福本さん作品 夢

□ヤクザを好きになりました
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最近私の友がおかしい。学校にあまり来なくなった。
夜の街によく出没するらしい。

『隣人がインディアン』などと某クリスマスソングのようなことまで言い出した。

何をやっているんだ受験生…。

友人からのひろ目撃情報を頼りに街を歩いていたら…
スーツを着たひろと、ヤクザさんに…出会った。



「え?!何で?ひろが…どう見ても堅気に見えないような人と…」



ひろの動向を見守っていると、白いスーツのヤクザさんと車に乗って
何処かへ行ってしまった。



…本当、何やってんだひろ。





数日後、学校にのこのこ現れたひろを拉致した。



「な、なにするんだよっ!」

「いいから、そこに座りなさい」



私はひろを屋上に連行し、ひろを座らせ私も向かいに腰を下ろした。



「ねえ、ひろ。この前ひろがヤクザさんっぽい人と車に乗って何処かへ行くのを見かけたんだけど」

「…だから何だよ」

「あの白いスーツの人だよ?本物のヤクザさんなの?」

「そうだけど。亜加里には関係ないだろ」

「あるよ!」

「あの人と付き合うな…とでも言う気か?」



不機嫌そうに言うひろは、溜息を吐いた。



「そんなんじゃないよ。寧ろその逆。

あの人の事を教えてほしいの!」

「……はぁ〜?」











あの後ひろは、自分の事は棚に上げ
あの人の事は忘れろだの、受験を控えてるんだから真面目に勉強しろだの
色々煩い事を言ってきたが、一つだけあの人の事について教えてくれた。

あの人の名は、沢田さんというらしい。

ひろも知り合って間もない為、あまり彼の事についてよく知らないと言う。

とんだ期待外れだ。




沢田さん、かぁ…。

白いスーツが似合うナイスミドル。

本当にああいう人がいるんだなぁ。

私の周りの、沢田さんと同じ年代と思われる方々は
皆おっさんへとジョブチェンジしていく…。

怖ろしい世の中になったものだ。





ある日の朝、学校へ行くと今度はひろに拉致された。

とうとう組に入ったのかっ?!

