ホラーお題 夢

□三人で撮った写真
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「おはよー!」






部室のドアを思いっきり開けて、大きな声で朝の挨拶をする。






「おはようさん。今日は朝から元気やね〜」






ニコニコと私に返してくれたのは小春ちゃん1人。






「小春ちゃん1人?皆はまだ来てへんの?」

「蔵リンは職員室行っとるで」

「そうなんや」







ま、いっか。

朝練始まったら時間ないし、小春ちゃんと先に見ちゃお!




私は自分の鞄をゴソゴソと漁り
小さなアルバムを取り出すと、それを小春ちゃんに渡した。






「これ、この間皆で撮った写真。現像できたから持ってきた!」

「どれどれ?」






小春ちゃんと一緒にこの前部活中に撮った皆の写真を眺めた。



ちなみに写真を撮ったのは私だ。



上手く撮れてるか心配だったけど、酷くは無い…と思う。







「結構綺麗に撮れとるや〜ん。亜加里ちゃん、才能あるんやない?」

「え〜。将来は写真家?」






小春ちゃんのお世辞に乗った私は冗談で言ったのに





「お世辞じゃなくて、ほんまに綺麗に撮れとるで?」



「あ、ありがとう…」








小春ちゃんの言葉に照れながらお礼を言う私を小春ちゃんはニコニコ笑いながら見ている。






「あ!コレ、この写真!偶然なんだけど面白く撮れてるやろ?」

「ユウくん?…プッ!」







よしっ!小春ちゃんが噴出した。
これは中々の手応え!






私が小春ちゃんに見せた写真は




試合形式の練習をしている時
順番待ちをしている一氏君を撮った写真。




テニスコートを眺めていた一氏君を後ろから呼んで
振り返ったところを撮った、自然体の一氏君の顔が写っている。





一氏君には「不意打ちで撮んな!」と怒られたけど
私的には気に入っている写真だ。








だけど、その一氏君の後ろに問題があった。








一氏君が見ていたのは、忍足君と財前君の試合。

忍足君が例の浪速のスピードを披露していたのだろう。







一氏君の後ろに忍足君の残像が写っていて心霊写真のようになっていた。









「ええタイミングで撮ったやん。本物っぽく見えるわ〜」

「そうやろ?」







私と小春ちゃんが噴出した時、部室のドアが開いた。



白石君が戻ってきたのかな?と思ったら、部室に入ってきたのは意外にも千歳君だった。







「千歳君おはようさん。珍しいね」

「ほんまやわ。どないしたん?」







私達の言葉に千歳君は苦笑して首を傾げる。







「いくら普段部活に顔出さんからって、酷い言われようばい」

「ごめんごめん。本当に珍しいなって思って。
あ、コレこの間撮った写真。千歳君の写真もいっぱいあるで!」







ペラペラとページを捲る千歳君。







「ばってん、何時の間にこげん撮ったと?」

「千歳君、ボーっとしてる時多かったから撮りやすかったわ」

「ボーっとって、考え事ばしとると」

「はいはい」









その後は3人で写真を見て、焼き増しの注文を頂いてると

千歳君が急にアルバムを手に取り





怪訝な顔で1枚の写真を眺めた。







「どうしたん?」






小春ちゃんが尋ねると、千歳君は少し考えるようにしてアルバムを机の上に置いた。




千歳君が見ていた写真は、私と千歳君の2ショット。



写真を撮ってくれたのは、小春ちゃん。







「この写真が、どうかしたん?」






小春ちゃんと隅々まで写真を見てみるけど、変わった所は見られない。




2人で首を傾げて写真を見ていると

私と小春ちゃんの間から腕を伸ばし、写真に指を差して







「ここ…見るばい」







千歳君が指差したのは、私達の後ろに写る校舎。









「…っ?!」

「…やっ!」








持っていたアルバムを落としてしまった。




私達に重い沈黙が流れる。








何、あれ?




千歳君が指差した校舎の壁に







首を吊った女の子が写っていた。







首に縄を巻いて屋上から飛び降りたかのように。







はっきりと写るその姿に


どうして千歳君が言うまで気付かなかったのだろうと疑問が出てくる。









誰も何も言わなかった。






どれくらいの時間が経っただろう。



体感では30分くらいに感じるけど
きっと5分くらいだろう。





外が騒がしい。




テニス部の皆が来たのか?

それにしては、様子が変だ。





慌てている様子の声だ。






私は立ち上がって部室の外へ出た。


私の後に、小春ちゃんと千歳君も出て来た。






校舎の方が騒がしい。






慌てて校舎を見上げて、これ以上無いほどに
驚きで目を見開いた。









さっき見た写真。


それが現実のものとなって私の目に入った。







首を吊った女子生徒。





首に縄を巻いて屋上から飛び降りたかのように





校舎の2階と3階の間で




風に揺られて制服のスカートがなびいている。










屋上には先生達の姿。

校舎の下から見上げる生徒達。








私は足に力が入らなくなった。







「亜加里!」







崩れそうになった私を後ろから抱きしめる形で支えてくれたのは千歳君。






私は何も言えずに、千歳君の腕を握った。

千歳君は力強く抱きしめてくれる。


隣に立つ小春ちゃんも、信じられないという顔で校舎を見上げてる。














その日から、学校は1週間休校になった。







私達はお寺に来ている。







あの写真を持って。









他のテニス部の皆には、この事を話していない。

他の写真も調べてみたけど

写っているのはこの写真1枚だけだった。









原因を追究したいわけじゃない。

御祓いだって、どうなのか分からない。

この写真を持っていたくなくて

だけど、自分達じゃどうする事もできないから

お寺に事情を説明して、預かってもらう事にした。










その後、花を買って学校に忍び込み屋上に向かった。

端に花を供えて手を合わせる。








首を吊った女子生徒と私達は面識は無かった。












だけど









ああ、どうしよう…。













飛び降りたいという衝動を、抑えるのに必死な私は






小春ちゃんと千歳君も






私と同じように








遥か下の、固い地面を眺めている事に気付かなかった。













三人で撮った写真













2010/12/14









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