福本さん作品 夢

□兄と私の裏事情 〜下校編〜
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騒がしい放課後の教室。

溜息を吐いて、1人昇降口に向かう。


私が1人で歩いているのも、溜息の原因も…全て友達のせいだ。


友達が今日は彼氏と一緒に帰ると言ったので
『そっか』と気の無い返事をした私に友達は

『亜加里も彼氏つくったら?』と言ってきたのだが
私にはその気が無いし、つくろうと思ってできるものでもないだろう。

『そのうちね〜』と返した私の態度が気に入らなかったのか
友にはこの後私に起こる出来事が分かったのか

『亜加里はカッコイイお兄さんがいるもんね〜
その辺の男に興味ないか』

そう言って笑いながら私の前からいなくなった。


…確かに兄は顔は良い。…顔は。
大事な事だから2回言いました。

性格に難アリ…なのだ。

勤めているのは裏カジノ。

裏が付いてしまっている。

そのカジノの店長だ。

怪しすぎる。

誰かに兄の職業を訊かれたとしても
裏カジノの店長をしています!
などと言えるわけがない。だって裏だもの。


まぁ、その裏で稼いだ兄のお金でこうやって高校に通わせてもらっているわけだし
その事に関しては文句は無いのだ。

兄が選んだ事だし、店長になるまでの兄の努力も知っている。

問題はもう一つ…。



昇降口を抜けて校門へと向かう。

なんだか騒がしい。

…嫌な予感しかしない。

私はこの喧騒を知っている。



『カッコイイ』 『誰か待ってるんだよね?』
『ええー誰?!』 『あ!私見た事あるよ!一条さんが前一緒に帰ってた』

『誰?一条って』



私だよ!私の兄だよ!何でいるのよ!

あれ程言ったのに!!



このまま裏から帰ろうかと思ったが、何か用事があるのかもしれないし…
あのまま見世物にしておくのも気が引ける…。


私は騒ぎの中心人物の元へと急いだ。

兄は校門の壁に寄り掛かり腕を組んで立っていた。

こんなにも騒がれているのにまったく聞こえていない、というように涼しい顔をしている。


凄く嫌な顔をしていたおかげか、兄はすぐ私に気が付いた。



「亜加里!」



…やめてくれ。

笑顔で私に手を振るな。視線が一気に私に集中する。


無言で兄の手を掴むと早歩きで学校を後にした。



「どうしたんだ亜加里」




お前がどうしたんだ。

そして当たり前のように手を繋ぐな。



「どうしたはコッチの台詞。何か用事?」

「用事がないと来ちゃいけないのか?時間が空いたから迎えに来た」

「…兄さん、学校へは来ないでって言ったじゃない」



カジノへの道程を歩きながらなされる会話。
勿論手は繋いだままだ。

…兄が離さない。



「それが間違ってる。何で行っては駄目なんだ?
…まさか!男でもいるのか?!」



何を勘違いしているんだ?

吃驚して手を握る力を少し強くした兄の腕を叩いて抗議する。



「…悪い」



力は緩めたけど離さない…。



「で…?」



『で…?』って。



「いるわけないでしょ?…兄さんが来ると騒がしくなるし
私の兄さんだって知られると、紹介してほしいって言われるから嫌なの」

「ふん、子供に興味はない」



はいはい、知ってますよ。



「それは知ってる。だから私もちゃんと断るけど…面倒だからやめてって言ってるの」

「…学校では俺が亜加里の兄だという事は知られていないんだな?」

「まぁ…言ってないから」

「なるほどな…」



何か企むような兄の顔は見慣れているからそのまま放置した。










「はい、亜加里ちゃん」

「ありがとう村上さん」



村上さんが淹れてくれた紅茶は本当に美味しい。

あの日から兄がほぼ毎日学校に来るようになった。

おかげで 「毎日彼が出待ちしてる!」 と噂されるようになった。



彼氏じゃねぇよ、兄貴だよ。



「『ろくでもない男が寄り付かなくていいだろ?』

って言ってたよ…?」



苦笑いの村上さん。



「寄り付かれた事なんてありませんけどね」










2012/09/10









店長だったら兄妹設定もいいかなぁ…と。
シスコンだったらいいなぁ…と。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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