そう考えたが、ちょっと違った。



「組の代打ちぃ〜?!」

「ああ、沢田さんに誘われた」



なんでも『俺についてきな…』と言われたらしい。
羨ましい奴め。私も言われてみたいわ。
そんな事言われたらホイホイ付いてっちゃうよ。



それにしても…ひろが麻雀をやっている事も
結構強い事も知ってたけど、組の代打ちだなんて。



「そんな大役ひろに務まるの?」

「…沢田さんは認めてくれた」

「…くれぐれも沢田さんに迷惑かけないようにね」

「そっちかよ…」




学校が終わってから、久し振りにひろと街を歩いていたら
私達の横に車が止まった。

後部座席の窓が開かれ、そこから顔を覗かせたのは沢田さんだった。



「沢田さん!」

「ひろ、ちょうどよかった。お前を迎えに行こうと思ってたんだ。
悪いが今から付き合えねぇか?」

「はい、大丈夫です」



ひろが嬉しそうに答えると沢田さんは私を見た。



「悪いな、ひろを借りてくよ」

「あ、はい!どうぞ好きなだけ持って行ってください!」



急に話しかけられた事に焦った私に
ひろは呆れ顔で溜息をついて
沢田さんは笑っていた。


ひろを乗せた車を見送って、熱い頬を両手で押さえた。



やばい…。

沢田さん素敵過ぎる。










最近夜遅くに出歩くようになった…のは、恋をする者の宿命のようなもの。

私の場合、恋をしている相手が相手なだけに
遅い時間、人通りの少ないちょっと危ない場所なだけで

校門の前だとか、駅周辺などで
好きな人とばったり会えたりしないかなぁ〜。と思っている人達と何ら変わりはない。


まぁ、1人でこんな所歩いたりとか…そんな事は無いとは思う。

だけど、もし…会えたらいいな。

そんな淡い気持ちを抱えて、ひろから聞いた沢田さんとよく一緒に行く場所周辺など
見て回っている。

けれど、やっぱり、一度も会えた例は無い。

当然か…。怖いし、やっぱり危ないよなぁ。

今日で最後にしようと、深夜にコンビニへと行くついでに
最近ひろから聞いた場所へと向かってみた。

土地が何やらで揉めてるとかなんとか。
私には分からない話だ。



コンビニに向かいふらふらと歩いていたら
暗闇に浮かぶ白いスーツが目に入った。



嘘…もしかして、沢田さん…だったり?
最後にしようと思った日に出会えるなんて…これは運命…ん?


沢田さん…らしき人は細長い何かを持っていた。
視線の先には大柄の男性が。

男性に呼ばれて、出てきた人影は…沢田さんだった。



「ひろゆきは?………」

「部屋で休んでるよ まあ今晩は寝れねえだろうな…」



ひろ、麻雀してたのかな?


沢田さんは男性に話しかけながら持っていた細長い物を取り出した。

街頭に晒され光るそれは…長ドス、と言われる物だろうか?





…沢田さん、もしかして…それで男性を斬るつもりなの?!





「他人の為に… どうして体を張る?」





構える沢田さんを前に、男性は自ら壁を背にした。

まるで斬られるの待っているようだった。



周りに人はいない。


どうしよう…緊張と恐怖でただ見ている事しかできなかった。



沢田さんは男性の胸を大きく斬ったように見えた。
勢いよく噴出す血。

真っ白なスーツに真っ赤な血を浴びる沢田さん。


私は声を出さないように口を手で抑えて2人を見つめた。


斬られた衝撃で男性はバランスを崩し、倒れた拍子に頭を打ってしまった。



「天!?」



沢田さんは焦ったように屈んで男性の様子を見ている。


私は沢田さんの行動に違和感を覚えた。

震えていた足を叩いて何とか動かし、隠れていた物陰から飛び出した。



「!誰だ!?」

「沢田さん!!」



沢田さんの鋭い視線と声に一瞬怯んだが、私は沢田さんへと駆け寄った。



「ひろと一緒にいた…」

「私が救急車を呼びますから、沢田さんは早く行ってください!」



こんな所誰かに見られたら沢田さんが!
私の頭の中はそれだけでいっぱいで、でも意外と冷静でいる自分に少し驚いていた。


沢田さんは私を物言いた気に見てから舌打ちをした。



「…後は頼む!」



そう言って走って闇の中へと消えてしまった。

私は急いで公衆電話へと走り、救急車を呼んだ。


男性の下へと戻り、救急車が来るのを待っているとすぐにサイレンの音が聞こえてきた。

知らない人だったが、連絡したのは私だったので
病院まで付いて行く事になった。



「天!!亜加里!!」

「ひろ!」



顔面蒼白のひろが私達に駆け寄った。
きっと沢田さんに聞いたのだろう。

2人で付き添いの為一緒に救急車へと乗り込んだ。


車内では、ひろが沢田さんに付いて行った事を後悔していたが
意識を取り戻した男性が、沢田さんと出会った事は幸運であった、と。
彼は優しい人だ、とひろに話した。


私も、あの時動けたのは
そんな沢田さんの優しさが伝わったからではないか、と思う。



病院に着いて男性が治療を受けている間、私はひろに怒られていた…。

何で私がひろに怒られなくてはいけないんだ。
怪我をした人がいたから救急車を呼んだ。
当然の事じゃないか。

何であんな時間にあの場所に居たのかと訊かれたけど
言えるわけもなく黙っていたら、男性の治療が終わったようだったので
ひろに任せて急いで病院を出た。





3日後、学校にやってきたひろが神妙な顔で私の席の前に立つから何事かと尋ねたら

「沢田さんが亜加里に会いたいって」

なんて爆弾を投下するもんだから

今朝適当に直してきた寝癖が再び跳ねた。









2011/10/04






沢田さんが好きで、書いてしまいました…。
全3話予定です。お付き合いいただければ幸いです。




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