福本さん作品 夢

□恋に先見の明は発揮されない
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2月13日の夜。



「…、明日はバレンタイン、か」



綺麗にラッピングされた箱が3つ。

1つはワシズ様へ。

もう1つは本部長に。

そして…隼さんに。


ワシズ様と隼さんは仕事で出掛けているが、明日には帰ってくると
本部長が言ってた。

あぁ…緊張する。

受け取ってくれるだろうか…?





次の日。

出社して一番に本部長を探す。



「本部長ー!」



廊下を歩く後姿に声をかけると、いつもの優しい表情で振り返ってくれる本部長。



「どうしたの?亜加里ちゃん」



ニヤニヤと笑いながら背中に隠すように持っていたチョコを本部長に差し出した。



「いつもお世話になっています!」



本部長は驚いた顔をして

「ああ…そうか」

と、今日がバレンタインデーだという事に気付いたようだった。



「ありがとう」



笑顔で受け取ってくれる本部長に、ますます顔がニヤけた。



「ワシズ様と隼さん、帰ってるよ」



本部長には私が誰にチョコを渡すかなんて分かりきっている事で
教えてくれた事にお礼を言って、社長室へと向かった。



「義理…、か」



苦笑する彼の声は、亜加里には届かなかった。







コンコンッ

社長室のドアをノックする。



「ワシズ様、亜加里です」

「入れ」

「失礼します」



中に入るとソファに深く腰掛け、眠そうに欠伸をするワシズ様がいた。

私はワシズ様の横へ回った。



「お疲れ様です、ワシズ様。…あの、これ良かったら、チョコなんですが」



チョコ、と言う言葉に小さく反応したワシズ様。
やっぱり甘いものは苦手だっただろうか。



「あまり甘くないチョコを使用しました」



ワシズ様は私を見てニヤリと笑い、チョコの箱を掴んだ。



「頂くとしよう」

「ありがとうございます!」



笑みが気になるが受け取ってもらえた事に安堵した。




亜加里が社長室を出た後、ワシズは受け取ったチョコの箱を眺めた。



「そんな行事もあったな。…ククッ、隼に悪い事をした」









亜加里は隼を探し回った。

隼がよく使う部屋を覗くとソファで寝そべる隼を見つけた。



「はーやぶーささんっ!!」



隼さんを起こすように体を揺さぶった。



「…何だよ」



眠そうに目を少しだけ開けて私を見る隼さんにチョコを差し出した。



「何だ…それ?」

「…チョコ、です」



隼さんは、ウッと顔を顰めた。



「あ…チョコ嫌いですか?」



隼さんは体を起こすと嫌そうに頭を掻いた。



「嫌い、じゃないが…食べたからなぁ。暫くはいらないな」

「……」



ふぁ…と欠伸をし再び横になった隼に、肩を落とし部屋を出て行く亜加里の姿は見えていない。



「どうしたんだ?行き成りチョコって…亜加里?」



隼が部屋を見渡した時、肩を落として歩く亜加里を見つけた本部長が声をかけるところだった。



「亜加里ちゃん?」



彼が声をかけると泣き出しそうな顔で亜加里が振り返った。



「本部長…隼さん、チョコ食べたからいらないそうです。
…うぅ、暫くいらないほど食べたそうなんです」



グスっと鼻を啜る亜加里の頭を撫でる。



「…ワシズ様は受け取ってくれたのに。他の人から貰ったなんて…。
だから私のチョコはいらない、なんて…酷すぎるじゃないですかぁ」



とうとう泣き出してしまった亜加里。
走って何処かへと行ってしまった。



「隼さん」

「ん?」



今度は何だ?と目を開けた隼の前には呆れかえった本部長の姿があった。



隼の頭には『バレンタインデー』と『亜加里の手作りチョコ』という言葉がグルグル回っていた。

飛び起きた隼が亜加里を探して辿り着いた先は屋上。

ベンチに座り遠くを眺める亜加里に近付くと、膝の上に乗せている箱の中身が半分になっていた。



「それ!俺にくれるんじゃないのか?!」

「え?隼さんいらないって言ったじゃないですか!!」



言葉に詰まる隼。
チョコに伸ばされる亜加里の手からチョコを奪った。



「あっ、何するんですか!」

「…悪かった」

「え?」



隼は本部長に言われるまで、今日がバレンタインデーだという事に気付かなかった。
亜加里がチョコを持ってきたのは、誰かから貰って一緒に食べようと言われているのだと思ったのだ。
終えたばかりの仕事で、証拠隠滅の為食べたコインチョコ。
元々甘いものが得意ではない為、差し出されたチョコを食べる気になれなかった。

だが、亜加里の手作りなら話は違う。

隼は理由を話し、亜加里の誤解を解いた。

亜加里も隼の話とワシズの反応に納得した。



「しっかし…食べたな」



半分の量にまで減ってしまった箱の中の可愛らしいチョコを眺めて溜息が出てしまった。



「最初は隼さんへのイライラで食べてたんですが
…食べてたら美味しくって、つい」



ハハハ…と苦笑する亜加里。


まぁいいか。とチョコを1つ食べる。


やっぱり甘いな。





隼が亜加里からのチョコを義理だと思っていた事が分かったのは
1ヵ月後のホワイトデーだった。










に先見の明は発揮されない










2012/02/15





14日に間に合わなかった。。。
麻雀列車のお仕事を終えたワシズ様と隼さん、という事で。
探偵シリーズ好きです。






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