ホラーお題 夢

□不幸の手紙
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不幸の手紙








朝、靴箱を開けたら手紙が一通入っていた。

真っ白いシンプルな封筒。

手にとって見てみるけど

名前など何も書いていない。

糊で綺麗に封がしてある。







「ジャッカル!おはよう、何してんの?」




靴箱の前で、封筒を手にとって立ち尽くしていた俺に
クラスメイトで隣の席の亜加里が声をかけた。





「ああ、これが靴箱に入ってた」



俺は持っていた封筒を亜加里に見せる。




「キャー!ラブレター?!」




封筒を見た途端、目を輝かせ
興味津々と封筒を眺めている。




「開けないの?」



俺が封筒を見ながら開けるのを躊躇していると



「今日、呼ばれてるかもしれないよ?
無視したら可哀相だよ!」



亜加里の言葉に頷き
俺は封を開けることにした。






『 今日の放課後、屋上で待っています 』




綺麗な字でそれだけが書かれた
真っ白い紙が入っていた。






「今日の放課後屋上だって!なんかドキドキしてきたー!」

「何でお前がドキドキするんだよ」




紙を封筒に戻し、鞄に入れる。


教室に向かう途中投げかけられた


「どんな子なんだろうね?心当たりないの?」


亜加里の質問は聞き流した。








亜加里は今日1日ずっとソワソワして落ち着かなかった。
その顔は好奇心で溢れていて
けれど、冷やかすものではなかった。







放課後。




俺は屋上に向かった。

教室を出る時、亜加里は俺に

「頑張って!」

と笑顔で言った。





屋上の扉を開ける。

人の姿は無い。




時計を見る。

ここで待てる時間はあと15分。


悪戯であってほしい。

誰も来ないでほしい。



誰が来たとしても、俺の答えは決まっているのだ。


俺を笑顔で送り出した、隣の席のクラスメイト。

俺は亜加里が好きなんだ。

向こうは俺の気持ちに気付いてないし
今日もそうだが、俺に恋愛感情なんて少しも抱いていない。

それを改めて実感させられた白い封筒は、俺にとってはある意味不幸の手紙のようだった。




時間ギリギリまで待ったが、結局誰も来なかった。



悪戯か。


明日の朝はこれを話題に亜加里と笑うのだろうな。
その事を考えると、誰も来なくて良かった、と笑みがこぼれてきた。







次の日。




昇降口へ向かう亜加里を見かけて声をかけた。




「亜加里、おはよう」

「あ、ジャッカル!おはよう。昨日はどうだった?」



少しニヤニヤと笑っている亜加里に
昨日の事を話した。


笑って「残念だったね〜」とか言われると思っていたのに

亜加里は俺が想像した反応とは逆の感情を露にした。



「何それ悪戯じゃん!信じらんない!」



予想外の事に少し戸惑うけど、俺の為に怒っているのだと思うと
少し嬉しくもなる。


亜加里はまた入ってるかもしれない、と俺の靴箱を開けた。


まさか2日連続で入ってるわけないだろうと思っていた俺は
本日2度目の予想外の出来事に目を見開いた。


俺の靴箱の中には、昨日と同じように
シンプルな封筒が入っていた。


亜加里は何も言わずに封を開け中の手紙を読み出す。




『 昨日はごめんなさい。 行くのが遅くなってしまって
 入れ違いになってしまったようです。

 今日の昼休み、屋上で待っています。 』





「行くの?」



亜加里の問い掛けに、俺は答えられなかった。

正直、行きたくなかった。

また悪戯かもしれないし、それで昼休みが潰れるのは困る。




「今日は私も一緒に行くよ」



考えていた俺に、亜加里は決定事項と言いたげに告げた。






昼休み。



何故か俺は想いを寄せる子の付き添いの元
昼休み、屋上に来ていた。



亜加里は扉の前の階段の所で待っていると言ったので
俺は昨日と同じように、扉を開けて屋上に出た。



屋上には何人か昼食を食べている生徒がいるけど
俺を呼び出したと思われる人物の姿は無かった。

この昼食を食べている生徒の中に
俺に手紙を書いた奴がいて、ボーっと突っ立ている俺を見て
内心爆笑しているのではないか?と思っていると

屋上の扉が開かれて、亜加里が俺を呼んだ。



屋上から出て亜加里と向かい合う。




「今日も、いなかった?」

「ああ。もう悪戯だろう」

「ジャッカル、犯人の心当たりないの?
このまま黙ってるなんてムカつかない?」

「でもなぁ。心当たりって言われても…ないしな。
明日、手紙が入ってたとしても相手にしなければ
そのうち無くなるだろ?」

「もう。ジャッカルは甘いんだから」









