている事に恐怖させ
最終的に相手の後ろに現れ危害を加えるというのがあった。


もしかして、それを真似てる…とか?



確かに、そういった類の話は苦手で
赤也にからかわれたりしたことはあるけど

でも、流石に恋人からの電話で怖がることはないだろう…。



たぶん、ちゃんと間違わずに此処まで来ている
という事を言いたいだけだろう。

そう結論を出したその時、携帯が鳴った。



「もしもし、赤也?」

「亜加里、今亜加里の家の前まで来た」




そして電話は切れた。








おかしいな…。

私、ずっと外見てたのに赤也が歩いてきてるのに気付かなかった。
考え事してたからかな?




チャイムの音は聞こえない。
玄関前で待っているであろう赤也を迎えるために

1階へ下りる為に部屋のドアノブに手をかけたその時




携帯が鳴った。




ディスプレイには赤也の文字が。





「赤也、ごめん。すぐ開けるから待ってて」

「亜加里…」





今回は様子が変だ。


確かに赤也の声なのに、赤也じゃないように聞こえる。

赤也の声と一緒に
不愉快に響く高い声が混じっているように聞こえる。



その声は確かに携帯を通して私の耳に届いているはずなのに
携帯からではなく

私の真後ろから聞こえているような

そんな錯覚が私を襲う。




「今、亜加里の後ろにいるんだ」






ゾクッ






背中に悪寒が走り
体が動かない。

後ろに気配を感じる。誰かが、本当に私の後ろにいるみたいに…。


息遣いまで聞こえてきそうだった。

声を出すことも、部屋を出ることも

後ろを振り返ることもできない。



どれ程の時間、そうしていただろうか

携帯が着信を告げた。


私は発信者の名前も確かめずに通話ボタンを押した。



「もしもしっ!」

「っ!どうしたんだよ、亜加里?そんな切羽詰ったような声出して」




赤也からの電話だった。

何時もの赤也の声で、携帯から聞こえてくる声には
周りの音や声が混じっていて聞き取りにくい。



「あ、赤也…だよね?」

「はぁ?何言ってんだよ、大丈夫か?」


赤也の声には、呆れと疑問が含まれていた。



「な、何でもない…赤也、今…」



亜加里は今だその場を動くことができず
恐る恐る、赤也に居場所を聞いた。



「ごめん!亜加里。寝坊しちまって…
今、駅着いたところなんだ。
急いで向かうから、またな!」



そう言って、電話は切れてしまった。



赤也の声に混じって聞こえた周りの音は
駅のホームから電話をかけていたからだろう…。


じゃぁ、


今まで私に電話をかけてきていたのは…?



私はゆっくりと後ろを振り返った。


そこには開け放した窓と自分の見慣れた部屋。

誰もいない。

何もない。



私はその場に座り込んだ。



携帯を握り、着信履歴を開いた。

そこには、先程掛かってきた時刻と赤也の文字。


その下を見ると





非通知着信の文字が並んでいた。













受話器の向こうはあなたの後ろ

















2010/07/30








 

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