ホラーお題 夢

□死体が語る始まりの夜
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部活が始まって少しして、注文していた新しいネットが届けられた。

だけど、今日は忙しくて予備のネットを倉庫に仕舞いに行かなくていけないのだが
部活終了後、行く事になってしまった。

片付けを済ませ、素早く着替えすますと鞄とネットを持って更衣室を出た。

テニス部は遅くまで練習をしているので日の長いこの季節でも
終る頃には薄暗くなっている。

倉庫は体育館の横にあり、バスケ部がまだ練習しているだろうが
倉庫に人がいるわけもなく、今から1人で行くのは少し怖かった。


「まぁ、いたらいたで怖いけど…」

「わしが代わりに行くで?」


私の独り言に返事をくれたのは、低い落ち着いた声。


「銀さん。…ほな、一緒に来てくれる?1人じゃ怖くて」


銀さんは言葉の代わりに頷いて、私が持っていたネットを
ごく自然に私の手から自分の手に移した。

銀さんのさり気ない優しさに頬を緩めて、一緒に倉庫へと向かった。

体育館は明かりが点いていて、まだ人が居る事が伺えた。

倉庫の扉を開けようと近づくと、少し開いている事に気付いた。


誰か居るのかな?


銀さんと顔を見合わせて、2人で扉を全開に開いた。


外から入る明かりで奥の物もうっすらと見える倉庫内に、女の子が1人。

携帯で光を当てながら何かを探しているようだった。



「なにしてるん?」


私が声を掛けると女の子は携帯を閉じてこちらを向いた。

同じ3年だと思うんだけど、見たことがない子だった。


「落し物しちゃって」


照れたように笑う彼女は可愛らしい顔で、声を聞くとどうやら関西の人じゃないらしい。

…転校生?でも、そんな話聞いたことない。


「こんな時間に1人で何探してるん?」


私は女の子に近づいた。
銀さんはネットを仕舞う為に、壁際の棚に向かう。


すると扉が動き、私達が来た時に開いていたくらいの間隔まで閉まってしまった。



「え?暗!銀さん!」


扉が閉まり、外から入る明かりが無くなり倉庫の中は真っ暗で
その僅かな間隔から入る明かりも頼りなくなってきている。


「亜加里はん、大丈夫やから落ち着き」

「うん…」



私の隣に光が生まれて

「大丈夫?」

と優しい声が聞こえた。


女の子が携帯を開いたのだ。



「ここの扉、押さえていないと閉まっちゃうみたいなの。
私も最初ビックリしたんだけど、押さえておくのに丁度いい物もないし…」

「だから携帯で照らしながら探してたんや…。1人で騒いで恥ずかしいわ、ごめんね」



女の子はクスクスと笑った。



「こっちは終ったで」

「あ、銀さんありがとう!私、残って探すん手伝お思っとるから、銀さん先帰ってええよ」


私の言葉に女の子が驚いた。


「え!そんな、いいよ!もう暗いし。私は大丈夫だから」

「せやかてこんな暗い倉庫に女の子1人なんて危険やん。
それに2人で探した方が早いやろ?…言えんような物やったら、扉開けて待ってるし」

「…キーホルダー。人から貰った、大切なものなの」

「そっか、なら急いで探さな」

「…どの辺で落としたか分かるか?」

「銀さん?」

「2人をおいて帰るわけにいかんやろ」

「ありがとう!銀さん」



扉に一番近い場所にいた私は、扉を開けようと
微かな明かりを頼りに扉に近づいた。



「…ありがとう。2人とも」


女の子がそう言った直後、ドアが完全に閉じた。


「あ!閉まった?!」


手を伸ばして扉に触れる。

開こうと力を込めるけど



開かない。



「なんで?開かへん」

「亜加里はん、少し下がって」

「う、うん」


扉まで来た銀さんに託して少し下がった。

銀さんが力を込めているのだろう。ガタガタと音はするけど扉は開かない。


「駄目や。何で開かんのや…」

「銀さんでも開けられんやなんて」


真っ暗な倉庫内。携帯の光で扉を照らし、3人の姿を確認するぐらいしかできない。


「あ、電話して助け呼ぼ。外からなら開くかも」


電話帳を開き、誰に電話すればいいか考えていると
倉庫の扉が開いた。

先程どんなに力を込めても開かなかったのが嘘のように、何の抵抗も無く開かれた
扉の前に立っていたのは、白石君だった。


「…自分等、何しとるん」


疑問と少しの呆れが含まれた声で訊かれた。



「白石君そのまま扉押さえとって!」


また閉じられては困る。と叫んだ。



「?ああ…。っ!」


外に出ようと思った瞬間、突然強い風が吹き
白石君を倉庫内へ押しやった。

倉庫内にいた私達も後退るほどの突風。

ガシャンという音に、閉じていた目を開けると
扉は再び固く閉じられ、闇に包まれた。



「白石はん大丈夫か?」

「ああ、おおきに」


姿は見えないけど、風に押された白石君を銀さんが受け止めたのかもしれない。


「なんやこれ、開かへんやん」


白石君も扉を開けようとしているのだろう、ガタガタと扉が揺れる音がする。


「わしも試したが開かんかった。外からは開くみたいやな」

「帰りが遅いと思ったら、閉じ込められてたんやな」

「白石君、待ってたん?荷物は持って来たから鍵閉めてもよかったんよ?」

「いや、亜加里に話さなあかん事があったん忘れててな。
銀と一緒に行くの見えたからすぐ戻ってくる思って待っとったんやけど
何時までも帰ってこんから見に来たんや」

「そうやったんか…」



沈黙が流れる真っ暗な倉庫の中は、空気が重苦しい。



「ごめんなさい。私のせいで、こんな事になってしまって」

「貴女のせいやないよ。私が勝手に手伝う言うたんやから。
ごめん、銀さん、白石君」

「誰のせいでもない。気にする事やない」

「あの…話が見えんのやけど」



1人話が見えない白石君に経緯を話す。



「とりあえず、人呼ばるしかないな」


白石君は自分の携帯を開くと操作する。

ぼんやりと照らされる白石君の顔が歪んだ。


「…圏外になっとる」

「え!そんな」


慌てて自分の携帯を見るけど、圏外の文字が表示されていた。



「叫んだら誰か気付くかな?」


私の言葉に白石君は首を振った。


「俺が来た時、体育館電気消えとったから誰も近くにはおらへんやろ…」

「…」



部活を遅くまでやっているテニス部やバスケ部も終ったのだ。
生徒は誰も残ってないだろう。

先生が居るであろう校舎はここから遠い。声が届くとは思えない。

扉は開かないし、窓もないから出られない。


「はぁ…」


溜息を吐いて、跳び箱らしき感触の箱の上に座った。


これからどうしよう。

皆も考えているのか、何も話さない。

すると、携帯がメールの受信を告げた。

メールが届いたと言う事は、電話がかけられる?!

携帯を開きアンテナを見ると1本だけ立っていた。

急いでテニス部顧問であるオサムちゃんに電話した。

数回呼び出した後にオサムちゃんの声。


「もしもし、オサムちゃん!体育館脇の倉庫に閉じ込められた!助けて!!」

「はぁ?何ゆうて…」

「倉庫の扉が開かないんよ!」


そこまで言うと電話は切れてしまった。
画面を見ると圏外になっていた。



「また圏外になってしもうた…」

「オサムちゃんには伝えられたんやろ?」

「うん。大丈夫やと思う」

「さよか…。後はオサムちゃんが助けに来るまで待つだけやな」



安心したような白石君の声をききながら、携帯を握り締めた。


よかった。繋がって本当によかった。







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