福本さん作品 夢

□個性を出しすぎてしまった故の喜劇
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「おはようございます」



出社して一番に出会うのは、本部長か隼さん。



「おはよう、亜加里ちゃん」



今日は本部長だった。
優しい笑顔と声に癒されながらデスクへと向かう。


課せられた仕事を黙々とこなしていく。
途中、疲れて椅子の背凭れに背中を預け思いっきり伸びをする。

その際時計が目にはいった。

もうそろそろお昼になろうとしている。



そういえば…隼さん見てないな。

今日は外でのお仕事なんだろうか…?



お昼、ご飯を買いに行こうと財布を手に廊下へ出た。

少し歩いて、応接室付近に差し掛かった時
角を曲がって来た人物とぶつかった。



「わぶっ…!」

「っと…」



軽く当たっただけなので、転んだりという失態は起こさずにすんだ。

相手を見ると、眼鏡を掛けてスーツを着た若い男性だった。



誰だろう?見たことないな…。
新しく入った社員なら本部長から連絡来るだろうし…。


そこで私は息を飲む。




ここは応接室の近くじゃないかっ!!

ということは…お客様?!

失礼があったら社長に怒られる!




「大変申し訳ありません!お怪我はありませんか?」



私は素早く頭を下げ謝罪した。

相手の様子を伺うと、面食らったようにオタオタしていた。



「あ…いや、大丈夫だ」

「本当に申し訳ありませんでした」



相手が弱まっている隙に!ともう一度頭を下げてそそくさとその場を後にした。



「いやー、危なかった」

「何が?」



階段を下りながら呟いた独り言を、下の階から階段を上っていた本部長に聞かれていた。



「あ、本部長!今日ってお客様がいらっしゃる日でしたっけ?」

「…?ああ、何人か予定が入ってるけど」

「…そうですか。あ、それから隼さんは、今日は外のお仕事なんですか?」

「え?」



私が隼さんのとこを訊くと、本部長は不思議そうな顔をした。



「今日、まだ隼さんのこと見てないんですよね。
別に用があるってわけではないんですけど」

「亜加里ちゃん、隼さんなら…」



そこまで言いかけた本部長は、上の方を見て苦笑した。

後ろに何かあるのか?と思い振り返ったけど何も無かった。



「まぁ、外の仕事って言ったらそうかな」



苦笑いのまま、本部長はそう言って階段を上って行ってしまった。



何となくモヤモヤしたまま退社時間を迎えた。





今日は隼さんに会えなかったな…。





ダラダラと帰宅準備をしていた手を止める。





何?今の…?

会えなかったな…って何よ?会いたかったの…?

何残念がってんの?え?嘘でしょ?

恥ずかしい!何か恥ずかしい!!





「これじゃあまるで…」



「まるで…?」



誰もいないオフィスのドアが開いて問いかけられる。
入って来たのはお昼に出会ったお客様。




正直、何時までいるんだよ。まだ帰ってなかったのか。
何勝手に入ってきてんだ。聞き返すな。



色々思うところがあったがお客様だ。言えるはずもない。



「…あの、何か御用でしょうか?」



何とかそう返事したのに、目の前のお客様は笑い出した。



「プッ…ハハハッ!」





何コイツ…。失礼じゃない?急に笑いだすとか。

何なんだよ今日はろくな事無い。隼さんに会えないし、変な客に笑われてるし。
早く帰れ。あ、私が帰るんだった。よし、さっさと帰ろ。



未だに笑っているお客様を華麗に無視して横を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。



「チッ」

「おいおい、客に舌打ちはマズイんじゃねーか?」



ナチュラルに出てしまった舌打ちに驚いたが、目の前のお客様の声にもっと驚いた。



「まだ気付かないか?」

「…は、隼さん?」



嘘だ、そんなわけないじゃないか。
目の前のこの男性が、隼さんだなんて…。

だって、だって…



「その頭!!」



もっさりしたリーゼントはどうしちゃったんですか?!
取り外し可能だったんですかアレ!!



「あー、今日の仕事でちょっとな」

「…べ、別人や。アンタ、リーゼント取ったら別人や!
私の知ってる隼さんやないっ!!」



わっ!と泣きながら部屋を出て行く亜加里。

その後姿を呆然と見詰める隼。

そんな隼の背中を優しく叩く本部長。



「なんなんだよ…あいつ」

「…隼さんは何時も通りがいい、って事ですよ」









次の日、何時もの髪型で出社した隼を出迎えたのは
亜加里の眩しい笑顔だった。










個性を出しすぎてしまった故の喜劇









2011/09/13





本部長は、ちゃん付けで呼んでたらいいな。
ワシズ3巻の隼さんに衝撃を受けて、どうしても書きたかったお話。




 
 
 


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