ホラーお題 夢

□山小屋のゲーム
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「暇や…」

「……」

「なぁ〜亜加里。暇や」

「……」

「亜加里ー!」

「あっ!なにすんねん!」







私は読んでいた漫画を取り上げられて抗議した。

私の漫画を取り上げ、「やっとコッチ見た!」と言って笑っているのは
遠山 金太郎。普段は可愛くてちょっとした癒しなのだが
じっとしている事ができないので、こういう時は少し面倒だ。




「暇ゆったってしゃあないやろ?まだ止まへんのやから」

「わかっとるけど暇や。なぁ、何かないん?」



何か、と言われても困る。


テニス部部室で足止めをくらっているのは

私、金ちゃん、小石川君、財前君の4人。



小石川君は部誌書いてるし、財前君は携帯いじってるし。


何でこんな事になったのか…。

遡る事30分前。

私はマネージャー業を終えて、更衣室で着替えを済ませ部室に戻った。

金ちゃんと一緒に帰る約束をしていたからだ。

部室には、小石川君と財前君の姿しかなく
金ちゃんは?と尋ねると、コートにいると返事が返ってきた。


金ちゃんが部活終了後も夢中になってテニスをしている事はよくある事。
まだ時間もあるし、少し待つ事にした。

ちなみに小石川君と財前君は何をしているのかと訊くと

小石川君は、白石君が用事で早々と帰ったので部誌書き
財前君は、教室に忘れ物を取りに行ったスピードスター待ち、と言っていた。



財前君が忍足君のことを待つということに驚きながら
一緒に帰るんだ…と色々妄想を膨らませていると
金ちゃんが元気よく部室に入ってきた。



「金ちゃん、終った?」

「亜加里、ごめんな!すぐ着替えるから待っとって!」

「ええよ、そんな急がんでも」

「でもたこ焼きはよ食べたい」

「たこ焼きかい!!」





たこ焼き食べに行くんだろうな〜。

これからの予定を頭の中で書き出していると
急に雨が降り出した。




「え?雨?」

「雨降るなんてゆうとったか?」




私と小石川君の疑問に答えたのは財前君。




「夕方、にわか雨あり…すぐ止むそうっすわ」




携帯の画面を見ながらだったので
天気予報を見ているのだとわかった。


朝の天気予報ではそんな事言ってなかったし
たとえ傘があったとしても、すぐに止むのなら待つのが得策。



私達4人は雨が止むまで部室で待つ事になった。
校舎に居る忍足君も、きっと雨が止むのを待っているだろう。







「暇やぁーー!」




雨が降り出して30分。
雨はまだ止まない。


小石川君も部誌を書き終えたようで外の様子を見ている。

私も金ちゃんに漫画を取られてしまったので
叫んでいる金ちゃんをどうしようかと考える。




「遠山、そない暇なら ゲーム でもするか?」

「ゲーム?なになに??」








『 山小屋のゲーム 』










「山小屋のゲーム?」

「せや。けどこのゲームをするには、副部長と亜加里先輩も参加してもらわんとできないんや」

「亜加里、健ちゃん…」





私は小石川君を見た。
そしたら、小石川君も私のことを見ていて
しゃあない。そんな風に笑ったので



「ええよ、私達もやるわ」



と返事をした。





「よっしゃあ!おおきに!亜加里、健ちゃん!」

「ええって。財前、山小屋のゲームってなんなん?」

「簡単っすわ。1人ずつ部屋の四隅に立って、順番を決めて、自分の次の人の所まで歩いて行ってその人に触れる。
触れたら元の場所に戻らず、その場に立つ。
触れられた人は自分の次の人に触れる。それだけです」