次の日。



俺の靴箱にはまた白い封筒が入っていた。




『 本当にごめんなさい。 悪戯ではないんです。
 今から屋上に来てください。 待ってます。 』




はぁ…。



俺が溜息を吐いた時

後ろから、広げていた手紙を覗き込むようにして読む
亜加里がいる事に気がついた。




「っ!…ビックリさせるなよ」

「…もう、行かないでしょ?」



真剣な顔で問う亜加里に俺は頷いた。




手紙の事が気になったけど
また、どうせ悪戯だ。






次の日。



俺の靴箱の前で、亜加里が立っていた。




「お前なぁ、勝手に人の靴箱を」

「ジャッカル、これ…」



俺の言葉を遮って、亜加里は白い手紙を俺の前に広げた。




『 どうして来てくれなかったんですか?
 …ずっと、待ってたのに。

 今日も、屋上で待っています。 』





また、悪戯だろう。

だけど、少し気味が悪い。

俺が屋上に行くかどうかを確認している奴がいるって事だ。

誰かが、今も何処かで俺を見ているのだろうか…。

俺が、屋上に行くかどうかを。





「ねぇ、気持ち悪くない?」



眉間に皺を寄せて言う亜加里。



「…そうだな。でも、差出人が誰なのかも分からないんだし
気にしない事が1番だろ」

「…うん」



亜加里にはそう言ったけど、気になって仕方なかった。







次の日。


空は黒い雲に覆われて、朝から雨が降っていた。


昇降口で、傘が溢れ返っている傘立てに何とか居場所を見つけた
傘と別れを告げて靴箱へと急ぐ。


今日も、入っているんだろうか…。


最近俺の靴箱の前に、亜加里が立っているのが
当たり前になりつつある。

今日も亜加里は俺の靴箱の前に立っていた。



「亜加里…」

「ジャッカル…」




俯いていた亜加里が顔を上げる。

その顔色は悪い。



「どうしたんだ?顔色悪いぞ…」



亜加里は何も言わずに白い封筒を俺に渡した。



ああ、また入っていたのか。





『 貴方が来てくれるまで、ずっと屋上で待っています 』





俺は、手紙と文字に寒気がした。

手紙を近くにあったゴミ箱に捨て、亜加里の腕を掴んで教室に急いだ。


席に着いてからもお互い無言で
今日の空のように、どんよりとした空気が漂っていた。





週末になり、靴箱を見なくて済む事にホっとした。





月曜日の朝。




靴箱の前にはやっぱり亜加里が立っていた。




「亜加里、もう流石に入ってないだろ?」




計5通も手紙を出して、俺が相手にしなくなったと分かれば
誰だかは知らないが、悪戯も止めるだろう。

そう思っていた。



だけど


亜加里は何も言わずに、俺に差し出してきた。





あの白い封筒を…。





亜加里が開けたのだろう、封は開いていて

中の手紙を読む。





『 ずっと ずっと 待っていました 』






こんなの、誰かの悪戯だ。

そう思うのに、湧き上がる気味の悪さと、背中を這う様に伝わる冷たさ。




「ジャッカル…行ってみよう?」



亜加里の言葉に頷いて

2人で屋上へと向かった。


もうすぐHRが始まる。

屋上には誰もいない。



亜加里がフェンスに近づいて行き、しゃがんだ。


何かあったのかと近づくと

亜加里の足元に、小さなクマのぬいぐるみが座る姿勢で置かれていた。








俺と亜加里が、他校の女子生徒が1週間前に失踪し
女子生徒が通う学校の屋上にいるところを発見されたという
ニュースを知るのは、3日後の事だ。


その女子生徒は1週間ずっと屋上にいて
酷く衰弱していたそうだ。


何故、屋上にいたのか。

理由を訊かれた女子生徒が言った言葉は




『 来てくれるのを、ずっと待ってた… 』







女子生徒が通う学校、入院している病院

氏名…。


立海から女子生徒が通う学校が近かった為か

その学校に知り合いがいる生徒が色々聞いた話を校内に流しているからか

その女子生徒の情報を耳にする事ができたが




俺には、彼女に会って

あの白い封筒の手紙の事を訊く勇気なんてなかった。





何で俺が、女子生徒に会って手紙の事を訊こうだなんて思ったのか…。


学校も違うし、名前にも心当たりは無かった。


確認したかったんだ。


彼女が待っていた人が、俺じゃないって事を…。




部活を終えて、家に帰る。


玄関の前には、屋上で見たクマのぬいぐるみが
俺の帰りを待つように、座ってこちらを見ている。







悪戯…だよな。










2010/10/20








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