福本さん作品 夢

□毟って取ってできあがり
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「ひーろっ!」

「…んー」



ひろは興味無さ気にゆるい返事を私に返す。
目線は手に持つ新聞に注がれていて
私を見ることはない。


別に構ってほしいわけじゃないし
何時もの事だから気にしないけど

…2つほど気になることがある。



「ひろ…」



今度は寂しそうに呟いてみた。
そうすると、彼は私に振り向いてくれるのを知っているから。



「どうした――」



言葉を発する彼の口を塞ぐ。
驚く彼の表情を堪能しながら押し付けた唇を離す。

硬直している彼の腕を素早く拘束し、何処からか毛抜きを取り出す。



「おい…亜加里?」



ゆっくりとひろを床に押し倒し、体の上に跨った。



「じっとしててね?」



その時、私はいったいどんな顔をしていたのだろうか。
笑っていたことは確かだろう。

何とか私から逃れようと抵抗しているひろだが
手が拘束されている上に、私に乗られている為上手く動くことができないようだ。

私は手にしていた毛抜きをひろの顔に近づけていく。



「う、わ…やめろっ!亜加里!!」



嫌がるひろの頬に手を添えてじっと見つめた。

一瞬ひろの動きが止まる。

その隙に、私はひろの髭を1本抜いた…。



ブチニっ



「ぃっ――!!!」



あまりの痛さに歯を食いしばるひろ。
その為声は出なかったが、目には涙が溜まる。


その後も私は容赦なくひろの髭を抜いていった。



「あと、これも邪魔なんだよね」



仕上げ、とばかりに彼が掛けていた眼鏡を外す。










「…っていう夢を見たんだけどね?」

「……」



今朝見た夢の内容を恋人である井川ひろゆきに事細かに聞かせると
彼は私のことを殺人鬼でも見るような恐怖に染まった瞳で見つめた。



「あれ…ひろ?いや、夢の話じゃん。現実にやろうだなんて考えてないから!
確かに、髭はチクチクして嫌だなって思うし、眼鏡も…ねぇ?
似合ってるけど、邪魔だなぁって思う時も…」



彼女の言葉を聞いて勢いよく立ち上がると洗面所へと向かうひろ。



「ひろ?!ちょ、ひろーー?」



その日から、ひろは髭を生やすことはなくなった。

そして眼鏡もコンタクトに変えることになる。










「ひろ、か?…ずいぶん変わったな」



久しぶりに会った沢田さんに驚かれた。



「毟られるなら毎日剃りますよ…」



後にひろから事情を聞いた沢田はひろに同情したが


今の方がいいんじゃないか?


初めて会った頃のひろを思い浮かべながらそう思った。







毟って取ってできあがり






2011/09/10







今朝目覚めたら頭に浮かんだお話です。
最初末崎さんで書こうかと思ったんですが

『末崎さんから髭とグラサンとライオンパーカーを取ってどうするっ…!』

と思い直し、衝撃を受けた井川さんにしました。。。
でも、好きですよ。『ひげゆき』さんも。
 
 
 
 
 




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