「そんだけ?それが何で山小屋のゲームなん?」



遠山の言葉に、「俺もよう知らんけど」と財前は続ける。



「名前が山小屋のゲームやし。雪山とかで遭難した時
山小屋で寝ないように、単純やけど動きのあるこれが
ゲームとして広まったんちゃう?」

「ふーん。何か本当っぽく聞こえるな」



亜加里の納得した言葉で、とりあえずやってみようという事になった。




ドア側隅に財前、小石川。奥側隅に亜加里、遠山が立つ事になった。


遠山と亜加里が自分の立つ場所に移動する中
小石川はハッとしたように財前に歩み寄った。



「なぁ財前、このゲーム5人やないとできないんちゃう?」

「そうっすね」

「そうっすね、てどないすんねん」




財前は小石川を連れて壁際に移動した。




「これは4人でやるゲームなんですわ。
確かに副部長がゆうた通り、4人では1人足りなくて、最後の人が触れる人が居ない。
やから、回る事は不可能。せやけど…


まれに、回る事ができるそうっすわ」




「…どういうことなん」




意味が分からないという顔の小石川に



「存在しないはずの、もう1人が来るかもしれんって事っすわ。
亜加里先輩と遠山は気付いとらんみたいやし、このまま始めますよ」



ニヤリと笑って自分が立つ隅へと歩いていく財前。

残された小石川は、財前がなぜこのゲームを提案したかを理解した。

渋々隅に立った小石川を確認して、財前は部室の照明を落とした。




「わ、何で電気消すん?」

「この方が雰囲気出ますやん。ほな始めます」



順番は 1 財前 2 小石川 3 亜加里 4 遠山 の順。




外は雨。空は雲に覆われて、時刻は夕方。
照明を落とされた部室内は、夜のように暗い。

四隅に立つ相手を確認する事はできない。

単純に、部屋を回るだけのゲームなのに
部屋の雰囲気で、これから何かが起こるような

そんな気配さえ漂っているように感じる。





財前君が歩く音が聞こえる。

足音が聞こえなくなり、暫くしてまた足音が聞こえた。

小石川君に代わったんだろう。

少しして小石川君の手が肩に触れた。

私は壁に手を置いて、伝いながら金ちゃんの元まで歩いた。

うっすら見える金ちゃんの赤い髪に安心して


「次は金ちゃんの番ね」
と小さく言って、金ちゃんの肩に触れた。

「よっしゃ」
金ちゃんも小さく言って歩き出した。


これ何時までやるのかな〜?


金ちゃんが立っていた場所に立ち
小石川君が来るか、照明が付けられるのを待っていると



「誰や!!」



財前君の叫び声が聞こえた。

少しして付けられた照明。


暗いのに慣れた目を数回瞬かせて、明るさに慣れさせる。




「どないしたんや財前!」



小石川君が財前君に駆け寄る。
何事かと、私も2人に近づく。


「今…俺の肩に手が触れた」


「ほんまか!」



どうしたのだろう。
2人は驚いた顔をしている。




「なぁ、どうしたん?」

「遠山!そこから動いとらんな?!」

「へ?動いとらんけど?」



財前の問い掛けに驚きながらも答える遠山。



「そこに誰か立っとったんか?」

「ちゃ〜んと肩に触ったで?」




黙り込む財前と小石川。




いったい何があったというのだろうか。

私が2人に声を掛けようとした時だ。



「ここから出るで!!」



荷物を持ち部室のドアを開ける財前。



訳が分からない、そんな私の手を引いて走り出す財前君。




「ちょ、財前君荷物持って来てへんよ?!」

「ええから走ってください!」



後ろから足音が聞こえるので、小石川君と金ちゃんも部室を出たのだろう。




雨の中を走り、昇降口へ駆け込んだ。



息を整えていると、小石川君が金ちゃんの手を引いて昇降口へ入ったのが見えた。




「亜加里、大丈夫か?」




心配の言葉と、私の鞄を差し出してくれた小石川君。



「あ、ありがとう小石川君。荷物持ってきてくれたんや」

「金ちゃんのもあったしな」



流石副部長。私達のも含め3人の鞄と金ちゃんの手を引いて走って来たのか。

感動しながらタオルで濡れた髪や制服を拭いた。




「なぁ、何でいきなり走りだしたん?小石川君も様子おかしかったし」



私が言うと、小石川君と財前君は顔を見合わせた。




「亜加里先輩。まだ気付かないん?あのゲームは、5人やないと回れんのですわ」

「5人?」




はぁ。と溜息をついて、私と金ちゃんの為に
ノートに図を書いて説明してくれた。





「ほら、遠山があの場所で誰かに触れるんはありえんのです」


「せやけどワイ肩に触ったで!」




私達の間に沈黙が流れた。



金ちゃんが触れたのは、誰の肩だったのだろうか。

財前君に触れたのは、誰だったのだろうか。





重い空気の中
階段を下りてくる足音が聞こえた。


私は咄嗟に金ちゃんの服の袖を掴んでしまった。
金ちゃんはそんな私の手を握ってくれた。



見えてきた足音の主は、財前君が待っていた忍足君だった。




「なんや自分等、びしょ濡れやんか!部室におるんやなかったんか?」



「ああ、ちょっと、な」



小石川君が言いづらそうに答える。










「あれ?もう1人どないしたんや?」










「え…?」










キョロキョロと周りを見ている忍足君。

私も周りを見るが、私達意外に人はいない。

昇降口に入った時も誰も居なかったはずだ。







「なにゆうてるんすか謙也さん」






財前君の顔が少し青くなっているように見えた。












「なにて、自分等の後ろにもう1人いたやん。
知り合いちゃうかったん?」












忍足君の言葉に心臓を掴まれたような衝撃を受けた。













居るはずの無い5人目。






私はゆっくり後ろを振り返った。






人一人、確かに私達の後ろに立っていたかのように







小さな水溜りができていた。













2010/12/02







どうして『山小屋のゲーム』なのか。
名前の由来は分かりません。
財前君が言った理由は、私が勝手に考えたものです。




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